第10話 明かされる過去!太陽と影と光

 夕暮れの丘。下校時間になるとここで時間を潰すのが日課だった。

 部活はやっていない。スパイクとかなんとか、そんなお金は無い。勿論遊ぶお金も。

 家に帰らないのは、帰るとぶたれるからだ。俺の居場所はこの丘だけ。

「いつもここに居るよね」

「!」

 入学して半年経つが、話し掛けられたのは初めてだった。『目付きが悪い』とか言われて、クラスでも浮いていた俺に。

「何やってるの?」

「……なにもやってねーよ。ぼーっとしてるだけ」

 こいつは……そうだ、隣のクラスの有名人だ。何が有名って、よくいる学園のマドンナってやつだ。

 あーそうか。マドンナとしてのキャラを保つために、話し掛けてきたのか。大変だな。……そんなことを考える俺も最悪だ。

「じゃ、私も」

「……は?」

 その女は、俺の隣にずうずうしく座って、俺と同じようにぼーっとし始めた。

「ここ、いいね。風が気持ちいいし、誰にも見付からない」

 そうだ。ちょっと山を登らないと来れない、下からも見えずらい絶妙な位置にある。だから気に入ってたんだが、見付かってしまった。

 明日にはこの女の取り巻き達で埋め尽くされるんじゃないのか。

「…………はぁ」

「……」

 色々考えが巡る俺を余所に、女はぼーっとしていた。


――


「や。私が一番乗りだね」

 次の日。

 何故かまたこいつが丘に居た。居心地がとても悪かったが、俺には他に行く場所もない。

「どっか行ってくれよ。ここは俺の場所だ」

「違うよ?」

「!」

「ここは私有地だよ。裏手の屋敷の土地。君の場所じゃないよ」

「……うるせーな。いいからどっか……」

「ぼーっとするだけだよ。別にいいじゃん」

「……」

 俺も何故か、女の隣に座って景色を見始めた。居心地の悪さはあったが、家よりましだった。


――


「私、塾をさぼってるんだ」

 ある日女がそう切り出した。今までぼーっとするだけだったが、このところは何かと会話している気がする。

「習い事か。金あっていいな。勿体無いから行けよ」

「やだよ。興味無いし、講師はセクハラしてくるし」

「……」

「もう、なにもかも投げ捨てて、誰も知らない無人島かどこかで暮らしたい。こんなに窮屈な生活を続けて、それで何になるのかしら」

「……窮屈ねえ」

「なに?」

「……俺は、家出したい。学校では避けられ、家では殴られ……何のために生きてるんだろうな、俺」

「……」

 いつもはお喋りな女が、黙ってこっちを見た。

「お互い苦労してるねー!」

「!」

 そして次の瞬間見せたこの笑顔が。

 俺の心を動かした。


――


「ひかりお嬢様!」

「!」

 背後から大人の声がした。慌てて振り向くと、スーツを来た老人が驚いた様子でこちらを見ていた。

「……桜田……」

 ひかりと呼ばれた女が嫌そうに呟いた。

「お嬢様?」

 訊ねると、俺を睨んだ。

「悪い?」

「……いや……」

 俺は、何がこの女を怒らせたのか分からなかった。

「影士様、見付かりましたぞっ」

 桜田と呼ばれた老人が、誰かを呼ぶ。呼ばれて現れたのは、俺達と同じくらいの奴だ。

「別にそこまでする必要ないって桜田さん。ひかりのやりたいようにやらせれば」

「そうは行きません。お嬢様の自由意思は勿論尊重しますが、まずはきちんとご自分のやるべきことを…」

 老人はくどくどと何かを説明している。隣の奴は、それを半分聞き流しながら俺たちの方を見た。

「……なにひかり、彼氏?」

 そしてそう訊ねた。どう返して良いか分からず、俺はひかりを見る。

「……!そうよ!悪い!?」

 俺は吃驚した。女がさらに怒っていたことにもだが、その台詞にも。

「行こうっ!」

 そして俺の手を取り、丘を駆け降りた。


――


「はぁ……はぁ……!」

 どれだけ走っただろうか。公園の水を飲み、ベンチに座る俺達。

「……はぁ……。お前、あの屋敷のお嬢様だったのか」

 とすると、あの丘は初めから、この女の場所だったと言うことだ。

「……そうよ……。望むものは与えられて、予定はお稽古で埋め尽くされて、許嫁まで居る。夏休みには毎年海外に行って、偉い人にも会ったことある」

 それが、物凄く面白くないことのように羅列する。

「私の意思を尊重する?バカ言わないでよ!」

 大声を挙げ、俺の手を取った。

「!?」

「ねぇ、ふたりでどこか遠くへ行こう?君も逃げたいんでしょう?大丈夫、中学生でも雇ってもらえるところあるよ。新聞配達とか」

「……何を……」

「さっきはごめんね。勝手に彼氏とか言って。でも、私は……」

 ひかりの顔が近付く。頬が赤くなっているのが分かる。俺も心臓がバクバク言っているのが分かる。

 そして……。


「はいそこまでー」

「!」

 そんな気の抜けた言葉と共に、ひかりの顔か遠ざかった。彼女は首根っこを掴まえられ、そいつに引き寄せられたようだ。

「ちょ、離してよ!」

「はい」

「!」

 そいつは、ひかりが暴れる前に手を離した。急に恥ずかしくなった俺は、なんとなくそいつを睨む。

 老人に影士様とか言われていた奴だ。

「……私達全力で走ってきたのよ!?なんで……」

「全力でも、ガムシャラでも。目的地を決めてないでたらめな走りならすぐ追い付けるさ。ひかりが行きそうな所も知ってるし」

 許嫁とは、こいつのことだろう。ひかりを連れ戻しに来たのか。

「なあお前、名前は?」

 噛み付くひかりを無視して、奴は俺へ訊ねた。

「……名前を聞くならお前から名乗れよ」

「そうだな。俺は星野影士。そこのお転婆、長谷川ひかりの許嫁だ。でお前は?」

「その紹介は余計よ影士!誰がお転婆だ!」

 唸るひかり。そう言えば、こいつにもちゃんと自己紹介してなかったな。

「……池上、太陽だ」

 俺はこの時、少し恥ずかしかった。太陽なんて、当時は珍しい名前で、小学校ではからかわれたりもしたからだ。だが。

「そ。じゃ『たいちゃん』だね!」

「!」

 2度目のその笑顔で、確定した。

「なんだひかり、お前も名前知らなかったのか」

「べ、別に良いじゃん。知らなくても」

「いいや。『知る』ことは重要だぜ。全ての『判断』に繋がる」

「……難しくて分かんないよ」

「しかもお前な、そんないきなりアダ名とか」

「いいじゃん別に。なに、昔みたいに『えーちゃん』て呼んで欲しいの?」

「じゃ、俺も『ピカちゃん』て呼ぶぞ」

「……それだけは止めて……」

 俺は、ひかりに恋をした。


――


「…………」

 目が覚めた。いや、実際には覚めていない。だが太陽は、確実に意識を取り戻した。取り戻してからも、まだ夢の中なのだが。

『……スタアライトと仲間だったのは本当だったのですね』

「……」

 幼き長谷川ひかりに恋をした瞬間のまま、世界は止まっていた。それを俯瞰するように、今太陽は暗黒の世界に居る。

 隣にはアーシャが立っていた。

「……そうだ。全てはここから始まった。ひかり、影士との出会いは、俺の人生の中で最高の出会いだった」

『……三角関係、というものですか』

「……うるさいな。で、なんだよアークシャイン。今、ここは……」

 太陽は、状況を整理する。

『貴方はまだ眠りの中。スタアライトに負わされた傷が癒えないのです』

「……どれだけ眠っている?」

『1ヶ月』

「!」

 その言葉に、太陽は驚愕した。

「今すぐ起こしてくれ」

『私にはできません』

「ならなんで俺の中に現れたんだ?」

『……貴方に、力を授けるため』

「!」

 夢の中で、アーシャは目を開いて居た。彼女が目を開く所は見たことが無い。その瞳には、何やら紋様が刻まれている。

「すぐやってくれ。パワーアップなら大歓迎だ」

『……ですが、この方法は危険です』

「?」

『まず説明します。その上で、判断して欲しい。そのために貴方の意識に潜ったのです』


――


 太陽をパワーアップさせる方法。それは、らいちやかりん、パニピュアに施した『モノ』と同じものである。

 これを行えば、シャインジャーの特殊スーツより強力な出力を出すことができるようになり、戦闘能力は格段に増す。しかし。

『貴方は人間ではなくなります』

「……どういうことだ?」

『アビス粒子を浴びた人間は怪人になるという話はしましたね』

「ああ。……まさか」

『はい。それと同じです。貴方には、私の体液を取り込んで貰います』

「……!」

『そうすることで、貴方は私と同族になります』

「……ていうか、言い方生々しいな」

『どうしますか?』

「…………」

 太陽は腕を組んで考えるポーズを取った。

「デメリットは?」

『寿命が延びます。正確にどれだけ延びるかは分かりませんが……恐らく常人の数倍に。そして、遺伝子ごと変わる為に地球人類とは子作りが出来なくなる』

「やるよアークシャイン。その程度、地球の存亡と比べたら気にならないレベルだ」

 答えを聞いてから太陽は即答した。アーシャは少し驚いたが、その正義感こそ、彼女の求めていたものだった。自己犠牲の精神。それは彼女らの種族を何倍も強くする。

『……分かりました。では現実の方で、眠る貴方に口付けをしましょう』

「…………む」

 即答したものの、太陽は少し身構えた。

『なんですか?まさかファーストキスではないですよね。見る限りひかりと……』

「いやいいよ。はやくしてくれ、もう」

『ふふ。……ああそう言えば』

 消える間際に、アーシャが笑った。

『私は今「アーシャ」と呼ばれています。素敵な名前でしょう?』

「……へぇ良いな。アークシャインて長かったし」

『それに安心してください。人類と子作りできなくても、同族とはできますから』

「!!」

 アーシャは悪戯っぽく笑って、太陽の中から消えた。

「……なんなんだよ」

 太陽は少しだけ、どきりとした。




――舞台説明⑩――

 彼らが中学生のころにちょうど、『ボールに入れたモンスターを取り替えっこするゲーム』の続編辺りが流行し始めました。

 ひかりのあだ名はもっと直接的だった時もあります。

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