第7話








◇サンズ・ケミカル社




『今から、痛みを取り除く薬を体に入れます』


オリバー・デッドウェルは優しい口調でそう言うとデイヴィット・クーパーの左腕に注射の針を差し込んだ。


『これで・・痛みがなくなるのか・・?』


『ええ、効果が出るのは注射後約2時間後になります それまではここで安静にしていて下さい』


クーパーはコンクリート壁に囲まれた窓一つ無い部屋の真ん中にいた。


真ん中に檻がありその中にベットとトイレだけが備え付けられていた。


『なんでこんな檻の中に閉じ込めるんだ』


『これから24時間、あなたの状態をチェックするためです』


『チェック・・だと?』


『先程も言いましたが、これはまだ認可されていない新薬です 臨床試験が必要なんです』


『娘と妻には・・・会えるよな』


『ええ、臨床試験が終われば あなたは自由だ』






デイヴィット・クーパーに薬を投与してから5時間が経過していた。


クーパーの全身を襲っていた痛みは消え去っていた。



『まだ、出れないのか・・?』クーパーは檻の外でパソコンに向かっている白衣の研究員らしき人物に話しかける。


『まだです、先程も言いましたが臨床試験は最低でも24時間様子を見ないといけませんから』


『娘と・・妻に会いたいだけなんだ・・』


『臨床試験が終われば、外出許可が出ます、それまではまだここに居てください』


クーパーは少しづつ苛立ちを見せていた。


その兆候は研究員が見るパソコン越しにも確認できた。


『数値が上がってきている・・危険だ・・社長を呼んでこい』


しかし、それはすでに遅かった。


クーパーの体は徐々に大きくなってきていた。


そして両手で檻の柵を握ると一瞬でこじ開けた。


『まずい!!、鎮静剤を!』


そう言ったのもつかの間、クーパーは研究員に襲いかかってきた。


『うわ!!』大きくなった腕を思いっきり振り下ろすと研究員の男は壁に突き飛ばされていた。


もう一人の研究員の男は尻もちをついて怯えていた。




デイヴィット・クーパーの体は大きく膨れ上がり、全身は水ぶくれのようにただれ出していた。



『何があった!』オリバー・デッドウェルは慌てて部屋に入ってきたが、その光景を目の当たりにして驚きを隠しきれなかった。


『あんた・・どういうことだよ・・これは』クーパーはオリバーに説明を求めた。


『何かの間違いだ、すぐに対処するから大人しくしてくれ』


『もう信じられるか!、この体をどうしてくれるんだ!!』


『落ち着くんだ、クーパー』


しかしクーパーはその呼びかけには答えず、壁を突き破ってシドニーの街へと逃げていった。




『まずいですよ・・社長・・警察に通報しましょう』


『ダメだ!そんなことしたら、会社が潰れるぞ』


『しかし・・どうするんですか?あんな怪物が街に放たれたなんてことになったら・・』


『とりあえず、我々でクーパーを探す』


そう言うとオリバーはどこかに電話を掛けだした。






『とりあえず、シドニーは離れましょう』


久能秀隆とソフィアはシドニーに街を歩いていた。



すると2人の前に、警官が向かってきた。


『嘘でしょ・・バレた?』ソフィアは小声で久能に聞いた。


『普通にしてたら大丈夫だ、オレを追っているのはZACKだけだ』


向かってくる警官は肩口に付けられた無線で何やら連絡を取り合っている。


そしてその後ろにパトカーが数台姿を表していた。


『まずいわよ・・やつら気づいてるわ』


『そんなはずはない・・力は使ってないのに・・・』


久能も少し不安になってきていた。


警官とパトカーが徐々に久能とソフィアに迫ってくる。


緊張感がMAXに達していた。


しかし、警官とパトカーは勢いを増して、久能とソフィアには目も暮れず通り過ぎていった。


2人は安堵した。


『ビビらせないでよね』ソフィアは胸をなでおろしていた。


しかし、警官とパトカーが通り過ぎた後ろの方で大きな地響きのような音が聞こえてきた。


そして段々と、人々の悲鳴と怒号がこだましていることに2人は気づいた。


『何だ・・?』『何?』2人は一旦顔を見合わせた後、ゆっくりと後ろを振り返った。





2人の視線の先にはビル3階分ほどの大きさに膨れ上がっていたデイヴィット・クーパーの姿があった。








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