第11話 激突!ブラックライダーVS.アイスバーグ!

「……ぐぅ……すぅ……」

「…………」

 とある大学の講堂。100人以上の受講生がいる中、講師すら気に止めない。彼は机に突っ伏してすやすやと眠っている。

 その隣の席には長髪の女性が座っている。眼鏡を掛け、真面目に授業を聴いて、ノートをきちんと取っている。

 そのアンバランスな組み合わせのふたりを、周りの学生は不思議そうに見る。

 女性の方が、有名人だからだ。

「……あれ、間宮ゆり……さん、だよな?」

「だな。超大金持ちの娘で、怪人に両親を殺されたって有名な美人だ。同じ授業だったんだ。で、隣の男は?」

「見たこと無いな。学部は?誰か知ってるやつ居ないか?」

「さあ。ていうか、なんでサングラスとマスクしてんだよ?」


――


「はぁ~。よく寝た」

 その授業終わり。おもむろに起き上がった彼は、ぐっと伸びをして隣の女性を見る。

「……」

 彼女は黙々と片付けをして、そのまま立ち上がって講堂の出口へ向かう。

「……ちょっと。怒ってる?」

 彼はそれを引き留める。彼女はようやく彼に振り向き、じっと睨んだ。

「怒ってません」

「いやいや……」

 説得力の無い表情と言葉を突きつけられ、彼はしまったと内心思う。

 これ、面倒くさいやつだ、と。


――


「おーい」

「……」

 彼の呼び掛けには応えず、彼女は学内を進む。しかし逃げるように去ることはなく、一定の距離を保っている。先程も彼が起きるまで待っていたこともあり、そこまでは怒っていないのかもしれない。

「なんで怒ってるか教えてくれよ」

「……」

「なんでもするって。……常識の範囲で」

「……」

「そんなに怒ってると美人が台無しだぜ?ミスコングランプリが」

「……うるさいっ。そもそもあれは貴方が勝手に……」

 遂に返答してしまった。

「そらきた」

「……あっ」

 にやりと笑った彼は、彼女を抱き上げた。

「ちょ……下ろしなさい。きゃ……ちょっと!」

「下ろしません。このまま駐車場でーす」

 彼は彼女をお姫様のように抱き抱えたまま歩いていき、彼のバイクの後部座席に座らせた。

「……まだ授業が」

「サボれ」

 自慢の黒いバイク。車種は彼女には分からない。だがそれは彼の大切な宝物。それに座れるのは彼女だけの特権だということが、やんわりと彼女の怒りを落ち着かせた。

「……もう」

 彼はバイクの中からいつもの黒いライダースーツを取りだして着込む。発車すると、彼女はぎゅっと彼の体へ腕を伸ばして掴まった。


――


 着いたのは、海だった。海水浴場。この季節はまだ海水浴客がちらほらと遊んでいる。

「……泳ぐの?」

「いや。眺めるだけだ。泳ぎたいならどうぞ?」

 潮風とバイクと、彼。

 間宮ゆりの世界はそれだけで満たされた。ゆりは海よりも、彼の横顔を眺めていた。


――


 そこへ。

「……悲鳴?」

 浜辺の方で、叫び声がした。海水浴客達が何やら走って逃げている。

「まさか……怪人?こんなところに…」

 ゆりは不安そうに彼を見る。

「…………」

 すると、彼はじっと睨んでいた。海水浴客の向こうで暴れる、怪人を。

「……早く逃げましょう。バイクなら……」

 ゆりはとてつもなく、嫌な予感がした。果たしてそれは的中する。

「……ちょっと?」

「…………」

「ねえって!」

 ゆりの声が届いていないのか、数度の呼び掛けでようやく反応した。

「……あ、ああ……」

 彼はゆりに向き直り、目線を合わせた。

「先帰ってろ、ゆり」

「なんでよ。一緒に逃げましょう」

「駄目だ」

「だからなんで」

 それに答える前に、彼はバイクのハンドルに引っ掛けていた黒いヘルメットを取り、それを被った。

「……女性が泣いているからさ」

 そう言い残し、彼は怪人の方へ走っていった。

「…………」

 残されたゆりは。

「……知ってるわよ、ブラックライダー」

 それが嘘だと知っている。彼女は哀しそうにそう呟いた。


――


 走る。全力で。

 本気で走れば、その速度はバイクはおろか飛行機にも負けない。

 風を切る。いや、風さえも自ら避けるように味方する。空気を、音を、色を。全てを置き去りに加速する。


 飛び上がる。その勢いのまま。空中では身動きが取れず格好の的だと何も知らない輩は言うだろう。

 しかし、風と光を纏った身体は、自然と宙に浮くのだ。地に足を着ける意味が無い。そのスピードは、大地を置き去りに重力を振り切る。この時点で速度は人工衛星を超える。


 空気との摩擦で赤熱する。その突き出した右足は、赤く白く燃え上がる。この体勢は、この状況では最も理に敵った『キック』を繰り出す。


 すなわち……。


「ライダぁぁぁぁぁああ!!!」

「!!」

 直撃。意識の遥か彼方の速度でやってきた『それ』は、怪人の心臓部を的確に捉え、貫いた。

 反応すら許さない。遅れて来た衝撃と舞い上がる砂塵、水飛沫が、彼の攻撃の凄まじさを物語る。

「…………!」

「きゃああああ!」

「ブラックライダーよ!」

「初めて見たわ!格好良い!」

 僅か1秒にも満たない攻防。避難した海水浴客から黄色い声が飛ぶが、ブラックライダーはまだ戦闘体勢を解かない。

「まだ居るな、出てこい」

「はっはぁ。バレたか」

 その言葉に反応し、地面から這い出てきた怪人がいる。巨大な身体に凶悪な爪。なのに先ほどの普通の怪人より人間に近い姿の怪人。

「俺はアイスバーグってモンだ。お前は?」

 アイスバーグは不適な笑みを溢して訊ねた。

「……野郎に名乗る名は無い」

 ブラックライダーは腰に付けたホルスターから光線銃を取り出す。

「ふん。どうして俺が分かった?気配は消していたが」

「分かるんだよ、てめぇら怪人のクセェ臭いがな」


――


 ブラックライダーは人間とは思えない動きで戦う。それは、ここに集まった野次馬の全ては、アークシャインによる特殊スーツの恩恵だと思っているだろう。

 だが、ゆりは。

 ここへ来て初めて疑問に思った。

「……『変身』……してない、わよね」

 彼がブラックライダーだということは、勿論知っている。しかし、戦う所を間近で見るのは初めてだった。今まで余り会えなかった理由を深く聞かなかったのも、戦闘しているのだろうと思っていたのだが。

 変身。それは人間と掛け離れた戦闘力を持つ怪人と戦うために、戦士に成るために必要な儀式だ。アークシャインの宇宙科学の産物であるスーツを纏い、肉体を強化する。

 だが。

「おらぁっ!」

「ふん。効かんな!」

 振り回される爪を掻い潜り、攻撃を重ねるブラックライダーの動きは、確かに戦士だ。だというのに、彼は変身をしていない。いつもの黒いライダースーツに、ヘルメットを被っただけだ。

 そう言えば、何故戦うのにヘルメットを被るのだろう。視界が狭くなるだけではないのか。

『ブラックライダー!応答願えますか!』

「!」

 そこへ、彼の黒いバイクから合成音声が流れてきた。


――


「……ていうか、『アイスバーグ』って、なんで英単語なんだよエイリアン」

 ブラックライダーの攻撃は、アイスバーグには殆ど効果が無かった。格闘術も光線銃も、アイスバーグの強固な肉体には効き目が薄い。かといって『あのキック』を打つ暇は与えてくれない。あの超強力な技は不意打ちか、相手に隙が無ければできない大技、否。『必殺技』である。

「お前らの文化圏に合わせてやってんだよ。そもそも俺も地球生まれだしな」

「ちっ」

 ブラックライダーは距離を取った。光線銃の効かないアビスは今まで居なかった。ピンチである。

「絶対的な防御力!これさえあれば負けねえ。俺が最強だ」

 なんとかして、隙を作る。ブラックライダーがアイスバーグにダメージを与えられる可能性があるとするならばそれしかない。

「(……いや、まて)」

 唐突に始まった戦闘だが、ブラックライダーは一度冷静になる。

 冷静に、状況を俯瞰する。

「(そもそもなんでこいつはここに現れた?俺がたまたま居たから良かったものの……いつもの襲撃なら、こんな田舎の海は襲わない。こいつの目的はなんだ……?)」

 もし、ここでの遭遇戦が偶然ではないのだとしたら?

「(俺をこの町に釘付けにするのが目的?だとしたら……)」

 アビス側は、彼とアークシャインが別行動している事を知らない。

 基地襲撃と同様、目的は戦力の分散?各個撃破?

「なんでも構わねえ。なんだろうと目の前のアビスは逃がさねえ。殺してから考えるぜ」

 また、同時に襲撃があったのだろう。だが、今は復活したシャインジャーメンバーに、パニピュアも居る。ワープが限定的になろうと、そこまで問題では無い筈だ。

「俺は俺の道を往く。行くぞデカブツ」


――


『ブラックライダー!応答願えますか!』

「……あなた、アークシャイン?」

 バイクから響く無感情の音声。それはニュースで聞いたことのある、そして彼に掛かってきそうな声でもあった。

『! 一般市民ですか。早く避難を!』

「違います。私も、関係者です」

『誰ですか?』

「……」

 ゆりは返答に少し悩んだ。関係者と言いつつ、なんと返事をしたものだろうかと。

「彼に何の用ですか?私から伝えます。彼は今戦闘中です」

『! もしかして、○○海水浴場ですか!』

「はい」

『……~!』

 アーシャは無線越しにも分かるような、焦りを感じさせる息を吐いた。

『……分かりました。今からすぐそこに、援軍が来ます。彼には撤退させてください。アイスバーグとは相性が悪い』

「伝えますが、退くとは思えません」

『でしょうね。では通信を終了します』


――


「!」

「……ふぅ~……」

 距離を取る。だが瞬時に詰めてくる。アイスバーグの爪は簡単に彼を引き裂くだろうが、それを全て避けられている。お互いに決定的なダメージが無いまま、戦闘は継続していた。

「ちっ!」

「ははぁ、疲れたか?」

 ブラックライダーの動きに、疲れが見え始めた。防御力を盾に突っ込むアイスバーグと比べ、運動量は遥かにこちらの方が多い。長期戦は不利であった。

「……前へ進むことだけが、俺のできることだ」

 ブラックライダーはもう一度光線銃を抜く。

「バカめ、効かねえっつってん……!」

「……例えば『目』」

「!」

 アイスバーグは咄嗟に目を覆った。瞬間火花が散る。

「『口』。『間接部』。……ようするに鎧着たアビスだろ?その隙を突けば良いってことだ」

「てめえっ!」

「当たりだな」

 このアビスの目的は時間稼ぎだ。ならば『こちらも時間を稼ぐ』。

 ブラックライダーは冷静に、アビスを撃ち続けた。





――舞台説明⑪――

 彩やエドは指揮官には向いていません。なのでこんな下手な兵の運用になっています。アビスとしては、『アークシャインやブラックライダー達が居れば即座に隠れ、逃げる』が鉄則なのです。アイスバーグに自信があったとしても。

 エドは『戦闘』に於いての指揮能力はありますが、『大局』を見れるほどではありません。

 ゆりは貧乳です。彼の好み。

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