道の駅・しょうなん→柏しょうなんゆめファーム

第二話「少年ハートはロマンだ。だが、中年にはハードだ」

 営野とて「目立つな」とは思っていたが、予想以上に注目度が高かった。

 なにがと言えば、人力アシスト電動バイク【ペダリスト】に乗っている姿である。

 取引のある【UMアイランド社】の子会社が作った製品で、その縁で手に入れたバイクだ。


 バイクと言っても、ちらっと見た限りでは、折り畳みができるオフロード向けの小径車ミニベロにしか見えない。

 ペダルもついているし、チェーンも丸見えで、実際にペダルを漕げば普通の自転車のように走ることもできる。


 しかし、よく見れば自転車として違和感があることがわかる。

 なにしろバックミラーはまだしも、ウィンカー、ブレーキランプ、そしてとどめは原付のナンバープレートまでついているのだ。


 さらにペダルをこがなくても、オフロード向きの太いタイヤは勢いよく周り軽快に走り続ける。

 これは内蔵しているモーターでタイヤを回転させているからである。

 つまり見た目は自転車なのに、中身は電動二輪車(原動機付自転車)なのだ。


 知らない人から見れば、勝手に走り続けている自転車にも見えてしまう。

 その様子は不思議を通り越して、どこか不気味にも見えるかもしれない。

 このせいで、二度見される。


 ちなみにペダルはなぜついているのかと言えば、電動を人力で手助けする・・・・・・・・・・・ことができるためだ。

 よくある「電動アシスト自転車」は「電動でペダルを軽くしてアシストする」というものだが、ペダリストは電動でペダルを軽くするのではなく、タイヤを直接回してしまっている。

 つまり電動は、「こぐ」という動作をアシストしているというより、メイン動力となっている。

 それを人がこぐことで、電動をアシストしてさらに回しているのだ。


 動力は、前後輪に仕込まれており2WD。

 ただ基本的な構造は、自転車に近く改造も行いやすい。

 営野もシートを交換したり、チェーンリングやペダルを交換したりして楽しんだ。


(手間をかけて改造すると、なにもしないよりは愛着がわくな……)


 たぶん、これがこのバイクの楽しみ方であり、そしてこのバイクがもつロマンというものなのだろう。


(晶子ちゃんには、わかってもらえなかったけど……)


 この楽しみ方は、プラモデルを作ってニヤニヤしてしまう少年ハートと同じである。

 いくつになっても捨てられない少年ハート。

 それは、ソロキャンプの楽しさにも内包されている。

 自分でテントを立て、火を起こし、自分の空間を構築する。

 そのワクワクは、まさに秘密基地を作る少年ハートではないか。


 ならば、少年ハートな乗り物で、少年ハートな秘密基地を作りに行ったら最高に少年ハートに違いない。

 そう考えたとたん、三〇歳の体でくすぶる少年ハートはいてもたってもいられなかった。


 だが、その少年ハート計画の実行には、ひとつ大きな問題があった。

 小径車ミニベロのペダリストは、そのままだとどこにも荷物を載せるスペースが後部荷台しかないのだ。

 もともと小型車のため、荷物の積載能力はかなり低いのである。


 もちろんバックパック(リュック)に、徒歩でのキャンプと同じ道具を詰めて、ペダリストに乗っていけばいいだけの話ではある。

 しかし、それでは芸がない。

 どうせなら自転車キャンプよりも、さらに充実した装備を電動の力で運べないだろうかと考えた。

 それなら少年ハートを満足させるだけではなく、いろいろなキャンプを研究するという大人としての仕事の意味ももたせられるからだ。


 そして調べた結果、彼は少年ハートをくすぐる、あるアイテムを見つけてしまう。


 それこそが、ドッペルギャンガー製【マルチユースサイクルトレーラー】という、一六インチのタイヤを二輪もち、六五リットルの積載容量をもつ黒いトレーラーである。

 少しおしゃれな小型リアカーと言った方がわかるだろうか。

 牽引の印のオレンジの旗がたなびいているのがまた目立つ。

 ただ、最初にペダリストへコネクタさえ取りつけてしてしまえば、接続・切り離しは簡単にできるし、切り離せば折りたたんで小さくできるという優れものだった。

 それをペダリストで牽引させるのだ。


 そして今日。

 彼は朝から、そのトレーラーに徒歩キャンプの時よりも多めのキャンプ道具を載せて走っていた。

 頑張ってもぎ取った休日の土曜日に、一泊だけのキャンプをするために。

 少年ハートを満たすために。

 あと、おまけの仕事をこなすために。


 ところが実際にやってみると、少年ハートは中年ボディに辛かったのだ。


 当初の予想では、ひとつのバッテリーで時速三〇キロ、二〇キロメートルは走る計算をしていた。

 しかし、やはり重すぎたのだろう。

 どうがんばっても時速二五キロぐらいしか速度がでない。

 このままでは、予想よりもバッテリーの減りが遙かに早く、距離が稼げなくなってしまう。

 一応、ソーラー充電機能や、回生ブレーキによる充電なども装備されているが、それは本当に補助的なものにすぎない。


(これはバッテリー、二つじゃもたないぞ……)


 仕方なく、すぐに人力アシストでペダルをこぎ始めた。

 この状態でバッテリー消費と体力消費を考えると、平均時速二〇キロちょっと。

 全行程四〇キロメートル強、休憩や電池交換など考えると予測3時間ほど。

 その間、かるいとはいえペダルをこぎ続けなければならない。

 いや。確かに平地ならかるいが、橋などを越えるときの坂道になると、かなり重くなるのだ。


(こういう時はチェーンリングを大きくしたのが裏目だ。ギア切り替えしたい……。明日、筋肉痛が来るな……)


 しかも、筋肉痛を恐れずにこいでも、スピードはすこぶる遅い。

 そのため、狭い道だと後ろから来る車の邪魔になった。

 無論、道路の端によって走っている。

 しかし端は路面状態が悪く、振動がお尻から全身に響いてくる。

 体中が軋むように痛くなる。


 否。痛いのは体だけではない。

 心もだ。


(さすがに目立つか……トレーラー……)


 ジェットタイプとは言え、バイク用ヘルメットをかぶったオジサンが一生懸命、トレーラーをつけた自転車をこいでいる。

 すれ違う人々から、普通にペダリストに乗っている時より、さらに好奇の目を向けられるのは当然の結果だった。



「おい、見ろよ。自転車なのにバイクのメットかぶってるぜ」


「なんか引っぱってるー。気合入りすぎでウケる~ぅ」


 信号で横に止まった車の若いカップルが、こちらに聞こえるのもかまわずにそう言った。

 こんなことを言われた独り身ソロなら、「カップル、爆発しろ」と願ってしまっても罪はないだろう。



「ママ、あのひと、なんかにもつ、いっぱいひっぱってはしってるよ!」


「そうね」


「おうち、およめさんにおいだされたのかな……」


「そうね」


(「そうね」言うな!)


 毎日の子育てが大変なのはわかるが、いい加減な返事をしないでもらいたいと思う。



「ウォン! ワンワン! ウォン!」


(俺は不審者じゃないぞ!)


 犬に、なぜか執拗に吼えられる。



 だが、このようにいろいろと注目を集めながらも、時速二五キロ未満の旅路にはそれなりにいいところもある。

 車やバイクだと見逃しそうな景色を見つけられることだ。

 大通りから手賀沼近くに行くと、建物が減って視界が開け、木々の多い風景になっている。

 そんな少しだけ非日常に向かっている風景をゆっくりと楽しめる。


 速ければ、より遠くの景色を楽しめる。

 遅ければ、より近くの景色を楽しめる。


 そういうことを気がつかせてくれる、そんなバイクなのかもしれない。


(……おっ! やっと見えてきた!)


 開けた道をひたすら走り、疲労感もかなり溜まった頃だった。

 第一の目的地点である道の駅が見えてきたのである。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※参考資料:話に出てきた物の写真等が見られます。

http://blog.guym.jp/2018/12/scd002-02.html

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る