遥かなるマインド・ウォー

弓チョコ

第1話 ハルカ就活!最終面接の罠

「行くぞ、必殺!」

 赤い特殊スーツに身を包んだ男が叫ぶ。それを合図に、周りに居た4人の男女が動きを合わせる。

 全部で5人。それぞれ同じようなスーツを着込み、派手に色分けされている。

「ファイブシャインアロー!!」

「いっけええええ!」

 抱えているのは巨大な大砲。5人がそれぞれ、打ち出す砲弾の衝撃を緩和するために砲座にしがみつく。

 そして5人の息の合った絶叫と共に、砲口からは謎の光を放つ砲弾が放物線を描いて発射された。

「ぐ、ぐわあああ!この私が……シャインジャーめええええ!」

 その砲弾の的となったのは、言葉を解する怪物…怪人と怖れられる悪者だ。巨大な角や鋭利な爪、強固な甲殻に覆われた二足歩行の化け物。その怪人は光の渦に巻き込まれ、最期に自分を殺した者達の名を憎々しげに叫び、跡形も無く消滅した。

「この宇宙に栄える悪は!」

「このシャインジャーが捨て置かない!」

 怪人消滅の光を背に、5人の男女はポーズを取った。その数秒後に、助けられたであろう一般人達が喝采を挙げた。


――


 西暦201X年。

 地球人類史上初となる、宇宙からの来訪者がやってきた。

 人類はさらなる文化の発展と、宇宙時代の幕開けを予感し、彼らと友好関係を築こうとした。

 だが来訪者は、侵略者であった。

 彼らは怪人を生み出し、世界各地に派遣し都市を襲い始めた。未知の力による攻撃は凄まじく、現状の武器では対処ができない。地球文明は滅びの危機に瀕した。

 そこへ現れたのが、「正義の心を持つ宇宙人」アークシャインと名乗る、ひとりの女性。

 彼女は同じく強い正義の心を持つ地球人5人を集め、宇宙の叡智である技術を提供。侵略者に対抗しうる軍隊組織「アークシャイン」とその戦闘部隊「シャインジャー」を発足した。


 それから数ヶ月。彼らシャインジャーの戦いは、なおも続いていた。


――


 と、いうのがネットに書かれたシャインジャーの情報。彼らはアークシャインのもたらした宇宙科学のひとつである「ワープ技術」により、世界中どこにでも駆け付け、現れた怪人と戦う。

 そんな、今や誰でも知っている情報を何故再確認しているのか。

「……よしっ」

 携帯を鞄に仕舞い、とあるオフィスビルの前で意気込んだ。この女性。日本人らしい黒髪を肩口まで伸ばした、中肉中背の平均的な体格の女性。義堂遥(ぎどうはるか)は今日、就職活動最終面接なのだ。

 その「アークシャイン」の。

 今や世界中で空前のブームを来しているシャインジャー。その職員となるべく、すなわち世界を救う一翼を担うべく。

 彼女は今日まで努力に努力を重ね、遂にここまで来たのだ。

 世界中で就職を希望する人が絶えない為、倍率が遥かに厳しくなった選考を勝ち抜き、ここまで来た。

「(リケジョの妹に負けない為にも、私はここで頑張るんだ)」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

「面接で来ました」

 受け付けにて用件を伝える。このビルはアークシャインのものではなく、ただの面接会場だ。

「では5階の待機室でお待ちください」

 エレベーターで5階まで上がる。上がった先で待つこと10分。10分前行動は彼女の基本である。

「はいお疲れさん」

「!」

 ひとつの部屋からぬっと現れたのは、白衣を着た20代前半くらいの男性だった。黒髪を短く切り、髭を綺麗に剃った、少し筋肉質な180くらいの男性。面接官だろうか。それとも就活生だろうか。だとすると部屋から出てきたのはおかしい。

「面接だろ?面接だな?よく来たな。いいぞ、歓迎する」

 男性は緊張で固まる就活生を解すような話し方でハルカを迎えた。男性の放つ意外な雰囲気にハルカは戸惑う。

「え?……はい。義堂遥と申します」

 これまで1次~5次の選考で会ったアークシャインの人事担当ではない。初めて見る職員だった。

「ハルカね。俺は星影(ほしかげ)。よろしく」

「(……へんな名前)」

 星影と名乗った男性は挨拶もそこそこに、ハルカの顔をジロジロと見始めた。

「……どうされました?」

「いやあ、まさかウチを受ける人が居るなんてね。人手不足だから助かるよ」

「そんな。世界的に有名で人気の企業じゃないですか」

「……人気かはさておき、有名ではあるだろうな」

「……?」

 なにか会話が噛み合わない。本当にここはアークシャインの面接会場なのかと、ハルカの心に疑問が生まれる。もしかして会場を間違えてしまったのではないか。

「さてじゃあ、早速仕事を覚えてもらおう。まずはウチの概要説明から」

「えっ!もう採用ですか!?」

「人手不足だと言っただろう?場所を移すぞ。ここはカモフラージュだからな」

「カモ……フラージュ?」

 世界的な企業となるとそんなこともあるのだろうか。ハルカは下ろしかけた荷物を纏め、星影に付いて部屋を出た。

 その瞬間。

「あっ」

 そこにたまたま居たのだろう、人物と目が合い。

 事態は急転する。


――


 宇宙戦隊シャインジャー。戦闘員である5人の男女は、それぞれ個性があり人気がある。

 中でも紅一点、長谷川ひかり(24)は世界中から男性ファンの応援を集めるアイドル的存在だ。ネットでは勝利の女神とも呼ばれている。彼女は元々オフィスビルで受付嬢をやっていた。アークシャインに正義の心を見抜かれ、スカウトされてシャインジャーとなる。

 しかし非番の時はこうして、オフィスビルで受付嬢をやっているのだ……。と、公式HPにある。

「……!」

「……ひか……」

 長谷川ひかりと星影は、互いに驚いて一瞬動きが止まる。

「あっ!長谷川さ……」

 ハルカが何も知らずに、有名人を見付けたファンのように目を輝かせると同時に、

「!」

 状況を理解した長谷川ひかりが、即座に特殊スーツへ「変身」して星影へ攻撃した。

「うおおっ!」

「"星影(スタアライト)"っ!何故ここに!?」

 長谷川ひかり……もといシャインヴィーナスは金色の特殊スーツに身を包む。そしてシャインジャーの副装備である「光線銃」を使って星影へ乱射する。

 たまらず星影は部屋に舞い戻り、ハルカの首根っこを掴んで窓を割って飛び降りた。

「きゃ……あぁぁぁぁぁあ!!」

 ハルカは何が起こったか理解できず、悲鳴を上げる。

「あぶねー!アイツこそなんでこんな所に居るんだよ!てことは他のシャインジャーも居るのか!?」

「ちょちょちょ!星影さんっ!!」

「ああっ!?」

 焦る星影。ここはビルの5階。加速しながら落ちるふたり。ハルカはどうにか精神を持ち直し、星影へ詰問する。

「なんで長谷川さんが攻撃してきたんですか!?」

「あー?そんなもん、敵だからに決まってるだろ!」

「え!?」

 さらにこんがらがるハルカ。それをよそに、星影はぶつぶつと何かを呟く。

「……逃走経路はあるが……。もうこの街には居られないな。潜伏先を変えねーと」

「落ちる!ぶつかる!死ぬー!」

 ハルカが叫ぶ。

「まあ、掴まってろ」

「きゃあああ!」

 星影は空中でハルカを抱き寄せる。そしてやってくる、追突の時間。

「!」

 ふわりと、浮遊感を覚えた。

 見ると、既に地上に降り立っていた。

「……??」

 降ろされたハルカは、まだ何が起こったか理解できていない。だが星影は彼女の手を引いて走り出した。

「行くぞ。奴等が来る」

「??」

 ハルカは訳も分からず、引かれるまま星影に付いていった。


――


「ええええええええ」

 ハルカは絶叫した。

 星影に連れてこられたのは、都市の地下にある、シェルターのような場所だった。

 その入り口には、こう書かれている。"悪の組織『ダークシャイン』事務所"と。

「ここ、悪の組織なの!?」

「そうだよ。まあ名前とかは洒落だがな。アークシャイン……奴等が『悪の組織』と呼ぶのが俺達だ。と言っても構成員は俺と妹だけだから今は組織じゃないし、正式な名前も無い」

 まあ上がれよ、と星影はハルカを手招きする。だがハルカは急いで踵を返す。

「……帰してくださいっ!私はアークシャインに入るために来たんです!」

 即座に星影はハルカの腕を掴む。

「まあ同情はするがな。ここを見られた以上生かして帰せない」

 ハルカは拒絶するが、いかにも悪の組織らしい台詞を吐く星影。

「騙されたっ!」

「騙されたのはこっちだ。募集かけても誰も来ないと嘆いていたが、ようやく応募が来たんだ。それが実はアークシャインと間違えてました、なんて。それはお前、酷いだろ」

「酷いのはどっちよ!なんで悪の組織が採用募集してんの!?一字違いでダークシャインなんて、間違えさせる気満々じゃない!」

「それは、認めよう」

「認めたっ!?」

 そんな口論をしていると、地響きがふたりを揺らした。

「きゃぁっ!」

「……おう。もう見付かったか。シャインマーズの探知能力だな。あれ反則だろ」

「助けてっ!シャインジャー!」

「止めとけ。ここに居ても生き埋めになるぞ。こっちだ」

「ううう……!最悪……」

 ここに居ては死ぬ。星影の目は本気だった。ハルカはそれを理解し実感した。

 考えても解決策は見付けられず。為す術なく、ハルカは星影に付いて彼のアジトへ入っていった。


――


 アジト内はきちんと整理整頓され、良く想像される悪の組織のアジトのような暗さは無く、空気も綺麗だった。白い壁と床が広がる、さしずめ高級ホテルのような内装だった。

「……えーと、あとはこれか」

 星影はその一室で鞄に何やら物を詰めていく。そしてそれをハルカへ背負わせた。

「ほい」

「え?」

「持っててくれ。手が空かないともしもの時俺が戦えないだろ。脱出するぞ」

「ちょ……。私は入社(?)しませんよ!?」

「だがその荷物が無きゃ死ぬぞ。死ぬ気で持ってろ」

「……うう~」

 自分の命を天秤に掛けられては従うしか無い。

 揺れるシェルター。地響きは強くなる。ふたりは地下内の開けた場所へと辿り着いた。いくつかの巨大なライトに照らされた、壁を無くしたエレベーターのような機械が見える。

「ここは?」

「地上へ繋がるリフトだ。シャインジャーを引き寄せてから俺達は脱出し、アジトを爆破する」

「!それ、シャインジャーは生き埋めじゃない!」

「当たり前だろ。……まあ、その程度じゃ奴等は死なないがな。奴等デタラメ能力がある。だがマーズの探知を、爆発のノイズによって一時振り切ることはできるだろう」


――


「まさかアジトがこんなところにあったとは。スタアライト!ここかっ!」

 荒々しく扉を破って入ってきたシャインジャーの5人。

 だが星影とハルカを乗せたリフトは、既に遥か上方へ上がっていた。

 シャインジャーの5人に飛行能力は無い。

「スタアライトっ!」

「よう太陽。元気か?」

 赤いスーツのリーダー、シャインソーラーが星影の名を叫ぶ。

 無事の逃走を確信した星影は陽気に彼の本名を呼んで答えた。

「……その隣の少女はなんだ!人を拐ったのか!?」

「いや?こいつはウチの就職希望者だ。期待の新人だよ」

「ちょっ……!」

 ハルカが訂正しようとするが、無情にもリフトからはもう下が見えなくなる。彼女の細い声は暗闇に掻き消された。

 そして星影は、用意していたスイッチを押した。

「待てっ!影士!」

 シャインソーラーの叫びが聞こえる。

「またな太陽。いや、シャインソーラーか。『シャイン○○』縛りで○○に太陽系の星を入れるのは良いが、太陽だと『社員さん』みたいになるからって『ソーラー』に変えざるを得なかった哀れな正義の味方よ」

「うおおお!皆、防御だ!」

 そんな憐れみの言葉と共に、アジトは爆発しシャインジャーは巻き込まれた。


――


「さて、ハルカよ」

「なんですかっ」

 陽が暮れる。途方に暮れるハルカに、星影は手を差し出した。

「あのアークシャインが最終面接まで残した人材だ。自身の危機的状況下での素直な判断力が見えたな。そして恐怖をしなかった。正義より『生』に執着した。その聡明さ、是非欲しい」

「……!」

「このまま帰しても良いが、シャインジャーに顔を見られたお前は、追われ続けるだろう」

「……うぅ!」

「まあ誤解を解けばなんとかなるかも知れんが、奴等は敵と認識した相手に対しては本当に容赦しないからな。対話に持ち込む方法は多くない」

「……最悪っ」

「そこでだ。まだウチの概要説明も終わってない。取り合えず選考の続きとして、今日はウチへ来い」

「はあ!?」

「お前の世話は妹がしてくれるだろう。どうする?」

「…………」

「お前は明日から指名手配犯。就職はもう無理だ」

「!」

 ハルカは星影を強く睨み付ける。だが彼は気にもせず、薄く笑って続ける。

「だが俺達はお前が欲しい。来いハルカ。ウチの給料は良いぞ?」

「……なら」

「ん?」

 本来なら人生詰みの状況。しかし、就職失敗は絶対に避けたいハルカ。それだけは、就活生として曲げられない。

「……取り合えず話を聞くだけ……なら」

「決まりだな」

 それに、元凶とはいえ何度も命を救ってもらった相手だ。

 本当は悪い奴じゃ無いのかもしれない。侵略者と地球人は、本当は解り合えるのかもしれない。両者の和平に協力すれば、人類を救った英雄として憧れのシャインジャー達と肩を並べられる。そもそも人類を救う手助けをしたくてアークシャインを希望したのだ。

 そうだ。話を聞き、事情を聞き、和解策を見付けよう。

 ハルカは星影の手を取った。




――舞台説明①――

 冒頭の必殺技「ファイブシャインアロー」は今後もう出てきません。

 5人の戦士全員の力を発揮するので威力は高いですが、毎回使うには余りに効率が悪いのです。

 怪人だろうが生物ですので、弱らせた所への『トドメ』ならばナイフ1本あれば充分なのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る