ここだけの話

第1話

日曜日の夕方、テレビで素人名人芸という番組を見ていた。

殆どが、歌を歌うのだが、さすが素人だ・・・

そんな中、希に落語や漫才、マジックなどがある。

その日の落語の中に、見知った顔がいた。

「若鷹亭鈍太」

そう名乗ってはいるが、クラスの男のに間違いない。

名前は、門本茂くん・・・間違いない・・・彼だ。

結果は、鐘がカンカンカンカン鳴り響いて、優勝した。

翌日、彼の周りには人だかりができていた。

でも、私は遠くから見ていた。

それから数ヵ月後、また彼が出た。

そしてまた、優勝した。

私は落語はわからないので、遠目に見ていた。

それから数ヵ月後、また彼が出た。

同じく優勝した。

私はさすがに気になったので、彼に訊いてみた。

「どうして、何回も出るの？」

すると、彼から意外な答えがあった。

「ここだけの話なんだけど」

「うん」

「落語や漫才の場合は、局側から打診されるんだよ」

「打診？」

「また、出て下さいって頼まれるんだ」

私は、驚いた。

「本当なの？」

「うん。歌は希望者が多いけど、落語や漫才は少ない。

でも、出さないわけにはいかない。

なので、以前出た人に依頼するんだよ」

「そうなんだ」

私は、番組の意外な一面を知った。

「だから、予選やオーディションはやらないんだ」

「初めて知ったよ」

「内緒ね」

「うん」

そして、彼のそばを離れた。

彼が、その後著名な落語家になるのだが、それは当分先の話となる。