「テントの種類ってなにがあるの?(二)」

「それで、とまりんが買ったテントはどれなんだ?」


 赤面状態から普通の褐色に戻った晶が、泊の机に両腕で頬杖をつきながら少ししゃがみこむ。


「こん中にあるのか?」


 そして目線で雑誌のテント特集記事を指し示した。


「この中にはない。わたしのはワンタッチ型のテントだし」


「ん? ワンタッチ? さっき言った種類にはなかったじゃんか! 謀ったな、とまりん!」


「謀ってねーよ。さっきのは基本の話で、ワンタッチはいわばドームの派生だ。それにジャンルわけ自体もいろいろとある。例えば、目的。ツーリング用とか、登山用とかそういう分け方もあるわけ。他にも前室ありとか、ツールームタイプとか……」


「ツールーム? 部屋が2つあるんか?」


「ほむ。普通は細長いフライテントの中に、寝室となるインナーテントがとりつけられて、それ以外の部分はリビングやダイニングキッチンとしてスクリーンタープ的に使える感じ」


「……よくわからん」


「ほむ。……例えば、これがそう」


 黒縁のダテメガネを少し押しあげながら、泊は雑誌を指さした。

 そこにはまるでカマボコのように細長いトンネルのような形をしたテントの写真が掲載されている。


「なるほどねー。リビング・ダイニングつきかー」


 それをみて、遙もフワフワの髪を揺らして首を傾げる。


「つまりー、【1LDKテント】ねー」


「ほむ。まあ、そう言えるかもしれないけど……」


「あー。それならー、【庭付き5LDK駐車場・床下収納・ウォークインクローゼットありテント】とか【二世帯対応オール電化テント】とかあるかもー?」


「あるわけねーよ!」



△▲▽▼△▲▽▼△▲▽▼



「あるわきゃねーよなぁ~。5LDKのテントなんて、どんだけでかいんだよ」


 晶が笑うが、遙は真顔だ。


「えー? そんなに大きくないでしょ、5LDKってー。本宅にある私のスペースぐらいじゃないー」


「黙れ、ブルジョア。我が家は3DKで庭なしだ!」


「あらー。なら、うちの庭にテントでも張って住むといいわよー」


「バカにしやがって牛女!」


「……ほむ。それは楽しそう」


 泊まで真顔になり、顎に手を当てて一考し始める。


「いやいや、待てよ。いくらなんでも遙の家の庭だぞ。友達の家でキャンプって……」


「でも、遙のうちの庭、林もあるし、かるく迷子になれそうなぐらい広いじゃない。それにあそこなら不審者も入ってこないだろうから、安全にキャンプできそう」


 そう言われればと、晶も遙の家に行ったことを思いだす。

 確かに門から建物まで車で行くと言う冗談のような敷地ではあった。

 そして、その防犯設備も凄まじいらしい。

 多くのカメラから、謎のセンサーまで揃えられているらしく、蟻の子一匹見逃さないと遙の父が豪語していた。


「ほむ……。でも、トイレや水場はないし、お風呂も困るか」


「ならー、トイレも露天風呂も作っちゃうわよー。もちろん監視カメラで、セキュリティもばっちりよー」


「…………」


「んー? どうしたのー、とまとま?」


「一番の不審者がここにいたわ」


「だな……」


 泊と晶の視線が、遙に向けられる。


「ひどっ! トイレと露天風呂の監視カメラを見るのは私だけよー」


「なんで自分だけはいいと思ってんだ……」



△▲▽▼△▲▽▼△▲▽▼



「ちなみに最初から5LDKのテントとかはないけど、テントとタープが合体できる製品はあるみたい。よくあるのはテントとスクリーンタープが合体するタイプだけど。この雑誌には載ってないね」


「へー。でも、くっつけられるのはおもしれーな! 秘密基地みたいでワクワクするじゃん」


「ほむ。晶ならわかってくれると思った」


 泊と晶は、がっしりと握手を交わす。


「そういえばー、話はそれたけどー、とまとまのテントはどんなのなのー?」


 頬杖をついた遙の問いで、泊はすっかり忘れていた話題を思いだす。


「ほむ。そうだった。わたしのワンタッチテントは、テントの天辺部分についている紐を引っぱるだけで立ちあがるテントなの。ちょっと力はいるけど、すごく簡単。構造的にはワンタッチの折りたたみ傘みたいな感じ」


「へぇー。ぶきっちょな、とまりんにぴったりじゃん」


「晶、市中引き回しの上、獄門に処する」


「処罰が重すぎるだろう!?」


「ちなみに立てるのは簡単だけど、しまうのが意外に面倒。折りたたみ傘でもきれいにしまうのは、きちんと生地の部分をたたまないといけない。テントも同じなんだけど、傘のようにきれいな円形じゃないのでたたみにくいのだ。なので結局、適当にまるめてしまう」


「ふーん。でも、さっき言っていたロッジ型とかよりも簡単なんだろう?」


「そうかもしれないけど、ロッジ型はたたむ時、脚をはずしたあと、屋根の骨組みの上でフライシート……外側の生地をたためるので、地面にあまりつけず綺麗にしまいやすい……らしい。他のテントだと、フライシートを汚さないようにたたむのがなかなか難しいとか。グランドシート……テントの下に敷くシートの上でたためばいいらしいんだけど」


「なーんだ。やっぱ、テントはどれも面倒なのか」


「まあ、ポップアップテントは簡単。浜辺なんかでみる、広げるだけのテント」


「ああ、あれか! 丸くたたむやつ。確かに簡単だよな、あれ」


「でも、基本は休憩用だね。寝るほど大きいのはたたんでも結構でかくなるし、生地も薄いし……泊まるのは心もとない」


「へー。とまとま、詳しいー。それも自分で調べたのー?」


「ほむ。これはソロ……キャンプ中に、詳しい人にちょっと聞いた話」


 そこで気まずそうに、泊は顔をそらしてしまう。

 彼女の脳裏に浮かんだのは、一人の男性の姿。

 しかし、それを二人に悟られるわけにはいかない。


「……とまとま? どうかしたー?」


「ほむ? どうもしないけど……」


「ふーん……。でもー、最近、たまにボーッとしていないー?」


 ギクリと泊は顔を引きつらす。

 マイペースそうな遙だが、心の機微、特に泊に対して異常に敏感だった。


「とまとまー?」


「な、なんですかな?」


「私たちにー、なにか隠してないー?」


「な、なにかとはなんどすかな?」


「例えばー……男のこととかー?」


「…………」


「…………」


「べ……別になにもないざます」


(なんかあったわねー……)


(なんかあったな……)


 動揺すると言葉遣いが変わってしまう、嘘がつけない泊であった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※参考資料:話に出てきた物の写真等が見られます。

http://blog.guym.jp/2019/01/scdnn-002.html

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