最終章 虹の章
「てっきり、泣いているかと思いましたよ? 凛田本隊長」
東アジア宇宙第三ステーション・通称サードは、今日も穏やかな雰囲気が漂っている。争いは起きていないが、平和ボケとは違う、和やかで、ゆったりとした空気だ。
RR暦七年、七月七日。今日はサード希望の日である。
「なんで私が泣かなきゃならないんだ、坂登黄河副隊長」
七年と半年前。サード移住計画対応巨大輸送艦、レボリューションは無事にサードとドッキングを成功させ、試験運行と寸分の違いも見せずに計画は成功を収め、犠牲となったアイツと、その父親は、記録に残すことで処理された。
先遣隊として活動する予定だったチームに空いた
まず、生活安全のための法律。そのあと医療や教育の整備、それから……数えだしたらきりがないほどだ。
失ったからこそ分かるが、地下世界で暮らしていても数えきれないほどの恩恵があった。環境が整備されているだけのサードには、文化がない。安全基盤の構築の中で、生活サイクルを整えるため、暦を決めた。
新しい暦はRainbow Revolution暦。RR暦一年一月一日を移住記念日として、誰かさんが好きだった、希望の橋を、これから皆で構築しよう。七色の橋に倣い、七月七日を希望の日にして集おう。満場一致だった。
「本隊長、彼の墓参りは済ませましたか。まあ、ネット上ですが」
「毎日、感謝しているんだから、わざわざ行くでもないと言った感じかな」
「姉ちゃんは毎日行っていますよ。諍いがあって、自分が追いつめなかったら、こんなことにはならなかったかもって」
「“たられば”は好きじゃないんだ。今と未来を見つめて生きたい」
「ごもっとも」
「でも、やっぱり忘れられないな。あの実験バカだけは。こんなに年を取ったのに」
リモコンを押して、スクリーンを出す。いつも、緊急時の会議で使うものだ。平穏を保っていながらも、やはりどこかでぶつかり合いが起こるのは人間の性だ。
一緒に考えて、納得して、実行する。それが、サードの理念である。
「寝るときには、必ずこれを見ている。ゆっくり眠れるんだ、そうすると」
スクリーンには、虹。虹。虹。
あいつが好きだった、希望の架け橋。
「ほんたいちょー!もう始まっていますよう」
「萌田は相変わらず捜索がうまいな」
「萌田さん、少しは自粛してはいかがでしょう。傷心の女を目の前に」
「なによう」
「坂登……私は、傷心はしていないが」
「無理ばっか。だめだよー。嫌われるよ」
「西谷だって同じようなもんだろう。聞いたぞ、昨日も前夜祭と謳って呑んでいたそうじゃないか」
「おら、言ったろ。凛田本隊長に隠し事はできねえんだよ、諦めろ」
「伊東に言われたくない……」
「ほら、行こう。失恋コンビ。今日は、国宇連から電報が届いている」
我らが母星は、どんどん星としての寿命を失っている。それでも、西ユーラシア圏を中心に、生きている人間はいるわけで、彼らは彼らで不安と困難を抱えながら、星と共に生きている。
南ユーラシア圏は太陽系外へのワープを境に音信不通だが、私たちには何もできない。無事を祈り、信じることしかできないのがもどかしいが、それを選んだのは彼らだ。私たちがどうこう口を挟むものではない。
「電報―?やるじゃん、凛田パパ」
「湯浅代表、ですよ。いい加減、直してください。古巣なのですから」
「なによう」
「まず、皆のところへ行こう。今日は平和と希望の式典だ」
“サードの諸君
本日は、まことにめでたい日だ。心から祝福している。
先遣隊をはじめ、皆、協力して手を取り合い、続けてきた生を、
どうかまっとうしてほしい。
この星は、私たちが責任をもって、連れていく。心配しないでほしい。
君たちは、君たちの道を歩め。
本隊長 凛田紅莉君
本隊長付 坂登 翠君
副隊長 坂登黄河君
科学隊長 伊東 蒼君
医療隊長 西谷水香君
解析隊長 萌田橙子君
そして、亡き向井紫恩君。七色の名を持つ君たちに幸あらんことを。
国際宇宙開発連合 代表 湯浅光朋”
にじいろRevolution 紬木楓奏 @kotoha_KNBF
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