第二章 追いかけて来たの!?
そんな仮説を立ててから、早三か月……いや、もっと
認識阻害の魔法を
もちろんただお話を聞くだけではない。ご年配の
そうやって地道な情報収集を行う一方で、冒険者としてとにかくたくさんの依頼をこなしたのには、いくつかの理由がある。
まずひとつめは、冒険者としてのランクがB以上になれば、より高位の魔術師に師事できること。上位の魔術師のお師様、そのお師様とたどれば、王家のお
ふたつめに、ギルドの
そしてみっつめに、領主様からの依頼を何度もこなすことで
この三か月あまり、領主様もしくはそれに連なる方々の依頼案件は
おかげさまで私はさほどの苦労もなく領主様の依頼を入れ食い状態で受けることができている。
今日はその
病気の娘さんの痛みの
「君がキー・セイバル君かね?」
領主様の館に
一年以上前、まだ聖女として
複雑な気持ちでいたら、領主様も
「いや、驚いた。まさか君のような
心の中で文句を言ったけれど、もちろん口に出せる筈もない。社会人標準装備の営業スマイルをここでもしっかりと発揮し、私は無事に領主様の館に入ることができた。
いやホント、なにしろここの領主様ときたらびっくりするくらい根が
なのに病因がわからない。
こんなに大きなお
あの時も本職のメイドさんは少なくて、
娘さんは今日も熱が出てしまったそうで会うことはできなかったけれど、私はなんだか同情してしまった。だって、ずっとずっとその子のために薬草を納入し続けてきたんだもの。
なんとか、してあげられないかなぁ……。
もしかしたら、私の浄化の力や回復魔法で、彼女を少しでも快方に向かわせてあげることができるかも知れない。案内された書庫の中でひたすら本をあさりながらも、私はそんなことを考えていた。そうやって
「……?」
何か、外が
馬のいななき、複数人の乱れた足音。必死で止めるような声。
私は本を閉じて、
ここまで案内してくれた品のいいお爺ちゃん
「すみません、キッカさん! 風よ、かの者の
聞き覚えのある声がしたと思った
は? え!? なんで!? 何が起こったの!?
「え……あ、封じられました! 封呪、成功です!」
「よくやった、あとで褒賞をとらせよう」
扉から続々と入ってくる姿を見て瞬時に転移を試みたけれど、案の定、封じられて
「すみません、キッカさん……」
消え入りそうな声でリーンが
今は
なんなんだ、はっきり別れを告げて来たって言うのに、一体何の用があるんだよ。どうやって居場所を知ったかわからないけど、用があるなら伝令でも飛ばせばいいじゃない。
何も第二王子自らが、クルクル
言っとくけど私、全然赦してないんだからね!
言いたいことがたくさんあるのに、
「
え……? 領主様?
「
驚きで思わず見上げたら、領主様は
ハッとした。
彼のような立場の人が、王族に真っ向から意見することがどれだけ難しいか。ただでさえ財政的に困窮しているのに、私のせいで立場まで悪くするわけにはいかないよ。
だって、奥様も病弱な娘さんも、そしてヴィオたちこの地に住む人たちも、領主様の
「ありがとうございます、領主様。ご
一言詫びて、私は認識阻害の魔法を解いた。
「………!
「そういうことだ。悪いが彼女と話がしたい、部屋を用意しては
私たちに応接室を開放し、心配そうな表情のまま退席する領主様を見送る。申し訳なくて頭を下げたら、さらに後ろ
ついに観念した私は、何度も何度もまばたきして涙を引っ込めると、悔し
「今さら何の用があるか知らないけど、
ツン、と
「も、もしかして、日本に帰る方法が見つかったの!?」
そうか! それならわざわざ来てくれたのもわかる! 生意気言ってごめんなさい!!!
心の
「そんな期待に満ち
心底気まずそうに目を
「じゃあ何なのよ、もう用はないでしょ。ちゃんと浄化は終わったんだし」
「何言ってんのさ……」
なぜか一心に床を見つめている様子で、顔は見えない。
「早く用件言ってよ、私こう見えて
「何?
せっかくスルーしたのに、クルクル金髪巻き毛が床を見つめたまま会話に参戦してきた。あんたが話すとイラつくから、ちょっと
「別にいいでしょ」
「バカじゃないの!?」
キッ! と顔を上げて私を
なによ、何泣いてんのよ、私が
初めて見る泣き顔に若干
私が自分を落ち着かせようと努力しているというのに、敵は
「バカじゃないの? 何でこんなに傷だらけになってんだよ!」
あっと言う間に間合いを詰めてきたかと思うと、私の腕をグイッと
「ちょっと!
「ここも! ここにもある!」
「別にこれくらいの傷、かすり傷じゃない!」
「僕が
怒り心頭、といった
「……守って貰った覚え、ないんですけど……」
「はあ!?」
口からポロッと本音が転がり落ちた
ちょ、
性格はどうあれ、顔だけは天使みたいなんだから、そんな表情はしたらイカンと思うよ?
な、なによ。なんでまた泣きそうなのよ。ちょっと
「……これだから、無学な女は
水をかけられた
だからさ、なんなのよ!
クルクル金髪巻き毛が出て行った後の応接室は、なんとなく
「ロンドの
「はぁ……そうですか」
「ロンドは結界師なんだ」
「結界師?」
そんなの、聞いたことないけど。
「命に
「えっ……」
「あまり
居た。
確かにいつも側にいた。
アンタもたまには戦いなさいよってメッチャ思ってた。
「一度結界を張ると解除するまで結界師はその場を動けない。ゆえに、一番危険なのは身を守ることもできない結界師だ。まあ、だから私が常に側で
なるほど。聖女が死んだらはい次、って異世界からまたすぐに
でもさ。
「そんなの、今初めて聞いたわよ……!」
「そうだ、キッカに説明していなかったのはこちらの落ち度だ。だが、ロンドとてそれだけの
そう言われて、私は逆に、急に腹が立ってきた。
「何よそれ、私が悪いって言いたいの? 謝れとでも?」
勝手に召喚して、勝手に命をかけて守ってるんだから、もっと感謝しろって?
ホント、最低。
「いや、そうは言っていないが」
「じゃあ何? もうさぁ、いいから早く用件言ってよ。私だって
「そのように
「時間が
もはや敬語すら使う気になれないしね。王城から転移で逃げたあの日から、怒りが増すことはあっても減ることはない。はっきり言って、あんたたち権力者のどこまでも身勝手なやり方、本当にもううんざりなのよ。
「わかった、用件はひとつだ」
大きく息を吸って、覚悟を決めたように、ダメダメ第二王子は切り出した。
「私たちの中の
「ふざけんな」
スゴイ、頭がダメダメ第二王子のアホ発言を理解する前に、口が勝手に答えてたわ。
「私、はっきり言ったと思うけど。あんたたちと結婚する気ないって」
「すまないが君の気持ちがどうあれ、聖女である君が私たちの中の誰かと結婚し子をなすのは、
「…………」
なにその古式ゆかしい、人を人とも思わぬ決定事項。ドッキリじゃないよね、いやまさか、本気でそれ言ってんの? 見なさいよ
「君の中の浄化の力が子に引き
「うわぁ……
多分、私。
今、魚が死んだような目をしてると思うわ。はからずも心の声もストレートに出ちゃったし。
「君がそう思うのも無理はない。しかしこの世界にとって、これは絶対に必要なことなのだ」
「……聖女は旅が終わったら結婚して子供を産んで、この世界で幸せに暮らしましたって伝説の真相がそれ? うわー、ないわー」
「大切にする。君の望みは極力
言葉が通じるのに、話って通じないもんだねえ。
なんかお
「なるほどね、帰る手段の伝承がない筈よね、帰られたら困るんだもの。でも今の話で帰る手段はきっとあるってなんか自信持てたわ」
にっこり笑えば、ダメダメ第二王子は寸の間ぽかんとした顔をして、すぐに「キッカ!」と必死な形相になった。
「今の話でいくと、私の子供がいればいいわけでしょう? 自分の相手くらい自分で見つけるわ。こんなところまでご苦労様、私に
っていうのは方便で、なんかもう
とにかく何でもいいからもう
「……それは、だめだ。この五人の中でないと」
「へ?」
「ロンドが言っただろう。この五人はこの国で最も
「トップブリーダーか」
なにその発想。なんか、すごいな。
「言ってて最低だなって思わないの? 周りで聞いてるあんたたちもさぁ、バカバカしいなって思ってるでしょうよ!」
言ってるうちにヒートアップしてきた。だってさ、ダメダメ第二王子の言い分はそりゃもう
「なんで黙って聞いてんのよ! そんなに王家が
キレた私に、グレオスさんが思いもかけない言葉を口にした。
「俺は……」
「俺は、キッカが俺を選べばいいと思っている」
「え」
「キッカはずっと日本に帰りたがっていた。だから何も言わずに見守ってきたが、本当はずっと、キッカがこの世界に残ればいいと思っていた」
「なにそれ」
「キッカを妻にするチャンスが自分にもあるのなら。そう思ってこの旅に同行した」
旅の間、そんな
「すぐに決めてくれとは言わない、真剣に、考えてみてはくれないだろうか」
私がどう返せばいいのかわからずに
「キッカ、ここに来てるやつらは
「アルバ」
「グレオスに先こされちまったが、俺やリーンだってお前と運命を共にする覚悟でここに来てるんだぜ?」
「い、いやいや、あんたたちホント、もうちょっと自分の人生ちゃんと考えた方がいいよ? 言われるとおりに結婚したって絶対
アルバがいつもみたいに軽い調子で割って入ってくれて、私はやっと声が出た。いやあ、びっくりすると
「そこまでだ」
「君の転移魔法の祝福はリーンにずっと
その言葉に、私もやっと自分を取り
悪いわね、ダメダメ第二王子。答えはもう出てるの。私は王都には帰らない、絶対に日本に帰るんだって。
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