第12話 乗り込め!アーシャ救出作戦開始!
『基地の奪還作戦です』
これは数日前のこと。太陽の病室から戻った人形アーシャが、関係者を集めて言った。
「……容易では無いぞ」
「そうだ。向こうには100体の怪人が居る」
元上層部の彼らは、反対気味の意見だった。予備のワープ装置もなんとか実用段階に入り、アーシャも(精神体だが)無事。基地を奪還するメリットはあまり無かったのだ。
いや、それより。
『私の目的はアビス侵略の阻止。そのためには、私の肉体が必要になりました。なので奪還します』
「……アーシャ。済まないが」
『?』
元上層部のひとりが、疲れた様子で手を挙げた。
「私たちは今回の責任を取り、辞職する。『もうアークシャイン関係者では無い』。貴女の作戦を考える権利も否定する権利も無くなった。ただのリストラされたおじさんになったんだ。ここに居る『全員』が」
『…………責任?』
「ああ。地球の文化さ」
精神体のアーシャは、首を傾げた。
「私達は人類を『護らなければならない』。だが今は『護れていない』。それは『基地を奪われた』からで、その責任は『私達にある』。無能な頭は切り捨て、組織は再出発する。悪いが『アークシャイン』の機密はもう私達に伝えなくて良い。情報漏洩になるぞ。もう関係者では無いのだから」
『……意味が分かりません。基地を奪われたのは敵の作戦によるもので、少なくとも守ろうとした貴方がたに非は無い筈』
「だが責任は発生する」
『それはアビスとの戦争を終えた後に清算すれば良いでしょう?2割の職員を失った今、さらに人員を削るメリットがありません』
「その2割の職員の遺族からの声が強いんだ。我々が無能なせいでウチの旦那は、父は、兄は死んだとね」
『本人も家族も危険を承知の上で働いていた筈です。承諾書もある』
「そうだろうが、関係無いよ。危険だが『死ぬ筈は無い』。『ウチの人に限ってそれは無い』と、ね」
『……それでは契約が成り立ちません。そもそも、貴方がたが居なくなれば、今後誰がこの組織を指揮運営できると言うのです。誰が、資金調達をして、諸外国と交渉して連携を取るのです』
「『そんなことはお構い無し』だ。後はお前たちで勝手にやれ。だがこれ以上の損害は許さん。……これが『世論』の考えだ」
『損害は私達では無く、アビスが出しています。責任はアビスにあります』
「大多数の一般人は、そうは思ってないようだ」
アーシャは呆気に取られる。
『…………元々、人類は滅ぶ運命でした。それを、私と、勇気ある貴方がたの助力があって、ここまで来れたのです』
「世論はそうは考えない。寧ろアーシャ。君が怪人被害という害を連れてきた原因と考える人も居る」
『…………』
アーシャは感情の窺いにくい綺麗な顔を崩さず黙ってしまった。
「もちろん、我々は君に感謝している。君の思いも、理解している。だがこの星の人間は、特に日本人は。『そう考える』人達が大勢いるんだ。軍隊に装備を貸せない話は覚えているだろう。『利』によって動く人間は扱いやすいが、『気分』で動く人間は無理だ。我々は元は、怪人からの被害を最小限に抑え、敵主力を討伐することを目的とした団体だったが、いつの間にか世間の雰囲気では、『怪人から市民を必ず護らなければならない義務』を背負った団体になり、少しでも被害が出れば『責任を果たせなかった無能』扱いされる。『どんな時でも無償で働き続け、弱音ひとつ漏らさず、いつも笑顔で、建物にも被害を出さずに敵を圧倒』しなければ、無能なのだ。我々は」
彼らは、作戦室から出ていった。その後ろ姿は哀しみに満ちており、アーシャは引き留めることができなかった。
『……今は、人類存亡の瀬戸際です。一致団結して脅威に立ち向かわなければ私の文明と同じ運命を辿る』
「それを人類全員までは理解できないのよ。同じ星の中でも戦争が絶えないのに、一致団結は無理」
その場には、ひかりを含めたシャインジャーメンバーも居た。アークシャインの職員は、もう博士と彼らしか残っていなかった。
生き残った職員も、辞めていってしまった。
『……南原博士』
「なんじゃ?」
『……私の文明も……アビスでさえ。ここまでではありません』
「じゃろうな。惑星間移動を可能にする文明じゃ。さぞ高度な知性を持っとるじゃろう」
『……私達が人類を護る必要は、実は無いのですか』
「まあ、こちらから『助けて』とは言っておらんからの。……心折れたか?アーシャよ」
『……正直、迷っています。今、敗北者のように出て行った彼らは決して、無能ではありません。殉職した職員も含めて。私が保証します』
「ふむ」
『それを…………侮辱、するのが地球の民族性なのですか』
「……それ以上はよせ。アーシャ、君の精神に悪い。安心せい、わしらは戦争を止めんよ。例え世間に見捨てられても。そんな酔狂なメンバーじゃ。ここに居る全員な」
『……』
アーシャは俯いた。しかし。
「じゃあ話を戻すわよ。基地奪還作戦よね。そもそもワープできるの?向こうも対策くらいしてるでしょ?」
「問題ない。対策の対策をしている。ワープ解析ならわしは世界一じゃ」
「博士が地球で唯一だもんね。そりゃ世界一になるよ、自動的に」
「後は制圧か。エクリプス含む100体のアビス。これをどうにかしないとな」
『……』
議論が進んでいく。アーシャは呆気に取られていたが、ひかりがそれを見て笑う。
「もう団体じゃない。組織じゃない。今からボランティアよ。勝手に護るの。以前上層部から却下された案もできるわよ?」
『!』
「周りは気にしなくて良いわよアーシャ。地球を護る、その目的に殉じましょう。それとも、もう護るの、嫌になった?」
そう訊かれて、アーシャは考えた。自分が護ろうとした人間は、救う価値があるのかと。
そして、ひかりも、他のシャインジャーも、人間であることを思い出した。さらには、自分達の種族がアビスに滅ぼされたことを『忘れて良い筈がない』。
『……ありがとうございます』
正義とは。
信頼である。
アーシャの正義は、しっかりと彼らに伝播していた。
――
『ここから基地へワープします』
アーシャが指し示した地図には、とある海岸があった。
すぐ近くに海水浴場がある。
「……『ゲート』のひとつね。余り使っていなかったところ」
『そうです。決行は本日。少数精鋭で行こうと思います』
「100体のアビス相手に?」
『はい。100体のアビスと正面からぶつかり、制圧できる戦力は、現状パニピュアのみです』
「……」
ひかりは少し考えた。
「じゃあ、私達の役割は?」
『撹乱です。我々はいつも通り都市の防衛をしていると思わせる』
「……分かったけど、そもそもパニピュアってなんなの?」
思っていた疑問を。
「いくら強いと言っても、あんな子供を戦わせたくは無いわよ」
「その通りだな。宇宙人との命がけの戦争だ。そもそも国際法でもだな」
『……』
ひかりと辰彦が語る。だが。
『申し訳ありませんが、彼女達については余り多く話せません』
「…………そうか」
『理論で言えば、彼女らはもう人間ではないので、地球の法律は無効です。……感情で言えば、これは彼女らが望んで得た力であることと、彼女らの家族も同意の上と言うこと。彼女らは兵士ではなく戦士です。そして、あなたがたより強い』
アーシャはそれ以上言わなかった。ひかり達も、追及しなかった。
どう綺麗事を並べようと、現にパニピュアが居なくては地球は滅ぶのだ。エクリプスの襲来により、もうそこまで来てしまっていた。
ひかりは自分に置き換えた。もし、自分が13歳で、世界を救うには自分の力が必要で、自分にしかその力が無かったなら。
「……たいちゃん」
少しだけ、10年前を思い出す。
どうせ戦う、と。
――
「ちっ……硬すぎだろ」
「はっはぁ!」
ブラックライダーの光線銃から空気が漏れる。弾切れである。日光を吸収して撃ち放つこの銃は、昼間であれば弾には困らないが、機械の方が先に音を上げてしまう。
彼はオーバーヒートした銃を投げ捨てた。
「しゃあねえ。奥の手だ」
そして、ヘルメットを深く被り直し、両手を腰に当てた。
「……あぁ?」
アイスバーグが睨む。
ブラックライダーの両手は、ゆっくりと腰から、ベルトへ。
そしてベルトのバックルへと到達した。
「……変……っ」
彼が呟く、その言葉が紡がれる。
直前。
「いた――――!」
「!」
彼の決意とその行動は、少し気の抜けるような少女達の声で止められた。
「ちょっと待ちなさいおじさんアビス!」
「私たちの攻撃じゃないと効かないって、分かってるんだから!」
ポニーテールにしてみた茶髪を揺らす五十嵐らいちは、ずびしとアイスバーグを指差す。声は防波堤を挟んだ向こうから聞こえたが、彼女らはジャンプひとつで浜辺へ飛んでくる。
「さあ、あたしたちが相手よ!」
言いながら、らいちとかりんはブラックライダーの側に到着する。
既に変身を済ませたようで、やはり戦闘には向かないようにしか見えないフリフリの衣装であった。
「……お、おい……」
ブラックライダーは一瞬何が起きたか分からず思考を停止していたが、ようやく口を開く。
だがそれを、らいちは手で制止した。
「お兄さんは下がってて!あたしたちがやるから!」
「……え」
反応に困るブラックライダー。しかしアイスバーグが、彼女の登場の一切を邪魔しなかったことへの疑問が先に沸いた。
「はっははァ!!」
「!」
突如、アイスバーグの周辺の砂が爆発した。
「お前らから来てくれるとはなぁ!」
土煙が晴れると、アイスバーグの顔は嬉しさの余り歪んでいた。
「パニピュア!」
――
「先に行って!私たちもこいつ倒して後から行くから!」
「……は?」
そう言い切り、らいちはアイスバーグの方へ駆け出した。ブラックライダーには何のことか分からなかったが、駆け出さなかった純白の少女かりんが説明した。
「作戦、聞いてませんか?ここのワープゲートから基地へ乗り込むって」
「……基地へ?アビス蔓延る奴等の根城に?何故?」
「アーシャの本体が囚われているから。侵略者アビスへ終焉を告げる『希望の太陽』の覚醒には、アーシャの肉体が必要なんです」
説明を聞いても、ブラックライダーは理解できていなかった。だがアーシャを助けるために、パニピュアが基地へ乗り込むことだけは分かった。
「……俺も行く。基地に居る奴には用がある」
「はい。ゲートの位置は分かりますか?」
「分からんが、大丈夫だ。俺のバイクはワープ装置だから」
「……はぁ」
今度はかりんが首を傾げた。
「かりん――!あんたも戦ってよぉ!」
「うっうん!ごめん!」
らいちが叫ぶ。現在アイスバーグと正面から格闘戦を展開していた。
全身から棘と爪の生えた凶器の身体、銃弾すら跳ね返す鋼の肉体。それらを備えた言わば『人型戦車』と、まともに殴り合う13歳の少女。
そのシルエットはどこまで見ても異常で、現実とは思えない光景だった。
「じゃあ、またね!」
その戦いに、かりんも加わった。
――
ブラックライダーは、そこへ戻ってきた。
自身のバイクの側、ゆりの待つ所へ。
「……大丈夫?」
ゆりは不安そうに言った。何が、と具体的には言えない。身体、精神、状況。全部含めて、今彼は大丈夫なのか。
訊ねられたブラックライダーは、ヘルメットを取った。
「え」
「危ねえから着けとけ」
そして、ゆりに被せた。サイズの合わないヘルメットを被せられて少し焦るゆりだが、なんとか鍔を持ち上げて、彼を見上げた。
灰色の髪……勿論染めていない。だが昔は黒かった。
赤色の瞳……カラコンではない。だが昔は黒かった。
目元にある深い傷……いつどこで付いた傷なのか。
「待ってな」
「……えっ」
彼が顔を隠す理由。その証を見て気を取られている内に、彼はひとりでバイクに跨がり、そして光に包まれた。
そして次の瞬間、ゆりの目の前からブラックライダーは消えた。
――舞台説明⑫――
今さらながら、『ブラックライダー』の本名を名乗らせるタイミングを完璧に逃した感。
謝罪会見とかは一応最後に上層部の方々がやってくれてます。最初は守ろうとしてくれるだけでありがたかったのに、いつしか守れなかったら非難されるようになる。世論=普通や当たり前の基準です。
しかし、それでも人々を守ろうとするのがヒーロー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます