第8話 純粋なる裁きの光!パニピュア登場!

「……ふぅ」

 大津市に現れた怪人を倒してから、琵琶湖の景色を眺めるブラックライダー。

 今日はまだ2回の戦闘だったが、それでも疲労は凄まじい。

 彼は少し考えていた。

『ブラックライダー、取れますか?』

 そこへ、アーシャから連絡が入った。精神干渉ではない、ただの無線による通信だ。

「……怪人じゃないよな?」

 ブラックライダーは恐る恐る訊ねる。

『違います。……貴方の、正体のことです』

「!」

 ブラックライダーの表情が驚いたものに変わった。

『それは私が与えた装備ではない。そのバイクはワープ装置も兼ねている。そして見せない素顔。……これは予想ですが、貴方はもしかして……』

「そこまでだアーシャちゃん。俺も、君に用事があった」

『……なんでしょう』

「俺は明日から、好きにしようと思う」

 ブラックライダーが切り出した。アーシャは、一瞬止まる。

『……アークシャインと手を切ると?』

「そこまでは言わないが、しばらく基地にも行かないし、連携もいいや。アビスとは戦うから安心しなよ」

『さすがにここ数日の連戦は堪えましたか』

「……ぐ。そう言われるとひかりちゃんよりへちょいな俺。……まあ、考えがあってね」

『仕方ありません。元々貴方とは何の関係も無いですから。ですがせめて、他のシャインジャーの復活までは力を貸してくれませんか?』

「……悪いね」

『ブラッ……』

 ブラックライダーは、強制的に通信を切った。そしてハンドルを握り直し、発車した。

「……。"日蝕(エクリプス)"。この広い宇宙で、ようやく見付けたぜ」

 そしてどこかへ去っていった。


――


 それから。

 2週間が過ぎた。この間、怪人は毎日2~3体出現し、その内1体はブラックライダーが対応してくれるものの、ひかりの疲労は限界に達していた。だが、この日。

「……待たせたなひかり」

「…………!!」

 シドニーで倒れかけのひかりの前に、頼れる正義が現れる。

「この宇宙に栄える悪は!」

「このシャインジャーが捨て置かない!」

 シャインジャー、復活である。

「……たいちゃんは……」

「ごめん」

 復活は、シャインマーズ、マーキュリー、ジュピターの3人であったが。

「さあ、反撃開始だ」


――


 そしてさらに……。

「待たせたね、彩さん」

「うおお!凄い、えっくん!」

 世界のどこかの、アビスのアジト。彩とエドは、その光景を見ていた。彩は驚嘆した顔で、エドはやりきったといった表情で。

 そこには約100体の下位アビスが綺麗に隊列を組んでいた。

「さあ、侵攻開始だ」


――


 まず、世界各地でアビスを発生させる。この2週間のデータから予測し、最低5体。そうするとブラックライダーとシャインヴィーナスはその対応に追われ、基地は長時間無防備になり、侵攻の時間が生まれる。そうしてから100体のアビスを一気に基地へ送り込み、とにかく暴れる。アーシャは捕らえられれば良いが、最悪殺してしまっても構わない。

「……アビスが出たって」

「じゃあ、初陣、だね」

 その声は、日本の一般家庭…の玄関から聞こえた。

「緊張、してる?」

「ちょっとだけ。でも、大丈夫だよ」

 それは少女の声だった。制服を着ている。これから登校だろうか。

「遅刻、しちゃうね」

「しょうがないよ、ね、アーシャ?」

 それはふたりの少女であった。彼女らが振り向くと、人形のような大きさで等身が低い、小さなアーシャが宙に浮いていた。

『ええ。遅刻して世界が救われるなら、いくらでもしてください』

「おーけーっ」

「や、でも遅刻は駄目だよ?」

 そして彼女らは、元気良く家を出た。


――


「ギャギャギャー!何もかも破壊してやる!」

「きゃあああああ!」

 蠍型の下位アビスが、その爪と針でビルを破壊している。一般市民の悲鳴が轟く。

「待てーい!」

「ム!シャインジャーか!」

 そこへ到着したのは、シャインマーズとシャインジュピター。

「ギャ!5人じゃないのかよ!」

 アビスが叫ぶ。

「お前程度、ふたりで充分!同時多発なんだから戦力分散は当たり前だろ!」

「ムム!なら分散させたことを後悔させてやる!」

 戦闘が始まった。


――


 その様子を、彩がハックした監視カメラの映像を映した携帯電話から見ていたアビ太郎。

「ふむ。では私もいきますかな」

 アビ太郎は紳士的に、爪をシュルリと突き出した。蛙型だが、爪と甲殻はアビスの標準装備である。

「最強の下位アビス、このアビ太郎が、彩様のため命の限り囮役を買って出ましょうぞ」

「いた――!」

「むっ?」

 アビ太郎が都市へ攻撃を開始しようとしたところに、少女の声が響いた。その姿を見て、アビ太郎は鼻で笑った。

「一般市民の、しかも子供とは。私に食べられに来たので?」

 ふたりの少女は、アビ太郎の前に立ち塞がった。

「たっ。食べ……。やっぱりゲスね怪人て。エッチ!」

「耳年増ー!?」

 髪を明るい茶髪に染めたショートヘアの少女は、顔を赤くしてアビ太郎へ罵倒する。隣の藍色の髪をストレートロングに伸ばした少女はその発言に驚く。

「とにかく、あなたたちの好きにはさせないんだから!」

「いくよ、らいち!」

「!?」

 少女達は、制服の袖を捲り、腕時計型の装置を露出させた。それはシャインジャーの変身装置に似ている。

「「ラウム・コネクト!」」

 ふたりが同時に叫ぶと、装置が強く光る。光はふたりを包むように拡がり、やがて全身を覆う。

「……アークシャインの超科学かっ!」

 アビ太郎はそれに感付き、距離を詰める。何をするかは分からないが、動きの無いここで仕留めるつもりだ。

 だが。

「!!」

 アビ太郎の凶悪な爪は、光の幕から伸びて出た少女の手で、優しく止められた。

「……焦らないでね♪」

「ぐおおっ!」

 そんな可愛らしい声が聞こえたと思えば、アビ太郎は強い風に弾かれたように後方へ飛ばされた。

 光はふたりの少女を覆う服のように形を変えていく。茶髪の少女には、金色の光、長髪の少女は白色の光が重なる。纏った光の幕から、始めに元気良く飛び出したのは茶髪の少女。

「天を撃ち抜く純金の光!ピュアホープ!」

 続いて白い光から歩いて現れたのは、長髪の少女。

「天に突き刺す純白の光、ピュアピース!」

 ふたりは並んで、アビ太郎を見据える。彼女らの格好は制服ではなかった。しかし戦闘向きと言えるものでもない。それぞれ金と白をモチーフとした、リボンとフリルをあしらえたきらびやかな舞台衣裳のような服であった。

「「不埒な輩に、純粋なる天罰を!ふたりでパニピュア、本日初陣ですっ!」」

 息の合った啖呵が切られた。

「…………なっ……ん……うん……」

 その勢いと異様さにアビ太郎は言葉を失った。

「いくよ、かりん!」

「ええらいち!」

 まず先陣を切ったのはピュアホープ…金の光を放つ少女。アビ太郎まで突進していき、その勢いのまま横に薙ぐように蹴りを繰り出した。

「! バカめ、アビス相手に素手だと?」

 アビ太郎は攻撃の意思を感じ、反応する。少女の足の軌道上に鋭利な爪を出した。ガードしつつ、足にダメージを与えるつもりである。

「素足だよっ!」

「ご!?」

 ピュアホープは爪など気にせず、蹴り抜いた。それはアビスの凶悪な爪をアビ太郎ごと打ち砕き、さらに後方へ吹き飛ばした。

「……よしっ」

 ガッツポーズのピュアホープ。攻撃を行ったそのか弱そうな細い足は、傷ひとつ付いていない。遅れて駆け付けたピュアピース……白色の少女は冷や汗をかいた。

「いや、素手ってそういう意味じゃないよ?」

「かりん、必殺技!」

「えっ。うん!」

 ピュアホープは両手を前に突き出して構えた。ピュアピースも慌てつつ横に並んで同じポーズを取る。

「……ぐっ。なんというパワーだ。パニピュア……だと?アークシャインの新たな兵か?彩様に……連絡を……」

 瓦礫に埋もれたアビ太郎は、なんとか這い出て通信機を取り出す。

「……故障かっ」

 しかし通信機は動かなかった。先程の衝撃で壊れたのだろう。

 そして。

「……くそっ」

 爪も折られ、満身創痍のアビ太郎。見ると少女達は、先程より強い光に包まれていた。

「……なんとしても、彩様に……」

「弧を描く光の神罰!」

「いくよーっ!」

 パニピュアのふたりは、その強烈な光を一点に集め、アビ太郎へと撃ち放った。

「「アーク・シャイニング・パニッシュメント!!」」

「……彩様……」

 無慈悲なる巨大な白金の光の束は、文字通り光の速さで、アビ太郎の存在を強固な甲殻や牙、爪ごと何もかもを無に還した。


――


「呆気ないな。本陣の守りは厚いと思っていたが……普通の研究施設らしい」

 一方、アークシャインの基地では。

 100体の下位アビスを連れ、エドが自ら制圧に参加していた。

「くそぅ!どうしてここがばれた!?」

「職員を早く避難させろ!シャインジャーはまだ帰らないのか!?」

「ダメだ、あっちも戦闘中だ!ブラックライダーは!?」

「連絡取れないだろ!」

 逃げ惑う職員達。それらをアビスが殺していく。

「食え食え。科学者の高度な知性は栄養満点だ。運が良ければお前達、何体かはハーフアビスへ進化できるぞ」

「ギャギャー!」

 つつがなく侵攻は進んでいく。大半は逃げ惑う職員だが、果敢にも立ち向かってくる者が居た。

「!」

 何か爆発物の直撃を受けたエド。アビスの肉体でなければ即死していただろう。着ていた服が焦げている。

「……地球の武器だな。ロケット弾か?詳しくはないけど…」

 エドは無傷のまま、それを撃ち込んだ職員に近付く。

「ばっ!……化け物……!」

 彼は怯えていた。

「なんだよその感想。面白いな君」

 そして頭を掴み、アビス粒子を注ぎ込んだ。

「マインド・ポゼッション」

「アアアアアア!!」

 職員は叫ぶ。眼から、鼻から血が流れる。そして、やがて死んでしまった。

「……量が多すぎたか。下位アビスにもならないとは」

 そして、遂に作戦室へ辿り着く。

『…………!!』

 そこには、アーシャがひとりで立っていた。眼を閉じ、大事そうに白い杖を抱き。

「やあアークシャイン。やっと直に会えたね。作戦は殆ど成功だな」

『……エクリプス……!』

 エドはワープ室を確認し、彩へ連絡を繋いだ。

「抑えたよ。これでワープ技術は僕達のものだ」

『やったね!』


――


 この日。

 シャインジャーは復活した。

 ブラックライダーは消息を絶った。

 新たにパニピュアが登場した。

 アーシャは敵に捕らえられた。


 そして、国際組織アークシャインはその機能を停止した。




――舞台説明⑧――

 数の暴力その2。

 個人的には『純金の光』が好き。口上や技名はふたりで考えたのでしょう。

 一応、職員は予め決められていた脱出経路を使い、多くは無事に逃げています。

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