第4話 戦え、正義のヒーローシャインジャー!
国が誇る大病院。人類の叡智と技術の結晶が詰まっているこの病院の一室。
その部屋はとある団体で貸し切りであった。
扉横の壁には、患者の名前が連ねられている。
『池上太陽 様』
『宍戸辰彦 様』
『西郷修平 様』
『小野塚浩太郎 様』
因みにこの一室のある区画はアークシャイン関係者以外立ち入り禁止である。
そんな病室へ、足繁く毎日お見舞いにやってくる女性が居た。
長谷川ひかりである。
「や。元気かね」
ポニーテールを揺らすひかりは入り口からひょっこりと顔を出し、それから入室した。その手にはフルーツの入った籠が握られている。
「元気なら入院してねーよ。ったく」
そう口を尖らせたのはシャインマーキュリーこと西郷修平。そばかすの目立つ彼は、スタアライトの攻撃を防いだことにより両腕を複雑骨折しており、まともに食事も摂れない。
「まあ俺と修平はまだ元気な方か。あのふたりに比べれば」
と、ベッドに寝転び天井を見上げるのはシャインジュピターこと小野塚浩太郎。立派な眉毛を持つ彼はシャインジャーで一番の怪力を誇る。
だが先日の戦いにより、やはりスタアライトの強烈な一撃を浴び、全身打撲と尾てい骨を初めとした全身をいくつも骨折して立つこともできない。
「いでで……あ、ひかりちゃん来たのか。あーん」
「はいはい待ってね」
重そうに体を這わせて体勢を変え、口を開けたのはシャインマーズこと宍戸辰彦。彼はあばら骨を10本以上折られ、肺に破片が刺さったため先日手術をしたばかりだ。
「いやいや、まず俺からだろひかり。自分で食べれねえんだぞ?」
と、両腕をぐるぐるにした修平が異を唱える。
「はいはい待ってね」
甲斐甲斐しく世話を焼くひかり。気丈に振る舞っているが、この場の全員、敗北の屈辱を浴びている。
「……まだ目を覚まさないんだね、たいちゃん」
不意に、ひかりが悲しげに見たのは、窓際のベッド。
そこにはシャインソーラー……自分達のリーダーである池上太陽が静かに眠っていた。
「……ああ。もう1週間なんだがな」
一番ダメージが大きかったのも、彼である。太陽は、スタアライトの激烈な蹴りを、鳩尾にまともに浴びたのだ。体の中が内臓も骨も肉もミキサー状態で、生きているのが不思議と医者に言われたほど。
「…………」
それを皮切りに、一同は静まり返ってしまった。
「……まさかあんなに強かったなんてね……えいちゃ……いや、スタアライト」
「パワー自体もだが、奴には躊躇や感傷も感じられなかった。俺はやっぱり影士だからと、無意識にも手を抜いていたんだろう」
悪の幹部スタアライトこと星野影士はシャインジャーの面々と昔から付き合いがあった。怪人など現れる前から、彼らは仲間だった。
だが。
彼の遺体を解剖すると、驚くべきことが次々に判明する。
そのひとつ……特に彼らを驚かせたのは、影士の体組織がアビスと成ってからの年月。
すなわち、10年以上前から、彼はアビスだったのだ。
「……ずっと、騙してたんだよね。やっぱり」
「……分からんぞ」
「え?」
ひかりの言葉に、浩太郎が答えた。
「もしかしたら、奴は本当に俺達を仲間としてくれていたのかもしれん。怪人に成った奴に気付けず、各地で怪人を倒すようになった俺達の方が、先に裏切ったのかもしれん」
「……!」
修平も口を開く。
「なんにせよ、事実はもう分からない。影士は死んじまったんだからな」
「それも、分からんぞ?」
「は?」
修平のその言葉に、また浩太郎が答える。
「怪人……アビスと言うのか。奴等は精神エネルギーで繋がっているらしい。もしかしたら、影士の精神はあのハルカというアビスの中にまだ居るかもしれんだろ」
「……!」
一同は一瞬表情を明るくしたが、全ては憶測に過ぎない。空気を変えようと、ひかりは別の話題を見付けた。
「私今、OL辞めてさ。ブラックライダーの手伝いしてるんだ」
「……へぇ、良いな。シャインジャーがまだやれるって見せ付けてやれ」
「……うん」
「というか何者なんだ?ブラックライダーは」
「……分からない。ヘルメットを取った所は見たこと無いわ」
「今度、南原博士に訊いてみるか。奴の武器も、宇宙科学っぽいもんな」
「……じゃ、そろそろ行くね。たいちゃんが起きたら教えてね」
ブラックライダーからの呼び出しがあったのか、携帯を見たひかりは立ち上がった。
「早く皆元気になって、悪の組織を倒そうねっ」
「……ああ」
「当たり前だ。気合いで治す」
「安静にしてろバカ」
「あはは……」
――
『ウラジオストクとブカレスト。怪人「アビス」同時に発生中。繰り返します……』
ひかりの無線に、合成音声の機械のような声が繋がる。ワープにて目的地へ飛ぶ為、基地へ急ぐ。
そこへ、通信が入った。
『やあひかりちゃん。どうだい?』
ブラックライダーである。相手の顔も確認できる通話だが、やはりヘルメットを被っている。
「2ヶ所なら各個撃破ね。じゃあ貴方はブカレストへ行ってくれる?」
『了解だ。ひかりちゃん、お腹冷やさないように気を付けてね』
「はいはい」
通信を終え、基地の扉をカードで開ける。ワープ室まで一直線に走っていき、アークシャインの元へ辿り着く。
『ひかり。待っていました』
機械音声の主……アークシャイン。見た目は西洋人の少女に酷似している。長い金髪に、白い肌。常に目を閉じており、白い杖を抱いている。そして背中から、4対8枚の天使を思わせる翼を生やしている。
彼女は声を持たない。よって彼女の精神エネルギーを媒介にした機械音声により発話コミュニケーションを可能にするのだ。
『ウラジオストクは既に建物に被害が出ています。人的被害はまだですが』
「早く飛ばして!その間に変身するわ!」
『分かりました。ご武運を』
ひかりはひとり用シャワールームほどの広さのワープ装置に飛び込んだ。
――
「……変身っ!」
ワープ待機中。装置の中でひかりが叫ぶ。すると、無線機にもなる腕時計型の装置が反応し、瞬時にひかりの身体情報を読み取る。
そして装着者である彼女の身体に合わせた最良のサイズ、重量の装備が光の渦から形成される。動きやすく、戦いやすい。そして扱いやすい武器が取りやすい所に収納される。頭を覆うマスクは周りのあらゆる情報を瞬時に識別し、全身に纏うスーツは動きを補助し、身体能力を大幅に引き上げる。
全てが利に敵った『地球人専用』スーツ型兵器。
それを使いこなすのが、シャインジャーである。
『ワープ終了。目的地へ到着』
「よし。行くわよ!」
ひかり……シャインヴィーナスはアークシャインのオペレーティングの元、単騎で怪人へ立ち向かっていった。
――
『戦闘終了。お疲れ様です』
アークシャインの音声ソフトが無機質に伝える。それを聞いたブラックライダーは、愛用の2丁拳銃を腰のホルダーへ収納した。
「Huuuuuu!!」
現地住民の歓声が響く。倒れた怪人は、蜂の巣のように穴が開いていた。
「ま、こんかもんか。アーシャちゃん、ひかりちゃんの方は?」
『ひかりの方ももう終わります。助けは必要無いでしょう。……「アーシャちゃん」とは?』
「アークシャインで、略してアーシャちゃん。こっちのが可愛くない?」
『私の愛称ですか。……ありがとうございます』
「やったぜ。……じゃ、ブカレスト観光かな。イエーイ」
アークシャインとの通信を済ませ、ブラックライダーはルーマニアの首都ブカレストの街並みに消えていった。
――
「はぁ……はぁ……はぁっ!」
息も絶え絶えに、ひかりは基地へ戻ってきた。ぎりぎりの戦いであった。何かひとつでも判断を間違えていれば、負けていた。そして怪人の餌食になっていただろう。
『お疲れ様ですひかり』
「……はぁ……っ。あー疲れた。駄目だ死ぬ……」
元々、5人で1組のシャインジャー。今まで全ての敵を、連携により倒してきた。切り込みも止めも、太陽や修平がやってくれたし、何かあれば浩太郎がガードしてくれた。
それが今はどうだ。
たったひとりで、戦闘よりはサポート向きの装備しか使っていなかったのに。戦い、倒さなくてはいけない。
ひかりの負担は、5倍どころではなかった。
『取り合えずシャワーでも浴びて、休憩室で仮眠を取ってください』
「……あー……ちょっとだけ待って……」
ワープ室の壁に寄り掛かるひかり。今回はなんとか勝てたとは言え、自分の実力不足は否めない。
『……申し訳ありません。私が戦えたら良かったのですが』
「気にしないで。アークシャインは私達に協力してくれてるんだもん。遥かな宇宙から、見ず知らずの私達に。それだけで充分だよ」
『……ひかり』
「あっ。アーシャって良い名前だよね。私にも通信入ってたよ」
崩れそうになる身体を奮い起たせ、なんとかワープ室を後にしたひかり。
アークシャインはその様子を見て、早くなんとかしなければと強く思った。
――
『アビスは……元々宇宙を漂流する侵略種族なのです。地球のひとつ前に目を付けた惑星……それが私の故郷でした』
数日後。
基地にひかりとブラックライダーを呼び、博士と席を共にしてアーシャが語り始めた。
『他の惑星を侵略し、そこに住む文明を家畜として食料にし、搾取し終えるとまた別の惑星を探す。今、世界中で発生している怪人はその尖兵。本命のクリアアビス達が来た時にできるだけ統治しやすいよう、人類の数を減らしつつ都市機能を破壊しておく。そのプログラムが怪人の本能に組み込まれています』
「…………!」
「アーシャちゃんの故郷って……」
『……彼らが地球に現れたということは、既に滅亡しているということです』
「……どうしてアーシャは地球まで来れたの?」
『……私は奴隷でしたから。母星を離れても、労働力として連れてこられたのです。そこで隙を見て、脱出しました』
「ふむ。侵略種族と言っても、彼らも彼らで正義がある。侵略しなければ滅んでしまうのでは、例え我々人間とて侵略せざるを得んだろう」
ふむと顎髭を撫でたのは南原博士。この基地の技術的責任者であり、アーシャからの叡智を的確に装備へ応用し、シャインジャーへ提供する頼れる老人だ。彼はアビスやアーシャの真意を知ってなお、姿勢を崩さない。
「だな。元より正義も悪も関係ない。殺されようとしてるなら、殺される前に殺すまでだ」
基地内でもヘルメットを外さないブラックライダーも賛同した。どう同情した所で、共存は不可能なのだ。
「そうね。負ける訳にはいかない。こっちにはアーシャが付いてる。絶対勝つわよ」
そう誓ったひかりの顔は、もう5人の中のひとり、紅一点のシャインジャーでは無かった。
ひとりの、地球を守るための戦士としての表情であった。
――舞台説明④――
シャインジャーの変身中は無防備なので、基本的に変身は基地や道中で行い、それから出動し戦闘に入ります。当たり前だよね。
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