第5話 彩奮闘!新たなる敵、エクリプス襲来!
「…………おにぃ」
N-220と、兄と交わした約束の場所。とある墓地。墓石の前でしゃがみこみ、手を合わせる人物が居た。飴色の髪を肩まで伸ばした少女。丁度子供と大人の間くらいの見た目の少女。遺体の回収はできなかったが、遺品を集めて両親のものと一緒に、彩は祈った。彼女は天涯孤独になってしまった。
「……おにぃのばか。引き際はいっぱいあったじゃん。助けようとした下位アビスも忘れて戦って……そんなんじゃ、そりゃ殺されて当たり前だよ」
彩は泣きながら、反応の無い墓石に対して罵倒を続けた。親が早くに亡くなり、頼れる者はもう兄の影士しか残っていなかったのだ。
「……ばか」
最後にもう一度罵倒し、いくらかはすっきりした。もう戻ろうかと立ち上がった彼女は、意外な人物と出会う。
「………!」
「あっ……」
声を漏らしたのは長谷川ひかりである。その手に持つ花束を見て、彼女も同じく兄へ墓参りに来たと悟った。
それが無性に腹立たしい。
「何しに来たんだよ正義の味方。立場分かってんのアンタ」
突っ掛かる彩。しかしひかりは、その視線を受け流した。
「……よしてよ。こんな所で戦っちゃ駄目。敵意も引っ込めて。……一応昔は仲間だったんだから、お墓参りくらい良いじゃない」
「アンタ達が殺したくせに」
「仕方無いじゃない。敵同士なんだから」
「……!」
ひかりは彩の脇を通り抜け、影士の墓に花を活けた。
「……アンタが来るってことは、遺体は」
「ちゃんとここに眠ってるわよ。式に貴女を呼べなかったのは申し訳無いけど。連絡先も分からないし……」
「もう調べ尽くしたのね。アビスの身体を」
「そんな言い方は止めて。たとえそうでも、彼が星野影士には違いないわ」
――
ひかりは墓石へ手を合わせる。しばしの沈黙が流れた。
「……ねぇ彩ちゃん」
「気安く呼ぶな」
「……ハルカって言ったかしら。あの子の中に、もしかしたら……」
ひかりは病院で、浩太郎の話していた仮説を訊ねてみた。
「ハルカの情報は何一つ教えない。もう帰ってよ」
彩は苛ついた様子で答える。
「……そう。じゃあ最後に……」
「アンタは!もう!仲間じゃないじゃないっ!」
ひかりの言葉を、彩は大声で遮った。
「アンタはもう!違うでしょう!?あの時も、こっぴどく振ったくせに!今更、おにぃの、彼女面しないでっ!」
「…………」
「もう二度と来ないで!来たら許さないからっ!」
「……分かったわ。ごめんなさいね」
ひかりは一瞬悲しそうな表情を見せて、その場を去った。残った彩は、肩で息をしながらひかりの背中を見えなくなるまで睨み付けていた。
――
『スタアライトの穴は埋めなければな』
その夜。彩は、クリアアビスと精神の交信をしていた。影士のアビスとしての能力を腕時計型の装置に移植させることで、本部との連絡を可能にしたのだ。
「どうしたら良いの?ハルカとも連絡取れないし、おにぃの奴隷の下位アビスはあたしの命令聞かないし」
『個体ハルカは、瞑想中だ。だから精神干渉できん』
クリアアビスの言葉は、装置を介して彩の使う言語へ変換される。精神には言語が無いので、その相互干渉を会話として再現しているのだ。
「瞑想?」
『つまり、クリアアビスをインストール中だ。私の直属の部下に当たるアビス。アークシャインに気取らせぬよう、島(日本)から離れさせている。それが終われば、また共に戦える。それまで持ちこたえてくれ、スタアライトの姫よ』
クリアアビスの声は男声とも女声とも付かない声で再生される。だが落ち着いた雰囲気で、聞いているだけで彩は気持ちが穏やかになるのを感じた。
「あたしは姫じゃなくて妹だよ」
『??……我々の言語と文化では意味は同じだ』
「なんか変態ぽい文化ね、それ」
『スタアライトの能力を移植したのなら、奴隷の精神支配もできるのではないか?』
「あっ。そっか。なら操れるね」
『スタアライトの穴だが、今送った。数日中に地球へ届くだろう』
「送った?アビス粒子ってこと?」
『そうだ。特別なそれに感染した精神体はスタアライトに匹敵する能力を持つ』
「じゃあ、世界中でどれが感染するか分かんないじゃん」
『粒子の識別データベースは前にスタアライトへ送ったが、確認できるか』
彩は自前のノートパソコンを開く。
「あった。これね」
『地球の記号へ直したものだ。"E"という文字から始まるそれが、送るものだ』
「その反応があれば、向かえば良いのね」
『その通り。覚醒直後は無防備で保護が必要だ。アークシャインの兵に狩られる前に回収したい』
「分かった。ワープ技術は無いけど、なんとかする」
『"E"が飛来するおおよその位置は計算できる。あとで送ろう』
「うん。お願いね」
『頼むぞ、スタアライトの姫。こちらでの我々の数も減っている。早急に地球の環境を整えたい。我々が「戻る」まで、耐えてくれ』
「うん。おにぃの分まで頑張るよ」
彩はぐっと拳を握った。
――
「まずは世界の防犯カメラをクラック♪映る映像にアビス粒子識別フィルターを掛けてー……♪」
彩はカタカタと、陽気にキーボードを叩く。彼女の処理能力とコンピュータセンスは、天性のものだった。感覚的に、どこをどうすれば目的の情報に辿り着き、達成できるのかがなんとなく分かっていた。
「アビス発生場所は基本、監視カメラで埋め尽くされた大都市だしね。あとは"E"が映るまで待つ♪あっそうだ。映ったら報せるようにすれば、じっと見てなくても良いね♪」
彩はパソコン操作もそこそこに、自室を出てアジトの地下へ降りた。
そこには影士の支配下であった、数体の下位アビスが居た。
「おーい!」
「ギャギャ!なんだぁ!?」
彩が降りると、彼らは一同に彼女を見た。
「スタアライト様の姫様ァ!」
「ギャギャギャギャ!姫様ァ!」
そして跪き、崇め始めた。
「(……こんなでも、命令は聞かないんだよなぁ)」
彩はちょっと鬱陶しそうに、兄の遺品を掲げた。それは鈍く光り、彼らへの精神干渉を始めたことを告げた。
「私の合図で、同時に別の街を襲って貰うよ。決行はまだだから、それまで待機しててね」
「ギャギャギャギャ!仰せのままにィ!」
「姫様ァ!」
「(……こんな種族、大丈夫かしら)」
ギャギャ、ギャギャ、姫様姫様と騒ぐ下位アビスを見て、ちょっと不安になる彩であった。
――
「彩様、いかがいたしましたか」
「!」
そこへ、もう1体の下位アビスがやってきた。理性のありそうな言葉遣いである。
「えっと……」
「私の名は『アビ太郎』。彩様が名付けてくださったではありませんか」
「……あ、あー……。うん」
アビ太郎は、影士が死ぬ原因となった戦いで、最初にシャインジャーに倒されようとしていた蛙型の下位アビスだ。あれを生き延び、精神的に成長したため、怪物の見た目でありながら少し知性を得た、下位アビスとハーフアビスの間のような存在だ。
「さては、にっくきブラックライダー討伐の件、私に任せてくださるのですか?」
「え?そんな話してないけど……」
「では任命してくだされ。彩様の命令ひとつで、地の果てまで赴き必ずや敵を屠ってみせましょう」
「うーん……」
そこまで言うなら、と思ったが。
アビ太郎は、言わば兄の最期の戦いの証である。逆に言えば、あの戦いでアビ太郎しか利を得ていない。
種族を思えば、下位アビスなど放っておいてスタアライトは一番に逃げるべきだったのだ。
そして、こんな結果になってしまった以上。
アビ太郎が死ねば、兄の遺したものは何も無くなってしまう。
こんなアビ太郎でもだ。
「……駄目。せめてハーフアビスまで成長してからだよ。あのおにぃが手も足も出なかった相手だからね。忠誠心とか気合いでどうにかなる問題じゃない」
「……仰せのままに、姫様」
「その姫様ってやめてよ」
分かりやすくしょんぼりしたアビ太郎は、地下室の奥へと引っ込んでいった。
――
そして数日後。彩は日本から離れ、イギリスに居た。クリアアビスの情報では、この辺りに飛来する計算なのだった。
『粒子"E"確認。感染は未確認』
「来たっ!」
その声を目覚まし代わりに、彩は飛び起きた。すぐさまモニターを確認する。そこはロンドンであった。
「通信!下位アビス①~⑤、各自散開し、都市を襲撃!本命はロンドンだから、それを気取られないようにして!」
『仰せのままにィ!』
『姫様ァ!』
命令すると早い行動の下位アビス。この数日に彼らを世界の各地へ派遣していた。アビスの身体能力で、海をも越えて。探知されぬよう地下に潜んで。精神支配により一瞬で全てのアビスが訓練された兵士になるというのは、やはり反則気味に強い。他種族も粒子汚染で同族に変えられるのは、さすが侵略種族であると言える。
「さて、行くよロンドン!」
彩は自前のノートパソコンを手に、タクシーを呼んだ。
「まだ見ぬお仲間『Eclipse(エクリプス)』!今会いに行くからね!」
――
『……恐れていたことが……起きましたね』
アーシャはアークシャイン基地指令室の巨大モニターに映る世界地図を見て(目を閉じているので見てはいないが)、そう呟く。
地図上にはアビスの出現箇所にマークが点く。その数は…。
「同時に、6箇所!?」
驚いた声を挙げたのは、ひかりだ。ちょうど病院から帰ってきたばかりである。
『ひかりちゃん!』
基地のモニターに、ブラックライダーの通信が入る。
『とりあえず片っ端から対応するぞ!俺はシドニーへ飛ぶ!』
「了解!私はまず札幌へ行くわ!」
今、アビスと戦えるのはふたりのみ。どれだけ悩むより、身体を動かした方が早い。
ひかりは変身しながら、ワープ装置へ飛び込んだ。
――
「……はぁ……はぁ……げほっ!」
その少年は、原因不明の頭痛と吐き気により、その場から身動きが取れなくなっていた。
金髪に天然パーマのかかった頭、どこかの学校の制服を着ている。背の高い、品行方正そうな普通の少年だ。
「……あれよね、きっと」
物陰から、彩が覗き見る。ここはロンドンにあるとある公園。
『エクリプス』の反応を追って、見付けたのがこの少年だ。粒子の種類を見分ける、手元のスコープ越しに見ても間違いなく感染している。
「ねえあなた」
「!」
彩は苦痛に悶える彼に、話し掛けた。
「……君は……ぅ!……スタア……ライ……っ」
彼は膝を突き、頭を抑えながら彩を見る。彩も不思議だった。影士やハルカが感染した時には、こんなことは無かった。
「あなたエクリプスでしょ?」
「……エクリプス……アビス……ぅ!駄目だ……」
因みにだが、彼は勿論英語を話している。日本語は知らない。彩も当然英語は話せない。
しかし会話は通じている。それこそが、彼が確かにアビスである証明になる。
「頭の中が、ぐちゃぐちゃで……よく分からない。……君は……僕の何なんだい……?」
「仲間だよ」
「……!」
恐らく、クリアアビスからの情報が過剰に与えられ、許容を越えているのだ。落ち着かせなければならない。本来なら、ハルカのように時間をかけて慣らしていくものなのだろうから。
と、そんな時に。
「……『ビンゴ』って訳ね」
強烈な光が、ふたりを照らした。
「!」
彩は手を広げ、彼を庇うように立つ。そして光の方を見て、憎々しげに呟く。
「アンタ……最悪」
現れたのが、シャインヴィーナス(長谷川ひかり)だったからだ。
――舞台説明⑤――
彩は天才で、アークシャイン側でいう『博士』のポジション。あとバストは妹らしく、貧しめ。悪の科学者です。彩は今回で、兄が持っていた奴隷のアビスを全て投入しています。1体くらい残しとけよ……。
因みに指名手配されているので、イギリスへは身分を偽造して向かっています。その辺のスキルも持ってます。
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