第一一話「友達に報告する。でも、ごまかす」
「ほむっ!? なんて、ネイティブ・アメリカン……」
食事が終わり、ソロのタケノコテントに入った泊は、その様相に驚いた。
靴を脱いで腰を曲げてテントに入ると、そこはナバホ柄に飾られた大きな部屋になっていたのだ。
隅には荷物がまとめられ、一部には木製ラックのようなものも置かれていた。
そして足元には、ナバホ柄のマット、さらにテントの中央左右には同じ柄のラグが敷かれている。
ラグのサイズは、二畳ぐらいあるだろう。
そのサイズが二枚敷かれているというのに、まだ奥には空間が残ってる。
その空間にあったのは、なんとベッドだ。
しかも、ダブルサイズ。
やはりナバホ柄の敷きパッドに飾られていた。
(わたしはどこの国に来てしまったのだ……)
真ん中に立つ、太い一本のスチールポール。
吊るされた、大きめのLEDランタンが二つ。
そこから放たれる光で照らされテントの中は、まるで異国の住まいのようだった。
「なんかテンションあがりマックスハート……」
「なんじゃそりゃ……」
後ろから入ってきたソロが、あきれ口調で突っこむ。
「とりあえず、寝る時はベッドを使え」
「え? わたし、下でいいですよ。ご老体を床に寝かすわけには……」
「ぬかせ。こっちは慣れているんだ。それに女子高生を床に寝かせて、自分がベッドに寝るなんてできるか」
「ほむ……」
泊はベッドに近づいて触ってみる。
それは膝の高さほどもあるエアーベッドだった。
かなりしっかりしていて、腰かけてみても深く沈みこむこともなさそうだ。
(もう家の中みたい……というより、わたしの部屋より広いし。……そうだ! このイメージを使おう)
決めかねていた執筆中の設定を思いつき、慌てて運び込んだ荷物の中からPCを取りだした。
周りを見ると、折りたためそうな背もたれ付きの座椅子と、やはり足を折りたためるミニテーブルが置かれていた。
「ソロさん、この座椅子とミニテーブルを借りていいですか? あ、ソロさんももしかして仕事で使います? 昼間、なんかPCをいじっていましたよね?」
「いや。今日はもう仕事しない。だから、呑んでいる。使っていいぞ」
「ありがとうございます」
「俺に迷惑かけない限りこの中で好きに過ごせばいい。もともとソロ同士だ。無駄な干渉を互いにしないということでいいな」
「……ほむ。了解です」
と答えるも、泊は心のどこかに寂しさを感じる。
(まあ、大人はみんな放任主義というか、面倒だから子供をかまったりしないか。実の親でさえ、わたしの収入以外に興味ないし、わたしがなにを書いているかさえ興味ないし。ましてや、他人のソロさんが気にするわけ……って、なに考えているんだろう、わたし……)
泊は気合を入れるために、頬をかるく叩く。
甘えるのは、もうやめると決めている。
世話になっている上に、これ以上の迷惑をかけるわけにはいかない。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです」
「……そうか? あと、二二時ぐらいには照明は暗くするぞ。このキャンプ場は焚火もそのぐらいの時間で消すことになっているからな」
「はい。……では、仕事に入らせていただきます!」
「宿題とかじゃないのか。仕事がなんだかしらんが……頑張れ。俺はもうしばらく外にいるから」
「はい」
ソロがテントから出ていくと、泊は折り畳み式の座椅子に座る。
そして一人用のミニテーブルを自分の前に持ってきた。
その上に、パソコンを広げる。
どうやらミニテーブルはパソコン用らしく、天板の角度を変えて打ちやすいようにすることができる。
これならかなりキータッチも楽そうだ。
おなかもほどよく膨れて、パワー全開。
静かな雰囲気で、集中力最高。
(ファンタジーだから、もう少し装飾品を魔法アイテムとかにして……。でも、住まいのイメージはこんな感じで……いい……いい感じだ!)
そして与えられたインスピレーションにより、泊は無我夢中でキーボードをたたき続けた。
頭が考える速度よりも速いのではないかと思うほど、叩いて叩いて叩き続けた。
――ニャーニャーニャン♪
いったいどのぐらいの間、キーボードを叩き続けていたのだろう。
横に置いていたスマートフォンの通知音で、泊はふと我に返る。
とりあえず執筆途中の原稿を保存してから、スマートフォンを手に取った。
(まだ一時間ぐらいか……。あ。に人に連絡するのを忘れてたわ)
通知音はチャットソフトのものだった。
メッセージの送信者は、遙。
その一時間以上も前に、晶からもメッセージが来ていたようだった。
――とまり@ソロキャン中:ごめん。二人とも。
――とまり@ソロキャン中:すっかり執筆に夢中で連絡を忘れていた。
――とまり@ソロキャン中:でも、二人への愛は永遠だよ。
――AKIRA@風呂待ち:頭に虫わいてるのか?
――ハルハル@就寝五分前:わたくしも大好きよ、とまとま♥
――ハルハル@就寝五分前:でも、大丈夫? 襲われてない? 襲われたのなら自撮りした?
――とまり@ソロキャン中:なんでだよ。
――AKIRA@風呂待ち:まあ 元気ならよし!
――AKIRA@風呂待ち:そんなに集中できたということは調子いいみたいだな!
――とまり@ソロキャン中:うん。ありがとう。
――とまり@ソロキャン中:おかげで調子いいよ。
――AKIRA@風呂待ち:さっき言っていたソロとかいう熟成男性はどうしたんだよ?
――とまり@ソロキャン中:食い物かよ。
――ハルハル@就寝五分前:そうそうー。その男とは別れたの?
――とまり@ソロキャン中:別れたって……言い方。
――とまり@ソロキャン中:ソロさんは自分のサイトにいるよ。わたしはテントで執筆中。
――AKIRA@風呂待ち:そうか
――ハルハル@就寝五分前:よかったー
――とまり@ソロキャン中:あ。ごめーん。ちょっとお花摘みにいってくるわ♥
――ハルハル@就寝五分前:あら。なら、わたくしも行くわー。一緒に行きましょうー
――とまり@ソロキャン中:リモートつれしょんか?
――AKIRA@風呂待ち:それこそ ソロで行けよ!
――とまり@ソロキャン中:とりあえず、おやすみ言っておく。おやすみ!
――ハルハル@就寝五分前:はーい。おやすみなさいませー
――AKIRA@風呂待ち:おやすみ!
(ソロさんは自分のサイト、わたしはテント……嘘はついていない、うん)
そう自分に言い聞かせながらも、友達を騙した気分で少し後ろめたい。
だが、正直に言っても心配されるだけだということもわかっている。
それどころか、ソロと同じテントで寝ると知られたら、遙あたりが本当に空挺部隊を送りこみかねない。
「……ちょっとお手洗いに行ってきます」
テントから顔をだすと、タープの下でスルメのようなつまみを口にしながら、まだビール片手のソロが椅子に座っていた。
なにをするでもなく、ビールを呑みながら雨が止んだ外の風景を眺めていたらしい。
「そこにある懐中電灯、使っていいぞ」
「ほむ。ありがとうございます」
泊がテントを離れようとすると、ソロがなにやら動き始めた。
いったいなにをする気なのだろうと思いながら、彼女はトイレへ向かうのだった。
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※参考資料:話に出てきた物の写真等が見られます。
http://blog.guym.jp/2018/12/scd001-11.html
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