第14話









シドニー郊外




シドニーの中心部から少し離れた、住宅街の草むらでうずくまるクーパーがいた。



『う・・う・・』


自分の体の異変に動揺を隠しきれていなかった・・しかしクーパーはどうしてもこの場所に行く必要があった。



一軒の家から女性2人が荷物をまとめて出てきていた。


『キャシー、急ぎなさい』40代半ばの女性が奥にいる10代の女の子に声を掛けていた。



草むらでその光景を見ていたクーパーは小声で思わずつぶやく『キャシー・・ミシェル・・』


その2人の女性はクーパーの妻と娘だった。



クーパーは2人の前に向かおうとしたが、その時 警察車両のサイレンが聞こえて行きた。



クーパーは仕方なく一旦、その場を離れた。








ホテルの一室に久能とソフィアは招かれていた。



佐渡がチェックインしたホテルだった。


『クノウ、これからどうするの?』


『とりあえず、クーパーが言っていた”サンズ・ケミカル”に行く、そこに行けば何かが分かる』



佐渡はジェラルミンケースを開けて久能に見せた。


そこには一本の注射器が入っていた、そしてその中には緑色をした液体がすでに入っている。


『これが”クワトロ”を消せる血清なのか?』


『ああ、ただ・・これはこの1本しかない 久能博士が最後に作り上げたものだ、彼にしかその製法はわからない』


『なら、クノウがこれを使えば”スーパーソルジャー計画”ってのも出来なくなるのね』ソフィアは久能から聞いていた計画を口にした。


『そこまで話したのか』佐渡は少し怪訝な表情を浮かべていた。


『オレが何を言おうと勝手だ』久能が吐き捨てる。


『まぁ、いい ただ・・』


『ただ何よ』ソフィアが佐渡を睨む。




『正式名称は”RED BARONレッドバロン計画”だ』








◇サンズ・ケミカル社:夜




オリバーは社長室でPCを操作していた。



そのモニターにはD-361の構造が映し出されていた。


オリバーはその構造配列を眺めていた。






サンズ・ケミカル社の屋上に久能秀隆はいた。


下を覗くと、一室だけ光が射しているのが確認できた。



久能は赤い目出し帽を被ると、躊躇することなくビルから飛び降りた。


腕を伸ばし屋上の柵を掴むと放物線を描くように腕が伸び、光の射す部屋の窓へと向かっていった。



ガッシャーン!!!!



部屋の窓が木っ端微塵に砕けると転がるようにして久能は部屋へ入ってきた。


オリバーは驚きを隠しきれず、ノートPCを抱えて壁際に身を寄せた。



『・・・な・・何者だ・・!』


『デイヴィット・クーパーを戻せる方法はあるのか! 答えろ!』


『フフフ・・あそこまで行けば、もはや自分では体の制御は不可能だろう』


『お前は人としての一線を超えたんだぞ!』


オリバーはそれでも笑みを浮かべ、久能に語りかけた。



『クーパーはもう元には戻らない、だから彼をコントロールするんだよ』



『狂ってる・・』


その時、オリバーの部屋にセキュリティサービスが入ってきた。


『何者だ!』セキュリティサービスの男が拳銃を構えていた。



久能はオリバーの持っていたノートPCを奪うと再び窓の外へと飛び降りた。



『おい!貴様!!』セキュリティサービスの男が割れた窓から下を覗き込んだが、すでに久能の姿はなかった。




『そう言うことか・・・』オリバーが何かを察したかのようにつぶやく。



『どういう事ですか・・?』





『あいつも同じ人種ってことだ』






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