第10話
◇シドニー
シドニーの街は騒然としてた。
レスキュー隊や警官たちが大勢集まり、破壊された建物や瓦礫の中にいる人々の救出作業をしていた。
久能とソフィアは裏路地を進み左右を確認しながら慎重にクーパーを探していた。
『どこへいったのよ・・』ソフィアがため息混じりに口を開く。
久能は無言のまま左右を見る。
その時、前を行くソフィアのポケットから1枚の写真が落ちた。
久能はそれを拾った、そこには女性と男性が写っており、2人の間には2・3歳ぐらいの可愛らしい男の子がいた。
女性はソフィアだった。
『ソフィア、これ』久能は写真をソフィアに渡す。
『主人と子供よ』
『家族がいるのか・・』
『家族がいた・・のよ』
『どういう意味だ』
『1年前よ、私は主人と子供と3人で買い物に出たの』
久能は無言で聞く。
『そのモールで爆発事故が起こった 私の前に主人と子供が5階の連絡橋にいて、崩れた連絡橋に取り残されたのよ』
ソフィアは写真を見ながら続けた。
『バランスが不安定なこともあって救出は難航してたわ そして・・主人と子供は私の目の前で連絡橋ごと崩れ去ったの』
『なんてことだ・・』
『あなたに出会った時・・”あなたがいれば”と思ったわ』
『もしかして・・君は、死のうと思っていたのか・・』
『生きてる意味は、もうないわ』
『ダメだ、死んでは』
『主人と子供は私の全てだったのよ!』ソフィアが声を上げた。
『その両方を同時に失ったのよ・・もう私に生きる目的がないわ』
久能はそれ以上何も言えなかった・・・それは自分にも当てはまるからだ。
久能も”クワトロ”によって人生が大きく変わり、静かに暮らし、静かに人生を終えたいと思っていたからだ。
その意味ではソフィアと久能は同じ境遇なのだ。
《生きる目的がない》
しばらくお互い無言で進んでいくと、どこからかうめき声が聞こえた。
『久能、もしかして・・』ソフィアが口を開く。
久能が手を上げ、無言でソフィアを制した。
久能はゆっくり裏路地の奥の角へと向かう。
そこにはうなだれて倒れているクーパーがいた。
『大丈夫か』
『お前は・・さっきの・・』
『何があった?』
クーパーが答えようとした時、久能の背後で人の気配がした。
すばやく振り返ると、防弾チョッキを来た複数の人間が拳銃を構えていた。
『警察か・・?』
拳銃を構えた人たちの間からスーツ姿の男が現れた。
『彼は我が社の大事な被験者だ』
オリバー・デッドウェルだった。
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