「テントの種類ってなにがあるの?(三)」

「とまとまー、ご飯食べながらなんて行儀が悪いわよー」


 遙の注意に、泊はお気に入りの「ふんわり炒り卵のサンドイッチ」をパクつきながら「ほむ」と答える。

 でも、片手で開いているキャンプ雑誌を閉じることはしない。


 急な雨の昼休み。

 教室で机をくっつけて、泊たち三人はいつも通りにそれぞれの弁当を食べていた。


 毎日、自分で手作りしてくる晶の弁当は、いわゆるのり弁。

 焼き鮭とハンバーグに卵焼きと王道。


 最近になって手作りになった遙の弁当は、どこかオシャレ。

 パスタ、温サラダ、一口ミートボール……やたらにいろいろな種類が、少しずつ詰まっている。


 だが、まだ料理らしい料理が作れない泊は、相変わらず学食の売店で買ってきての昼ご飯だった。


「まだテント紹介、見てんのか」


 晶が横目で雑誌を一瞥した。


「ほむ。わりと楽しいんだ。自分がそのテントに泊まって過ごしているシーンを頭で想像するとワクワクする」


「ふーん。キャンプなんてそんなに楽しいかねぇ~……」


「ぶっちゃけ、わたしもなにが楽しいのかわからんけど、行きたいと思ってしまう」


「……あぁ~あ。とまりんキャンプにとられるとはなぁ……」


「ほむ?」


「なーんでもねーよ~ぉ~」


 卵焼きを大きいまま口に含みながら、晶が顔をそらす。

 その様子に、遙がクスリと笑った。


「晶ったらー、とまとまがキャンプに夢中で、キャンプにヤキモチなのー?」


「ちっ、ちげーよ! んっなわけねーし!」


「ほむ。なんだ、晶。かまって欲しいのか。……ほれ。卵サンド、一口やろう」


「ペットの餌付けかよ!」


「なら、代わりに晶のそのハンバーグを丸々わたしにくれ」


「――代わりってなんだよ! おまえがハンバーグ、食いたいだけだろ!」


「ほむ。そうだが」


「呆れるぐらい堂々とした食いしん坊だな……」



△▲▽▼△▲▽▼△▲▽▼



「ところで、とまとまー。その空気入れをつなげているテントは、なーにー?」


 食事が終わった遙は弁当箱を片づけながら、泊が見ているページを見つめる。

 そこには白く太いフレームで包まれるようなドーム型のテントがあった。

 そしてそのフレームには、なぜか空気入れから伸びるホースがつながれている。


「ほむ。これはエアーフレームテントというらしい。金属フレームがなくて、なんでもフレームは空気を入れて膨らませるタイプだそうだ。つまり膨らませれば完成」


「へー。簡単だけど、すぐ壊れそうねー」


「そうでもないみたいたぞ。けっこう丈夫で、メーカーサイトを見ると風にも強いとか。まあ、空気入れは必要だけど、電動空気入れも最近のはコンパクトなのもあるし……いいかもしれない。ただ大きいサイズしかないんだよなぁ」


「なるほどねー。要するに棒状の風船に吊されているテントなのねー」


「そう言われると頼りなさそうだが、そんな感じか。しかし、面白テント特集か……いろいろあるなぁ。丸いのもあるぞ」


「本当ねー。転がらないのかしらー。……そっちの蝶の蛹が寝ころんだみたいなのはー?」


「蛹って……たしかに見えなくもないな。……ああ。これはコットという軽量小型の折り畳みベッドに、蚊帳のような感じでテントがくっつけられるやつみたい。完全お一人様が寝るだけ用か。アウターを取ればメッシュにできるから、まさに蚊帳つきベッドになるな」


 泊が指さす先には、そのテントの分解説明が載っていた。

 まるで担架に足がついたような簡易ベッドであるコット。

 それにかぶせるようにフレームでテントができるようになっている。


「あらー面白いわね。……あっ! そのピンクのテントはなーにー? H型しているわー」


「ああ、これか。これはDOD製の『友達以上、恋人未満用のテント』らしい」


「はぁ~? なんじゃ、そりゃ」


 あまり興味を示していなかった晶も、泊の説明に思わず身を乗りだす。

 雑誌に載っていたのは、蛍光色の強いピンク色をした、まさにH型の低いテントの写真だった。


「なんじゃ、これ……」


「ほむ。Hの左右に1人ずつ寝て、真ん中は共有部分として使うなどらしい。一緒にキャンプには行くけど、まだそういう関係・・・・・・じゃない……みたいな時用か」


「なるほどねー。確かにそういうこと・・・・・・するには、ちょっと使いにくいわよね-」


 という遙の言葉に合わせるように、泊も彼女と一緒に晶を見つめる。

 果たして、晶は両手で頬を包みながらも、顔を真っ赤にしていた。


「そっそっそっ、そういう関係……そういうこと……って! 二人ともなに言ってんだよ! そんなことばかり言っていると、お嫁に行けなくなるんだからな!」


(……かわいい……)


(……かわいい……)


 定期的にこの手のネタで二人からからかわれる晶であった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※参考資料:話に出てきた物の写真等が見られます。

http://blog.guym.jp/2019/01/scdnn-003.html

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