第9話 新たな敵!山の三人衆登場!

 アークシャイン壊滅。

 そのニュースは、瞬く間に世界に広まった。職員の2割が死亡、研究施設とワープ装置を取られ、さらにアーシャも捕まった。

 これにより、戦力補充はおろか装備の供給も無くなり、お互いの連携も取れず、ワープも使えない。

『本日ヴァチカンに現れた怪人はブラックライダーに倒されましたが、出現から約30分後であったため、街の被害は大きく……またソウルと旭川では救援が追い付かず、ソウルでは現地の軍隊がなんとか撃退に成功したものの……』

 そしてなおも止まらない、怪人の同時多発出現。シャインジャーが復活しようと、ワープが無ければ守れる範囲は酷く狭くなる。

「畜生!これからどうすれば良いんだ!」

 シャインジャーのひとりである宍戸辰彦は壁を殴り付けた。ここは臨時的な基地となっているホテルだ。

「一応、基地が襲撃された時に備えて研究施設と管制機能はあるが……職員を失ったのがでかい。それにアーシャも」

「今ワープできるのはブラックライダーだけだろ?まだ連絡取れないのか!?」

「無理だな。掛けてるが出ない。今は上層部の判断待ちだ」

「畜生……!」

 彼らは今、上層部から待機を命じられていた。


――


『行きますよ、ふたりとも』

「また?」

「いいじゃない、私たちの役目だよ」

 小さいアーシャが、淡く光る。それに触れることで、ワープが可能になる。

 パニピュアのふたり……茶髪の五十嵐らいちと、長髪の南原かりんが人形の姿のアーシャに手を伸ばす。

『……今は、貴女達だけが頼りです。パニピュア』

「まっかせて!」

 ふたりは光に包まれ、その場から消えた。


――


「…………!」

 元・アークシャイン基地。彩は難しい顔で、それを睨んでいた。

「どう?」

 そこへエドが入ってくる。

「……えっくん。無理だね。何の反応も無い。これはただの殻だよ。とても生きているとは思えない」

 その部屋は学校の保健室のような内観でベッドがあり、そこには4対8枚の翼を持つ、アーシャが眠っていた。寝息も立てず、ぴくりとも動かない。その美しい見た目も相まって、本当に人形のようであった。

「……確か彼女らは、クリアアビスに滅ぼされた星の種族だね。ワープのような高い文明を持っていたなら、アビスのように精神を使う技術もあったかもしれない。だとすると、これは器で、本体は精神体となってもう逃げているだろうね」

「幽体離脱……?」

「そんな感じ。しかも離脱した幽霊は実在するというおまけ付きだ。監視カメラを見るにワープ自体は出来ることは出来るけど、規模も距離も随分小さくなっている。こちらが装置を抑えていることもあるだろうね」

「……『パニピュア』。なんなの、あれ?」

 彩はモニターから監視カメラの映像を流した。最近新たな敵として現れた、ふたりの少女のことだ。

 エドも注意深く画面を見る。ふたりの少女は細い四肢から繰り出した勢い良くも弱々しいパンチやキックで大柄な怪人を一撃で吹き飛ばし、打ち砕いている。想像を絶する光景だった。

「……明らかに、シャインジャーより強い。出力は下位アビスでは止められないほどだ。さらに……」

 と、画面内でもらいちとかりんが、両手を突き出したポーズを取る。すると、巨大な光の束が一条に連なり、複数の怪人を纏めて灰も残さず塗り消した。

「あの飛び道具だ。ふざけた威力をしている」

「暴力の権化って感じだね。多分超高温の熱線かな。範囲外に影響は無いぽいけど、まさか放射能とか出てないよね」

「対策はしておかないとね。ここにワープしてくる可能性もあるし」

「……ワープ同士の戦いって、なんか怖いね」

「とにかく早めに手を打とう。あの少女達のことを調べておいて」

「うん。えっくんは?」

「僕は『あいつら』の世話をしないと」

 そう言って、エドは部屋から出ていった。そう。新戦力はなにも、人類側だけではない。エクリプスの恐怖はまだ終わっていないのだ。


――


「おう。エクリプス」

 その部屋は、シャインジャー達が会議室として使っていた部屋である。そこには、3体の下位アビスが居た。1体は大柄な怪人をさらに大きくした巨躯のアビス。それでありながらどことなく人間の面影が残り、狂暴な笑みを讃えている。

「早く俺を暴れさせろよ」

「…………」

 それを無視して、エドはさらにもう1体を見る。女性のような体つきのアビスだ。

「確かに退屈よう。エクリプス。アタシは早く世界中の男の精神を食べちゃいたいの」

 色っぽくそうねだる彼女の奥に、さらにもう1体。

「今こそ、瀕死のアークシャインを滅ぼし、邪魔者を消すべきだ。そうだろうエクリプス」

 3体の中では、一番人間に近い見た目をしているそれは、燃えるような赤い角を頭から生やしており、灰色の髪と、赤い瞳をしていた。

「……まず自己紹介してよ。君たち」

 エドが溜め息混じりにそう言った。

「おう。俺は"氷山(アイスバーグ)"!パニピュアだかなんだかしらんが、あの程度の攻撃なら俺には効かねえ」

 巨躯のアビスがまず名乗りを挙げた。続けて女性型のアビスが立ち上がって、胸に手を当てる。

「アタシは"鉱山(マイン)"。アタシはブラックライダーに興味あるわあ。イイ男よねえ」

 最後に赤い角のアビスが口を開く。

「"火山(ボルケイノ)"だ。命令されれば何であろうと灰塵に還してやる」

 エドは、彼らを見て少し頼もしく見えたが、しかし不安を隠しきれなかった。

「……『山の三人衆』ね。ハーフアビス1歩手前の……『上位アビス』と言ったところか。まあ、彩さんからGOサインが出たら好きにしていいけど、あくまで君らは『雑魚』だ。それを理解してないと死ぬよ」

「ハハッ。任せなエクリプス。あんたから貰った粒子で覚醒したんだ。アークシャインの残党どもはきっちり蹴散らしてくるぜ」

 自信満々な様子のアイスバーグ。

「ハァ……。ブラックライダーの前に、取り合えず食事がしたいわあ」

 マイペースな様子のマイン。

「……どうでもいい。手柄を立てて、ハーフアビス進化だけだ、俺の目的は」

 そして、命令を待ち座すボルケイノ。

 彼らは100体のアビス兵の1体だった。基地襲撃の際に人間を喰らい、成長して上位アビスとなった、アビ太郎の同類である。

「まあ、頑張って。君らが戦局を動かせるとは思えないけど、くれぐれも勝手な行動はしないように」


――


「天を撃ち抜く純金の光!ピュアホープ!」

「天に突き刺す純白の光、ピュアピース!」

「「不埒な輩に、純粋なる天罰を!パニッシュメント・ピュア・ガールズ!略してパニピュア、早くも遅刻王ですっ!」」

 らいちとかりんの活躍は目覚ましかった。ワープ距離こそ短く、世界の裏側までひとっ飛びとは行かないが、日に何体も出現することが当たり前になった現状でも、彼女らは疲れを見せずに戦い続けた。ローマで2体を倒し、2時間後には渋谷区で1体、その5時間後にはフェニックスで同時に3体を相手に無傷で打ち倒した。

「次はっ?」

『いえ。今日はもう終わりみたいですね』

「良かった。晩御飯には間に合ったね」

『…………』

「アーシャ、どうしたの?」

 1日に3度も戦闘をして、世界中を飛び回り、しかし疲れた様子を見せないふたりを見て、アーシャはしばしば、自分の選択が間違っていたのではないかと自責する。

『……いえ。では帰りましょうか』

「うんっ」

 だが、これは正しい判断だと、自分に言い聞かせた。

 『惑星ひとつの、全ての生命を護るために、少女ふたりを犠牲にする』。ふたりと両親には説明し、理解して納得してもらっている。当人の了承も得ているなら問題ない筈だ、と。


――


「……ねぇアーシャ」

『なんでしょう』

 その夜。布団の中で、らいちが訊ねた。

「アーシャはアビスに滅ぼされた種族なんだよね」

『ええ』

「じゃあなんで、アーシャは生きているの?」

『!』

 中学生の素朴な疑問。悪意も何もない。純粋に、『滅ぼされたのに生き残りがいる』ことに疑問を持ったらいち。

『……私は、私達の種族の、全人口1000万を治める王族でした』

「えっ。お姫さま!?」

 アーシャは真面目に答え始めた。アークシャインの幹部達にも、池上太陽にも話していないことを。

『アビスは、侵略した文明を家畜にします。滅ぼしたのは文明であり、種族ではありません。私達は食料として、研究され、生かされ、管理されました。栄養価が高くなるように、沢山産めるように、加工しやすいように。地球で言うと、そう……豚や牛のように』

「酷い!」

『……アビスがですか?人類がですか?』

 中学生の率直な感想を、アーシャは見逃さなかった。言われると、らいちは言葉に詰まる。

「…………分かんない。でも、わたしはちゃんと『いただきます』してるよ。豚さんにも感謝して……」

『アビスも、そうですよ。私達を尊重していました。「食料として」』

「!」

 これ以上は中学生の頭では処理できず、話が進まないと判断したアーシャは、本筋に戻る。

『まあ、その話は置いておきましょう。私は王族だったので、家畜ではなく奴隷にされたのです』

「どれい」

『私達の文明の、前の種族も、王族は殺さなかったらしく、恐らく今も生きている』

「……なんで?」

『アビスは、繁殖能力が低いのです。純血を守る王族以外は、特にハーフアビスは他種族の雌を支配することで増える』

「……え……」

 らいちは固まった。中学生なりに必死に想像したのだ。想像してしまった。アビス達に『ひどいこと』をされるアーシャを。

『同情は要りません。我々は敗北者なのですから。……しかし、次は勝つと決めた敗北者です。今の敗北は甘んじて受け止め、次回勝つ為に行動してきました』

「……よくわからないけど、アーシャは王族で良かったね」

『!』

「だって、こうして私たちと会えて、アビスと戦って、今度は侵略させないぞ!ってできるもんね」

 らいちは想像でしか知らない。アーシャが感じてきた苦悩を、与えられた苦痛を、耳に残る同族の悲鳴を、絶望の終焉を。

「ねえ、もっと教えて?アーシャのこと、王様のこと」

 終わらない悪夢の中でようやく見付けた、か細い灯火を。

『……貴女達だけに頼れませんね』

「なにが?助けるよ?言ってね?」

『ふふ……』

 アーシャは前を向くことを決めた。もう何百年になるだろうか。

 必ずこの悪夢を終わらせる。この子達となら、できるはず。

『(……だけど、あともうひとつ)』

 アーシャはらいちが眠ったのを確認してから、意識を飛ばして病院へ向かった。精神のみの移動は、精神力の高い王族にのみ使える技術である。

『……もう傷は治っているはず』

 その一室。未だに関係者以外立ち入り禁止の一室。

 4人部屋だったが、今ではベッドを使っているのはひとりだ。

『……起きてください、太陽』

 精神体のアーシャは、祈りを込めて、眠る太陽の中へダイブした。




――舞台説明⑨――

 今さらで、どうでも良いですがアーシャは巨乳です。

 アビス側がようやく組織になってきた。

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