第10話 魔の手が知らぬ間に
「ふふふ……はっはっはっ‼︎ これで復讐計画が進むというものだ! でもどう復讐したらいいか分からん!」
俺はまたパソコンの前で唸っていた。
場所は大学の食堂。時間は月曜日の3時限目。
授業は飛んだ。
オフ会はあの後すぐに終わった。
「なんか彼氏の話してたら会いたくなっちゃった。だからもう解散ということで」
という卯堂の言葉で終了。あの日は甘ったるいミルクティーしか飲んでない。
その後、セツナと少し話したが、これからのことはまた電話なりメールなりで連絡するとして早々に家に帰した。
俺は帰って即座に池のアカウントを調べた。
卯堂のフレンドリストを覗くと、“黎明の騎士──レイクナイト”という名前があった。
絶対これだ。いや、もうこれだろ。
念のためにアドベンチャーワールドの方も見てみると、同じ名前があった。確定だな。
つーか、何が黎明だ。こいつの日の出は大体女と一緒のくせによ。
爽やか系の大体の奴は黎明を付けがちだ。
こいつに二度と日の目を見せてやるものか。
と、イキがったのはいいものの、こいつ自身のアカウントはフレンド申請を拒絶している設定であった。池から誘わないとフレンドになれないのだ。
メッセージもフレンド内でないと送れない設定にしてあるし、ガードが箱入りお嬢様と同じくらいガッチガチだった。
「まさか直接連絡が取れないとはな……。作戦は考えたが変更か? でも卯堂を介して連絡すれば、って向こうは俺のことを女だと思ってるはずだ。彼氏にネットで知り合った女を紹介する訳ないよな……」
「おーい、何してんの?」
「どうする。大学であいつと友達となって近付くか? いや、男として近付いて取り繕ってくれんのか? あいつ絶対俺のこと下に見てやがるからな」
「授業は? 私と同じ授業取ってなかったっけ?」
「じゃあ女装して、いきなり女装して近付くのは無理か、頭おかしいな。卯堂がそうはさせないだろうしな。てかあいつ彼女いながらもあんな事しやがって……! 許せねぇ!」
「ねぇ、聞いてる⁉︎」
「うぉ⁉︎」
声のする方を見ると、そこには神菜がいた。
「なんだ神菜か。いつからいたんだよ」
「彗司がずーっとブツブツ言ってる時にはいましたー。で、授業は? いなかったけど」
「飛んだ」
「はぁ⁉︎ まだ秋学期始まったばっかりだよ⁉︎ 何してるの⁉︎」
「別にいいだろ。どうせ今日はオリエンテーションとかなんとかだろ。お前もすぐに授業終わってんじゃねぇか」
今日は秋分の日、休日のはずだが先週が敬老の日であり夏休み最終日でもあったため、祝日だろうと今日は普通に学校がある日だ。
「確かに授業の説明受けてそれで終わったけどさぁ。それでも普通最初の授業は行くでしょ」
「お前見た目によらず結構真面目だよな」
「見た目によらずってどういうことかなぁ〜!」
「いたたたたたたた‼︎」
頭を思い切り拳でグリグリされてしまった。結構力も強い。
「出席票、私が代わりに彗司の分出したりしないからね」
「いや、定期100%だったろ」
「そういうとこは確認してんだ……。レジュメも絶対取ってやんないから」
「頼れる人が一人しかいないんだよなぁ」
「幼馴染でもさすがにダメ! 自立を支援するだけなんだから!」
と言いつつも2ヶ月後ぐらいには、結局全部取っててくれてることは分かってる。三学期分は経験済みだから。
「で、結局何してたの。授業サボってまで」
「先週も言ったろ。か弱い女の子を救う任務だ」
「あっそ」
「冷た」
そして、神菜は俺の目の前に座った。
授業が早々に終わり行くとこもないようだ。あてもなくインターネットの世界を旅してやがる。神菜は暇そうだ。
だから、少し池のことを聞いてみることにした。
「なぁ神菜」
「ん? なに?」
「先週ここで喋ってた池先輩ってどんな奴なんだ?」
「池先輩? 何で?」
「いや、ちょっとな。ほら、爽やかとか言ってただろ? 俺も目指そっかなぁーって」
「彗司が? ぷっ、ハハハハハ! 無理に決まってんじゃーん!」
漫才番組を観てるくらい大爆笑する。
さすがに本当の目的を言えはしなく嘘をついてみたが、無理がある嘘だったか……って失礼すぎね⁉︎
「あー、とにかくそんなことはいいから。お前が知ってること全部言ってくれ」
「池先輩ねー、実は私そこまでよく知らないんだよね」
「は? 二年間はサークルで一緒じゃねぇのか?」
「いや、そうなんだけど。ほとんど幽霊部員だったんだよね。今年の夏休みぐらいから来だしたの」
「え、部長とか言ってなかったけ? 何でそんな奴がなれたんだよ」
「うーん、なんか前の部長と揉めたらしくて。うちのサークルは三年の冬で引退だから、前の部長は同学年の人なんだけど……よく分からないや」
これはもしかして女性関係か?
前の部長の性別は俺には知らされなかったが、女なら確実に池とのもつれ。男だとしても、別の女を取り合って揉めた──とかそんなとこか?
やはり、リアルの大学生活でもどうやら問題はあるようだな。
「じゃあ、他はあんま良く分かってねぇのか」
「まぁね。池先輩と食事するのは今度が初めてだし」
「ふーん、そうか。……ん、なんて?」
「え、池先輩と食事するのは今度が初めてだってこと」
「え、何で⁉︎」
突然の事実に驚かされた。ボディーブローをくらったみたいだ。
何で神菜が池の野郎と一緒に食事することになってんだよ⁉︎
「池先輩から交友を深めようって誘ってくれたの」
「んなもん嘘に決まってんだろ⁉︎ 行くのやめとけよ!」
「はぁ? あ、もしかして嫉妬してんの? 幼馴染だからってそんな──」
「いいから本当に止めておけ!」
俺の余りの剣幕に少したじろいだのか、神菜は言葉を止める。
だけど、また苦笑いを浮かべて話を続ける。
「あー、何か心配してくれてんのは嬉しいけどさ。大丈夫大丈夫。他の先輩も誘うって言ってたし、OGも来るみたいだから安心してよ。ただ私が先輩たちとパイプを繋げよー! みたいな飲み会だから。といっても、私はまだギリ未成年だからお酒は飲まないけどねー」
「それいつだ?」
「え、明日だけど……」
明日⁉︎ そんなにも早いのか⁉︎
このままでは神菜が危ない。池の魔の手が知らぬ間に彼女のすぐそこまで迫っていたのだ。
これ以上被害者は増やすわけにはいかない。幼馴染である俺が守らなければ……!
「いやー、俺もその飲み会に行ってみたくなったなー」
「彗司が? まぁ、私的には嬉しいけど今回はダメ。何かテニスサークルの人だけみたいだから。彗司、多分付いていけないよ?」
くそ、ダメか……! どうする⁉︎ 作戦は急遽立てていくしかないか⁉︎
けど、まず神菜らの明日の行動を把握する必要ある……!
「ど、どこの店行くんだよ」
「私も知らない。まぁ店着いたらツッタカターにすぐあげるよ。フォロワーが幼馴染の私しかいないアカウントで見れるでしょ」
「うるせ!」
結局、店は分からなかった。
ツッタカターであげるにしても、それじゃあ遅いし、第一あげるのを忘れるかもしれない。
こうなれば店は自力で探そう。
お互いの時間割は把握してるからな。明日の五限、神菜がどこで受けてるか分かっている。
そこから後ろをこっそり付いていけば……。
飲み会が行われるならこれを逆手にとってやる。明日のために仮であった作戦を磨き上げ、今やるべき事をやるしかない……!
◇ ◇ ◇
「え⁉︎ 他の先輩方来れなくなったんですか⁉︎」
「そう! ゴメンね神菜ちゃん!」
「ま、まぁそれは仕方ないですけど……」
「こうなったら二人で飲みに行こうか。居酒屋も予約してるからさ!」
「は、はぁ……」
(まぁ、大丈夫、だよね……?)
こうして神菜と池は二人で都内の居酒屋へと入っていった。そこは全国で店を展開している個室居酒屋だった。
「いらっしゃいませ〜。お客様、二名様でよろしかったでしょうか〜」
「はい」
「席は空いておりますのですぐにご案内致しますね。二名様ご来店でーす!」
そして全席個室の一つの席に案内される。
「空いてて良かったですね」
「あぁ、何とかなった。まさかの神菜の席の隣だしな」
「分かるんですか?」
「伊達に幼馴染やってないからな。神菜の靴くらい分かるよ」
「はぁ……幼馴染って凄いんですね……」
個室に入るために、靴を脱いで上がるタイプだ。
神菜を守るため、セツナの呪縛を解くため、今夜お前と決着をつけてやる、池……!
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