第3話 ハルカ覚醒!謎のライダー登場!

「……確かによ」

 スタアライトは血の止まらない右腕を押さえながら、ヴィーナスとジュピターへ歩みを進める。

「太陽のソーラーブレードは全てを切断するし、修平のアクアブラストはアビスの甲殻でも防げない。辰彦の探知は厄介だし、ひかりの判断力は評価できる。勿論、浩太郎のタフネスとは正面からやりたくはない」

 必死に構えるも、目の前の凄惨な光景を見て、動けずに居るヴィーナス長谷川ひかりとジュピター小野塚浩太郎。

 リーダーであるソーラー池上太陽はぴくりとも動かず倒れている。後ろにうずくまるマーズ宍戸辰彦とマーキュリー西郷修平。彼らはそれぞれあばら骨、両腕を折られ、戦闘不能状態だ。

「だが、現実はこんなもんだ。数ヶ月前まで普通の社会人だったお前らが、突然超科学を手にしたからって心まで戦士になれる訳がない。修平以外は格闘技経験も無いだろう」

 不気味な死をぶらさげて歩み寄るスタアライト星野影士。

「……!」

「日々世界中で怪人騒ぎだ。お前らには表の仕事もある。メディア対応もあるだろう。……訓練の時間も作れないだろうな」

「……ひかり、逃げろ」

 ジュピター浩太郎が呟いた。もう勝ち目は無い。そもそも、スタアライトと戦う以前に怪人と戦っており、始めから消耗した状態での戦闘だった。

「でも皆が!」

 ヴィーナスひかりが抗う。傷付いた仲間を放っては置けない。そんな正義の心が、アークシャインに選ばれた理由なのだ。

「シャインジャー……。我々アビスの仲間を次々と屠る大量殺人鬼達。ここらで終わらせて貰う」

 もうスタアライトは目と鼻の先だ。ジュピターは決心して、走り出した。

「いいから行けっ!ここは俺が抑えるっ!!」

 ジュピターは決死の覚悟で、スタアライトへ突撃した。

「浩太郎――!」

「うおおおおおお!」

「……そもそも」

 スタアライトの、やけに落ち着いた声が静かに響いた。

「おおおおおお!」

 次の瞬間、スタアライトの中段蹴りにより突貫攻撃のジュピターは真正面から捉えられ、斜め上方へ、ヴィーナスを通り越して吹き飛んだ。

「単純なパワーで俺達に敵わないから科学武器に頼ったんだろうが、アークシャインっ!!」

 だが、つい先ほどタフネスを評価されたジュピターだ。その防御力はスタアライトにも引けを取らない。スタアライトの脚も、無事では済んでいない。彼ももう戦闘継続は難しい。

「きゃぁぁぁあ!」

 ヴィーナスの悲鳴を掻き消し、スタアライトが感情を露にして叫ぶ。

 それはシャインジャーにではなく、力を与えた宇宙人アークシャインに向けたものだった。恐らくこの戦闘も基地から見ている筈。

「……正義の心だ?嗤わせるなよ偽善者が。闘争を二元論で語る愚か者。家畜からしたらお前ら人間はこれ以上無い、純然たる『悪』だろうが!」

「……ひっ!」

 ジャリ、と。スタアライトがヴィーナスへ歩みを向ける。

「……だ、だからって。都市を破壊して、皆を脅かして良い理由にはならないっ」

 ヴィーナスは振り絞るように抗弁する。

「下位アビスの破壊行動の責任は俺には無い」

「……で、でも。話せば分かるかもしれないじゃない。解り合えたかもしれなかったじゃない。理由を説明してくれれば、一緒に解決策を……」

「じゃあお前らは、理由を言えば家畜になってくれるのか?この星をすんなり明け渡すか?」

「……!」

「できねえだろ。だから戦争なんだ。正義も悪も無いんだよ、ひかり」

 スタアライトがヴィーナスの目の前まで迫る。


――


『おにぃ、退避!』

「!」

 直前で、スタアライト星野影士の妹から連絡が入る。影士は残った片方の脚でジャンプし、なんとか退避する。

 直後、スタアライトの居た場所に、1条の光線が閃いた。それはジュッという音と共に地面に突き刺さり、熱で周辺を溶かした。

「なんだ?狙撃?」

「……!」

 気付かれては仕方無いとばかりに、今度は光線が大量に押し寄せる。なんとか察知してかわしたスタアライトは、ヴィーナスとの距離が遠ざかってしまった。

 そしてその隙に。

 彼はヴィーナスの前に辿り着いていた。

「……あなた……!?」

 その男は、黒いバイクに跨がっていた。黒いライダースーツに身を包み、漆黒のヘルメットを深く被っている。

「女性の泣き声には敏感でね。……さて」

 バイクから降り、スタアライトを視界に認める。

「確かに正義も悪も関係無い。『女性を泣かせた』それだけの罪だ。重い重い罪。それにより貴様を断罪する。人型エイリアン」

 腰に差したホルダーから2丁拳銃を構え、スタアライトへ向けた。

「……アークシャインの新たな兵か?しかし妙だな」

 スタアライトは標的をヴィーナスから、謎のライダーへ変更した。


――


「ブラックシューター!」

「!」

 謎のライダーは2丁拳銃を乱れ撃つ。先ほどの狙撃はこれだろうとスタアライトは判断する。光線銃だ。文字通り光の速さで敵を穿つ。引き金を引く指を確認するアビスの視力が無ければ避けられない。威力を察するに、マーキュリーのアクアブラストと同等かそれ以上、つまり当たれば無事では済まない。しかし、シャインジャーとの戦闘でスタアライトも疲弊している。

「ぐっ!」

 ジュピターとの戦闘で脚を痛めたため、避けきれない。いくつか被弾し、さらに動きが鈍る。

「こういう手合いは、遠距離からぶち殺すに限る」

 謎のライダーの攻撃は止まない。

「ぐ……がはっ!」

「ちと美しくは無いが……このまま死ね、外道」

 謎のライダーは攻撃を止めない。兎に角連射する様子は、無慈悲に見える。

 スタアライトが膝を突く。為す術が無い。このまま彼は殺されるだろう。

「……なっ!」

 だが謎のライダーの攻撃は止まった。

「……えっ」

 ヴィーナスも驚く。

「……もう止めてください」

「……!」

 スタアライトの前に、ハルカが現れた。見るに一般人。ライダーは攻撃できない。

「おい君!そこを退くんだ!そいつが何者か分かってるのか!?」

 謎のライダーがハルカへ問う。

「……私の、上司です」

「!」

 ハルカの表情は、恐怖一色だ。だが自分が出なければ、スタアライトて……影士は死んでしまう。

 そうなれば、自分はそれからどうすれば良いのか。考えられなかった。後先は考えていない。目の前で影士が死んでしまうことの恐怖が何よりも勝った。

「……ハルカ」

「星野さん」

 影士の声が弱々しく届く。もう虫の息だ。早く治療しなければ。

「あの子も怪人です。ニュースでも……」

「待て無理だ。見た目から確証はできないし女性は撃てない。今まで女性型の怪人は居なかっただろ」

 ヴィーナスが謎のライダーへ説明するが、彼は手を止めたままだ。本来ならば即攻撃すべきだが、今は駆け引きが出来るほど優勢である。

「おい君!もしかしてニュースでやってた悪の組織の仲間か?」

 問いかける。ハルカは頷いた。

「ならば降伏しろ。その男も助けてやる。大人しく投降しなさい」

「……」

 ハルカは頷き、謎のライダーの方へ向かう。しかしそれを止める手があった。

「えっ」

 影士がハルカのジャケットを掴んでいた。

「星野さん?」

 ハルカはしゃがみこみ、影士の様子を見た。

「駄目だハルカ……それじゃアビスは助からない」

「……でも。星野さんが死んじゃいます」

「良いさ。どうせもう死ぬ。奴等のモルモットにはならん……受け取れ」

 影士は残る左手を差し出す。ハルカはほぼ無意識にそれを取る。

「!!」

 そして影士は、ハルカを抱き寄せた。


――


「……死んだか。最期にキスとは、奴も救われたな」

「何をふざけて……!」

「!!」

 風が吹いた。同時に、恐るべき威圧感が謎のライダーとヴィーナスを襲う。

 スタアライトから感じていた巨大で禍々しいプレッシャー。それはもう失われた。だがそれ以上のものを、今は彼女から感じる。

「どういう、ことだ?」

「……まさか!」

 ハルカはゆっくりと。優しく影士を撫でて、瞼を閉じた。

 そして立ち上がった。その表情にもう恐怖は無い。

 決意の炎が、彼女の中で燃えていた。

「……アビス粒子。『彼ら』を知ってしまえば、拒む理由は無かったわね」

 ハルカは全てを知った。アビスの苦悩、悲しみ、希望、目的。絶滅したくない(死にたくない)という思い。

「私は繁栄極まる地球現人類より、滅亡直前のアビスを優先させる」

 ハルカはハーフアビスと成った。

「……怪人……パワーアップ!?」

 ヴィーナスが狼狽える。ハルカから感じる迫力は、スタアライトを凌駕している。

「……ちっ!」

 謎のライダーが舌打ちする。いくら怪人と言え、彼の信条として女性を撃つことは出来ない。それにこちらの優勢は継続している。ハルカには遠距離攻撃の手段が無く、こちらには光線銃がある。

『……ハルカ、聞こえる?』

「……彩、ちゃん?」

 影士の死体から声が聞こえた。妹の彩と通じる無線機だろう。ハルカはそれを探して拾い上げた。腕時計の形をしている。

『……ここは撤退だよ。奴等も大半が損傷している。ここで戦うのは得策じゃない。あの、ライダー?の実力も分からないし』

 兄の死に面し、震えた声で話す彩。だが毅然と振る舞おうとする彼女の声を聞き、ハルカも冷静になる。

「……ええ」

 ハルカは辺りを見回し、負傷したシャインジャーを確認してから謎のライダーへ視線を向けた。ここで去っても追ってはこないだろう。

「痛み分けね」

「……そのよう、だな」

 ハルカは踵を返し、立ち去ろうとする。謎のライダーも、銃を仕舞った。

「星……影士さんの遺体はどうしよう」

『回収したいけど、無理だね。必要な荷物はハルカが持ってるなら、あっちへ渡る情報は最低限だと思う』

「……ちょっと癪だね」

 最後にハルカは、落ちていたソーラーブレードを拾って持ち去った。


――


『……最新ニュースです。本日、シャインジャーが遂に悪の組織の幹部、スタアライトとの直接対決に臨みました』

 モニターには、いつものニュース番組が流れる。

『結果的に、スタアライトを撃破。ですがシャインジャーにも被害は大きく、シャインヴィーナスこと長谷川ひかりさんを除く4人が重体。しばらく活動は不可能とのことです』

 今日のニュースは、いつもより視聴率が大幅に高くなる。シャインジャーの活動休止は、全世界を揺るがす大事件だ。

『依然怪人被害は発生しています。シャインジャーが動けない今、新たなヒーローが立ち上がりました!』

 世界中の人が絶望した次の瞬間、新たなヒーローの誕生に希望を見出だした。

『その名も「ブラックライダー」!たったひとりで悪に立ち向かう、射撃と格闘の名手です!』

 黒いバイク、黒いヘルメット、黒いライダースーツ。正体の判明しない謎のダークヒーローという形で、彼は紹介された。

『そのミステリアスさに、早速ファンクラブが発足!クールなヒーロー「ブラックライダー」に応援を、よろしくお願いします!』

 悪の宇宙人『アビス』との戦いは、次なるステージへ向かう。




――舞台説明③――

シャインジャー達の名前は、リーダーの池上太陽と紅一点の長谷川ひかり以外、今は特に覚える必要は無いぞ!

でも後々、ちょっとずつ紹介されていくぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る