第32話 聞き込み開始in宇宙会議


「さぁ早速聞き込みっすよ〜!」

「聞き込みって誰からするんだ?」

「もちろん六等星っすよ。連絡取ってみたら、今日のライブに来るのはボインボイン星人とクリリンタンクトップだけっすねー」


 相変わらず名前キツッ。全然慣れる気しねぇんだけど。


「なんかもっと短い通称とかねぇの?」

「そうっすねー。ボインボイン星人は相生あいおいさん。クリリンタンクトップは加古かこさんって名前で呼んでますよ」

「本名あるじゃねぇか! 名前分からねぇんじゃねぇのかよ!」


 ちなみに一ノ瀬は一ノ瀬らしい。もうアカウント名いる?


「昼食時に宇宙会議しようと声かけましたので、そこで色々聞いてみましょう!」


 ということで、金の無い若者が集うファミレスへ。

 俺は新参者ということで一ノ瀬に紹介される形とする。この宇宙会議──じゃなくてオフ会でこいつらを探る。一つ一つの言動に注視するんだ!



「──いやぁ、今夜の交信で注目すべきは新コスっすよね。ツッタカターの最新宇宙掲示板で先行公開されたコスの可愛さといったらもはや太陽系外縁天体に衝撃波が轟くほどの勢いでして、益々私の思いはグレートアトラクターっすよ」

「分かんよ分かんよ! 俺の宗主のマーズたんは情熱的な赤を似合ってて美しさがビックバンで三回銀河作れるほどの破壊力で、これ以上近付いたらロッシュ限界で身体がバーニング崩壊プロミネンスっすよ」

「そうだね、僕が育てたようなものであるこの子たちがこうして新しい衣装をサングレーザー彗星の如く現れるアルベド目が焦げそう」


 何言ってんのか全然分かんねぇ!

 てか、こいつら本当に会話出来てんの? 微妙に使う単語ズレてるだろ。せめて統一してくれよ。覚えたてのカッコいい単語を使いまくってる中学生か。

 当然この輪に入れる訳がなく、俺は「はは」「へー」「あー」しか言えていない。聞き込みどこ行ったんだよ。てか、一番喋れるお前が聞けよ一ノ瀬! お前が一番喋ってんじゃねぇ!


 俺だけが半熟卵が落とされたイタリア都市風のドリアを集中して食ってる中、他はフォッカチオだけを食っていた。お前ら困窮してんのか。


「そういやお二人に聞きたいことあるんすけど、なんか最近変わったことありますー?」


 やっと本題に入った一ノ瀬。ここまで一時間かかってんぞ。水だけでこれ以上もたない。


「お? 変わったことってのはなんだ?」

「そうっすねー。えーと、なんか怪しい奴がいるとか」


 結局、直接聞いちゃうよな……。


「ふむ、怪しい奴──つまり外来特定異星人ってことだね?」

「ああ、UMAか」

「そう、アンチっす」


 だから統一しろよ名詞を。


「特にSNS周りとかで」

「ふむ、よく聞くのはやはりプルートちゃんを更迭したとされるあのアカウントか」

「プルートちゃん……なんで宇宙へしちまったんだよ!」

「そうっす、その脱退させたとされる──」


 だから揃えろよ!!


「ふむ、すまないがアカウントの存在自体は知っているがこれといって何か知ってる訳ではないんだ」

「すまねぇな一ノ瀬。けど、俺もボイン団員に警備強化と治安維持に努めさせるよ」

「了解っす。ありがとうございましたっす!」


 ということで、夜のライブまで解散となった。

 俺は最後まで一言も話さなかったし紹介もされなかったんだけど。



「どうっすか? 何か分かりましたー?」

「俺何も喋ってねぇんだけど。……まぁ、ただ言動で違和感ある奴はいなかったな。おかしい奴しかいなかった」

「まぁ、自分もあの二人が犯人とは考えられないっすねー」

「何でだ?」

「いや、あの二人は本気でスペース9だけが好きなんすよ。他のアイドルの現場に行ったりはしない。浮気は絶対しないんすよ」

「確かにあのアカウントは他のアイドルにも暴言吐いてるけど、それだけで犯人じゃねーとは言えないだろ」

「それでも信じたいっす。六等星に犯人はいないって」


 カッコつけて言ってるが、それじゃあ何にも話が進まないけどな。

 まぁ、ファンは他にいくらでもいるから正直どうしようもないんだけど。


「他の六等星はどうなんだよ」

「うーん、マネー持ってるオ──あぁ、佐瀬させさんはお金持ってるからありえないっすね」

「何でだ?」

「だってお金持ってる人って心に余裕があるって言うじゃないすか!」


 う、うぅん。よく言うがそれで犯人じゃないとは何も証明出来ないだろ。


館津たてつさん、あぁ完コピオジサンはキモいけどあんな衣装も自作でキモいくらいに完コピするほどキモいほど愛があるキモい人がしますかね? キモいけど」


 キモいしか分からん。どんだけキモいんだよ。てか、六等星みんなキモいぞ。お前含めてな。


「宇宙広報誌さんは直接会ったことがないので、知らないっすけど多分違うっす」

「なんも推理してねぇじゃん」

「とにかく六等星はみんなスペース9を初期から支えてきたんすよ!? いい奴っすよー!」

「じゃあ犯人捜しようねぇじゃん! 何だったんだよさっきの時間は!」

「自分の趣味っすね」

「趣味にまた付き合わされてんの!? とりあえず、この男達の中からまず怪しい奴見つけねぇとだな……」

「そもそも思ったんすけど、犯人って本当に男なんすかね?」

「え?」

「え、いやぁ、だってアイドルファンって自分みたいな女もいますし、それに暴言吐いたりストーカーするのが必ずしも男とは限らないんじゃないすかねぇ」


 確かにそれもそうだ。ネカマに復讐のつもりで動いてるから男だと断定しているが、今回は女の可能性だって十分にあり得る。

 暴言を吐くことでストレスを解消したり、実はオーディションに落ちた奴が妬み嫉みで書いてるかもしれない。女ならR15の自撮り写真も、実はそいつがメンヘラで「構って構って〜」って言ってツッタカターにあげているものかもしれない。


「結局、SNSをやってる奴って男女関係なく、等しく仮面を被ってるんすよね」


 女であれば男に見せかけてそういった犯行も行えるしな……。

 後、さっきはスルーしたけどストーカーはお前だからな。

 

「つーか、女もあり得るなら捜査対象二倍じゃねぇか! 手掛かりも何もねぇしよ!」

「いやいや、あるっすよ手掛かりは。それはライブっす! お兄さんはまだまだスペース9のことを知らない。そして楽しめてないっす! まずは犯人と同じくらいにはアイドルに詳しくないと」

「ただお前が楽しみてぇだけだろ、布教するな! てかお兄さんって呼ぶんじゃねぇ!」

「じゃあ何て呼べばいいんすか」

「そりゃー如月さんとかじゃねぇの?」

「優衣ちゃんと同じ苗字やめてください。紛らわしいし失礼っす」

「実兄だけどね!?」


 一ノ瀬はその後しばらく考えて、


「じゃあ、先輩ってことにしましょう!」


 無難なとこに落ち着いた。良かった、訳わかんねぇアカウント名とかじゃなくて。


「じゃ、ひとまずライブまでまだ時間あるんで、とりあえず洗脳しましょうか♪」

「『洗脳しましょうか♪』じゃねぇよ! 物騒な言葉の後に音符付けんなよ!」

「洗脳っていうのはただの言葉の綾っすよ〜。スペース9の語録や歴史を一旦全て入れて頂いて頭の中をスペース9だけしか考えられないようにするだけっすから」

「立派な洗脳じゃねぇか」

「とりあえずここに自分がまとめたノートあるんで」


 とノートと呼ばれ取り出されたのは広辞苑くらいある辞書。


「一緒に勉強しましょうか」

「やだよ!!」

「先輩〜後輩の頼みじゃないすか〜」

「可愛い後輩みたいな感じで来るな! ずんぐりむっくりだろお前!」

「酷いっすねー、女の子を見た目でイジるなんて最低っすよー。それに私は高校生の時は超絶美少女なんすよー。ま、別に今は事実でないんでいいんすけど」

「いいのかよ」

「自分の現状を受け入れてなければ、この先何者にもなれないんすよ。だから先輩もスペース9の魅力をちゃんと知って、ライブ楽しみましょう! そうすれば新しい宇宙が生まれますんで!!」


 もちろんこの後ご存知のとおり、逃げることは叶わず、永遠と情報を入れられたのだった。


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