第2話 決戦!シャインジャーVS.スタアライト!

「出たああ!怪人だあー!」

「シャインジャーを呼べ!」

「助けてシャインジャー!」

 堅い甲殻に覆われた巨大な体躯。牙や爪、角が鋭利に生える全身。

「ギャッギャッギャ!手柄を立てて昇格だあ!」

 そして、言葉を喋る二足歩行の怪物。

 翼があるものや、尾がとても太く長いもの。姿形は怪人によって様々だ。

 怪人は突如町中に現れ、破壊の限りを尽くす。


――


『……横浜でまたも怪人が発生。駆け付けたシャインジャーにより討伐されました。国内では今月に入って怪人被害は10件を越えており……』

 モニターに映し出されるニュース映像を眺めながら、義堂ハルカは着替えをしていた。ここは怪人のアジトのひとつ。以前爆破したものと内装は同じで、高級ホテルのような場所である。ハルカに与えられた部屋にはシャワールームもベッドもテレビもクローゼットもあった。

「……やだ、制服って、結構可愛いかも」

 彼女は間違って選考を受けてしまった悪の組織に勧誘され、誤解から正義のヒーローに追われる立場になってしまった大学4年生。

 現在悪の組織のアジトにて、匿われていた。

『……次のニュースです。シャインジャーの宿敵スタアライトが、仲間を連れていることが判明しました』

「げっ。私じゃん」

 当然ながら、シャインジャーのニュースは世界中に放映される。ハルカはもう手遅れであった。

『……現在この女性の身元確認を急いでおり…』

「……おかあさん、未来。ごめん」

 一応、昨日の段階で公衆電話から家に連絡したハルカ。未来とは、彼女の妹の名である。指名手配については、人類と怪人の和平を目論んでいることを伝え、世間には知らないで通せと言ってある。それで納得する彼女の家族は、冷たいのか信頼されているのか。


――


「……失礼します」

「おう」

 地下にあったアジトと似たような内観の、新しいアジト。

 星影の自室に呼ばれたハルカは、ノックをして入室した。

「まあ座れ。説明は長くなる」

「……はい」

 ハルカは星影が『制服』と言った服装を律儀に着ている。近未来風の灰色の服で、少し露出が多目だが、上から羽織るように着る着る大きめのジャケットのお陰でそこまで気にならなかった。

「…………」

 だが、この男が変わらず白衣を着ているのが少し気になった。『制服』ではないのか。

「改めて。星野影士(ほしのえいし)だ」

「……あ、略称だったんですね」

「まあな。シャインジャー……池上太陽達とは中学・高校時代の友人でな。奴に星影と呼ばれていた」

「え、そうなんですか?」

 ハルカはきょとんとした。ネットには載っていない事だったからだ。

「星野……さんは、怪人じゃないんですか?」

「うーん……じゃあまずその辺の説明からするか」

 と、影士は部屋の備え付けモニターに映像を映し出した。

 地球を中心にした宇宙の映像だ。

「今から10年前。地球に『アビス粒子』という粒子が飛来した」

「アビス粒子……10年前?」

 ハルカはメモ帳を取り出し、書き込んでいく。

「学者曰く、深淵から来る未知の物質さ。それは、あらゆる生命体に対して反応し、その肉体構造、遺伝子構造を変化させる」

 影士の説明に伴い、モニターの映像も切り替わる。地球へ向けて丸い粒子が飛び込む。

「平たく言うと、アビス粒子を取り込んだ生物は怪人になる」

「えっ!怪人て、元は地球の生き物なんですか!?」

「そうだ。鳥や虫、犬、猫など。感染すると巨大化し、元の形を少し残しておおよそ人型になる。鳥型怪人とか蜂型怪人とかはそうやって生まれる。アークシャインは公表していないがな。……そして俺も勿論、アビス粒子を取り込んでいる」

 モニターでも、地球へ飛来した粒子は動物の体内に入り、姿が怪人へ変化している映像が流れている。

「……あのビルからの着地も」

「そう。怪人の身体能力ってわけだ。人間が感染することは稀だがな」

 続いて、モニターでは再び宇宙の映像が映し出される。今度は地球は映っていない。

「遥か宇宙の果てには、地球と同じような、高度な文明を持った惑星がある。俺はそのまま『アビス』と名付けた。アビス達の惑星は、寿命から滅亡の危機に瀕している」

「……アビス」

「アビスは必死に、次なる惑星を探した。自分達の生きられる環境の惑星、もしくはそんな環境にできそうな惑星」

「……まさか」

 ハルカは感付く。影士も頷いた。

「見付けたんだ。遥か彼方、宇宙の果ての果て。現在の地球科学では観測できないほど遠くの星に。アビスは地球を発見した」

 ハルカはごくりと生唾を飲み込んだ。

「地球のアビス化計画。その初期段階として、アビスの惑星で使われていたエネルギーを、地球へ送り込んだ。それがアビス粒子」

「……本当に、侵略戦争なんですね」

「その通りだハルカ。我々はアビス。深淵より来る侵略者。これは『生存競争』だ。地球人とアビスのな。んだ」

「!」

 影士の『我々はアビス』という台詞に、ハルカはなんともいえない恐怖を感じた。

 もしかして、地球人60億人がアビス粒子に感染すると、そっくりそのまま地球人はアビスへと変貌してしまうのではないか。人間には感染しないという話だが……。

「……質問、良いですか」

「どうぞ?もっと知ってくれ。何かを判断するには『知る』ことが大事だからな」

 ハルカは恐る恐る手を上げた。

「ただ欲望のままに暴れる怪人と、星野さんのように理性と人の姿を保つアビスの違いはなんなのですか?」

「良い質問だ。厳密に言えば、俺はアビスじゃない。生物的には人間では無くなったが、元は地球人だしな。アビスの空気に触れた怪人に過ぎない。『自分達の種の保存を懸けて、生き残るべきアビス』はまだ地球には来ていない。グループ分けをすると、彼ら本当のアビス出身者を『純(クリア)アビス』として、俺はその下に位置する『半(ハーフ)アビス』ってところ。そして理性の保てない所謂普通の怪人達を『下位アビス』と呼称してる」

「下位……」

「質問の答えに戻るが、粒子を浴びてハーフになるか下位になるかは、そいつの精神力や精神状態に大きく左右される。未熟な者や不安定な者は、粒子に飲み込まれて下位アビスとなる。下位アビスは、その全てが人間以下の知性……動物が元だ」

「……精神力」

 ハルカはメモを走らせる。

「アビス達の社会は、精神力……精神的エネルギーがそのまま社会を動かすエネルギーとなる、高度な文明だ。だから、地球を見付けた時点で、肉体より先に粒子を送り込むことが出来た。遠距離恋愛したことあるか?『思い』は距離と関係無いからな。『そういうことができる』クリアアビスが居るんだ」

「……もうひとつ良いですか?」

「おう。どんどん来い」

「下位アビスがハーフアビス、ハーフからクリアアビスへ繰り上がることは?」

「一応ある。アビスは3つの種族から成る完全ヒエラルキー社会だ。貴族、市民、奴隷の中世ヨーロッパなどと似ているな。だが他の知的生命体を喰らい、精神を成熟させられれば下位アビスもハーフアビスになる可能性はある」

「……暴動とかは?」

「起きない。何故なら、上位のアビスは、より下位のアビスの精神を支配できるからだ。特に下位アビスはそれにすら気付かず、嬉々として奴隷に成り下がる。手柄を立てれば『市民』に成れると思い込まされているからな」

「…………酷いですね」

「だがそれで、1万年以上もの間上手くやってこれた」

「…まだ質問があります」

「熱心なのは良いことだ」

「星野さんは、その情報をどうやって知ったんですか?」

「アビスに成った時に、クリアの者達と精神が繋がった。その時に支配されたんだろうな。俺の中に地球人としての心はもう残っちゃいない。例えば人を殺すことになんの躊躇いも感傷も無い」

「…………!」

 ハルカのメモが止まった。

「人を……殺すんですか?」

「ああ。アビスの主なエネルギー源……食糧は他生物の『精神』だ。進んで殺すことは無いが、精神を食べようとすると人間は副次的に死ぬな」

「……そんな……!」

 ハルカは絶望した。

 もしかしたら争わなくて良い方向もあるのではないか。そう考えていた。

 だが主食が人間と言われればもはや共存は不可能だ。

「そんなに構えなくても、貴重な新戦力を食わねえよ」

「っ!」

 そう言われてはっとした。自分も、人間だ。当たり前だが、当然彼らに食べられる危険がある。

 そんな食人族の巣の只中に、今自分は居るのだ。

「というより、ハルカにもアビス粒子を取り込んでもらう。俺達の仲間になるなら当然だろ」

「……そん、な……」

 ハルカはたじろいだ。

「まあ、人間辞めるって言っても、そんな変わらん。寧ろ今アビスに成っとかないと、人類が滅んだとき一緒に死ぬぞ?どうせアビスが勝つんだ」

「ちょ、ちょ……待ってくださいっ」

 震えるハルカの腕を、がしりと影士が掴んだ。

「大丈夫大丈夫。別に痛くも無いから」

「ちょまっ……そもそもまだ入るとは……っ」

 弱々しく抵抗するハルカ。


 その瞬間。


『警戒!おにぃ、シャインジャーだよ!』

「はぁ!?」

 ビーと鳴り響く警告と共に、モニターにひとりの女性が映り込む。影士を兄と呼んだその女性は、冷や汗を掻きながら手元のキーボードを激しく打ち込む。

「なんでバレた!?」

『近くで下位アビスが発生したんだ!戦闘の余波でこっちまで来ちゃって!』

「ちくしょう!またアジト変えねえと!」

「きゃ」

 即座に影士は、ハルカを抱き抱えて部屋を後にする。

『合流地点はN-220で!』

「オーケー!」

 妹との通信終了を待たず、影士はアジトを飛び出した。


――


「……あの、怪人て、星野さんが操ってるんじゃ無いんですか?」

 担がれながら、ハルカは質問を投げ掛ける。

「違う!下位アビスは自然発生だ!アビス粒子は日々雨のように地球に降り注ぐからな!俺が管理してるのは極少数の奴隷だ!」

 慌てて裏口から飛び出す。が、場所が悪かった。

「!」

「あれは!」

 見ると、シャインジャーが必殺兵器を使い、怪人を消し飛ばす寸前だった。

「スタアライト!」

 赤い特殊スーツのシャインソーラー…池上太陽が叫ぶ。しかし、それより大きな別の声で、影士は呼ばれた。

「あああ!スタアライト様っ!助けに来てくださったのですか!?」

「!」

 倒れ伏せる怪人である。蛙型だった。その怪人は、すがるように影士へ手を伸ばす。

「スタアライト様!どうかそのお力で、にっくきシャインジャーへ天誅を……!」

「…………!」

 見た目が欠け離れていようと、同族である。そんな彼からの、文字通り必死の懇願。

 奴隷のことなど正直どうでも良い。しかし、仮にも同族が、食料である人間なぞに狩られようとしているところを直に見ると、沸く感情がある。それに、シャインジャーがこちらへ標的を変えれば、簡単には逃げられない。

 影士の動きは止まる。

「……どうするんですか!?」

 ハルカが焦る。

「~~!!」

 影士は頭を抱えて悩み。

 やがて決意してふぅと息を吐いた。

「……仕方ねえ。彩(妹)の逃げる時間も稼がねえといけねえしな」

 影士はハルカを降ろし、物陰に避難させた。

 そしてシャインジャーへ向き、徒手空拳の構えを見せる。

「決戦だ、シャインジャー」

「!」


――


「怪人同士に、仲間意識があったとはな」

 シャインジャーのひとり、青い特殊スーツのシャインマーキュリーが煽る。

「嘗めんな」

 お互いの間に、緊張感が生まれる。影士…スタアライトは、世間やアークシャインからは『悪の組織の幹部』と認識されている。今まで表立っての活動はせず、全て配下の怪人を操っていたと思われている。

「うぐあっ!」

「!」

 その実力は、まだ図り知れていない。突如5人の視界からスタアライトが消え、聞こえたのはすぐ近くで警戒していた、橙色の特殊スーツを着たシャインマーズの呻き声だった。

「まずはお前からだ、辰彦」

 シャインマーズはスタアライトの痛烈な回し蹴りにより、あばら骨を折られながら体を宙に浮かせた。

「(……全く見えなかった!)」

「がはっ……!」

 特殊スーツのマスクの下で血を吐くマーズ。その上を向いた顔へかかと落としを仕掛けるスタアライトは、寸での所で攻撃を防がれた。

「……ぐぅっ……!なんだこの速さ…重さは!」

 青のスーツ……シャインマーキュリーの両腕を粉砕しつつ、スタアライトのかかとは止まった。

「修平…その腕はもう使い物にならんな」

 残る他3人の光線銃による攻撃を避け、スタアライトは距離を取る。

「…………!」

 残ったシャインソーラー、金色のスーツを着たシャインヴィーナス、そして緑色のシャインジュピターがマーズとマーキュリーを守るように構える。

「もうふたり減ったぞ」

「くそっ!この野郎!昔の仲間を攻撃して、何にも感じないのかよ!」

 淡々と語るスタアライトに、憤怒のソーラーが叫ぶ。

「いや、お前らも俺(昔の仲間)に普通に攻撃してきてんじゃねえか」

「うるせえ!お前なんかもう仲間じゃねえ!」

「矛盾してるぞ。お前らは攻撃して良いのに、俺は駄目なのかよ」

 次に仕掛けたのはシャインソーラー。太陽光を集めたという白い光の剣を振り、スタアライトへ躍り掛かる。

「必殺!ソーラーブレード!」

 これぞアークシャインの宇宙科学の結晶。ソーラーブレードは光により全てを両断する最高峰の剣。

 スタアライトはそれを、敢えて右腕を突き出して受けた。

「!?」

「その剣の弱点は、『剣であること』だ。太陽」

 右腕の先を飛び散らせながら、スタアライトはシャインソーラーの鳩尾へ深く蹴り込んだ。最強の攻撃力だろうが、その攻撃範囲(リーチ)は所詮『剣1本』と同じ。一度防げばもう怖くない。

「ごふっ!がっ!」

 一撃であばら骨を折り、両腕を粉砕する蹴りが、見事に彼に直撃した。

「そして、『剣』が強いだけで、お前は強くない」

「ソーラー!!」

 ヴィーナスが叫ぶも虚しく、ソーラーの内臓という内臓をかき混ぜながら、彼は水平に数メートル吹き飛び、どさりと落ちた。


――


「…………」

 スタアライトは切断され血の止まらない右腕を確認し、それから残るふたりを見据える。

「まだやるか?」

「!!」

 彼らの目には、スタアライトの人間のような赤い血が、それを流して痛みを感じないかのように平然とする彼の顔が、妙に生々しく映った。




――舞台説明②――

 怪人に銃や爆弾など現代兵器は効きますが、強靭な肉体と強固な甲殻により即死には至りません。半端な攻撃だと怒らせるだけになるので、自国で『戦争』したくないなら防戦に徹して大人しくシャインジャーを待ちましょう。彼らに任せた方がクリーンで、弾薬費等も掛からず、後片付けまでしてもらえます。当たり前ですが、自分の国にミサイル落とすようなことはできませんし、落として良いような所には怪人は出現しません。人間が主食なので、基本的に人の多い都会などに出現します。

 また、シャインジャーはアークシャインの提供する『ワープ装置』により世界中どこに怪人が発生しても向かえます。

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