第46話 やっと出発

 『じゃあもうそろそろ出発しましょうか、皆様』


 とクラーが言いながら私を抱きしめるのを止めて離れる。もう少しそのままで良かったのにと寂しく思ってしまう。

 ヤバいな私、思いっ切りクラーに依存している。その感情に危機感を抱いているとクラーが周りに聞こえない程の声で耳元で囁く。


『後でたっぷりと抱きしめてあげますのでちゃんと我慢してくださいね、主様?』


 その内容に思わずビクッとなってしまう。それでクラーに見透かされているような感覚に陥る。

 相当私が依存しまくってる。クラーになにされても嬉しく感じてしまう程には依存していると自覚が出来た。自覚している分だけまだマシだと思いたいよ……。


『ああ、そうだな。では行こうかシキ、シヅキ、クラー』

『その前に一応私も人間の姿になっておきますね』


 そうクラーが言うと一瞬でドラゴンの姿から人間の姿になった。うん、凄い美人ですね。やっぱりなにかの補正がかかっている気がする。

 あっ!私も小さくなっておかないと!急いで小さいサイズになる。そしてクラーの右肩に乗る。

 クラーに頭を撫でられて落ち着く……。いつの間にかクラーの指に自分からすりすりしていた。無意識の内に。


『それでは行きましょうか。って紫月どうしたのですか?』


 どこかクラーがビックリしているみたいなので紫月の方を見てみると、クラーを睨んでいるみたいだった。でも私の視線に気が付くとニコッて笑うけど、再びクラーを睨む。


「どうしたもこうしたもないよ!どうしてクラーに色ちゃんがそこまでベッタリになっているの!?訳が分からないよ!ほら色ちゃん、私の方に来てもいいんだよ?」

『いいえ、主様は私の方がいいのですよ。なので紫月の方には行かないと思われますが?しかし……、そんなくだらない事で嫉妬なさるんですね、紫月様?』

「なんですって?……どこが、くだらない事だって?クラーは今色ちゃんを独占出来ているからかなり余裕があるんだろうけど、私は違うからそこまで余裕がないの!」

『そんなに主様を欲するならば、小さい主様を撫でてあげれば良い問題ではないのでしょうか?そちらの方が小さい主様も喜んでくださいますよ』


 またクラーと紫月が喧嘩している気がするけどそれでもクラーが撫で続けてくれている。そのおかげでほとんど気にならないどころかこの空気の中もっとなでなでしてー!と言いたくなりかけた。危ない、危ない。流石にクラーも困ってしまうだろうから遠慮しておく。


「その手があったんだね。おいでもう一人の色ちゃん!」

『いいの?』

「うん!いくらでも撫でてあげるよ!」

『やったー!しづき、だいすきー!』


 もうひとりの私がそう言った時に紫月は嬉しそうににやけていた。そしてもうひとりの私を抱きしめる。

 そんな状況のままどのくらいの時間が経ったのだろうか?少なくても30分は過ぎているはずなんだけど、クラーも紫月も私を離すことなくずっと撫で続けている。

 ついにグイスが痺れを切らしたのか


『おい、シヅキとクラーもういい加減にしろ!これではいつまで経っても出発出来ないではないか!なんの為に事前に私とシヅキが行ったと思っているんだ!情報が古くなったらまた調査をしに行かないといけなくなるんだぞ?分かっているのかお前達?』


 怒り気味に言うので素直にそうだよねーと心の中で返事をする。本当にこのままじゃいつまで経っても変わらないもんね。確かに撫でてくれるのは嬉しいんだけどね。


『その位の事は分かっていますよ。では、気を取り直して行くとしましょうか』


 クラーがそう言って撫でるのを止める。なので私も少し寂しく感じながらも気合を入れなおす。全てはあの国をぶっ壊す為に!


「じゃあ、私は行ってくるから色ちゃんお留守番よろしくね?」

『いやだ!いやだ!しきもいっしょにいきたいもん!おいていっちゃやだ!』

「うーん……それじゃあね、私が帰ってきたらなんでも言う事聞いてあげる。その代わりにちゃんとお留守番していてね。出来る?」

『……わかったもん。しき、ちゃんとおるすばんしてる!だから……』

「分かっているよ。ちゃんと帰ってくるから、いい子で待っててね」

『うん!』


 その一方で紫月ももうひとりの私に言い聞かせて納得させているいるみたいだった。最後に紫月がもうひとりの私にポンポンと頭にしてからこっちを見て


「じゃあ、行こうか」


 言うので説得は終わったのだろう。


『ああ、行くか。ではワルト家は頼んだぞ?』

『おう!ドンと任せとけ!無事に帰って来いよ!』


 そうして私達は家を出た。


『さてここからあの国までどう行く?それなりの距離があるから、飛んで行くの

 ?あえて歩いていく?』

『そうだな、ある程度近くまで飛んで行くか。シキ頼めるか?』

『勿論だよ!任せて!』


 クラーの右肩からひょいと降りてみんなが乗せられる大きさ位のになる。そしてみんなが乗るのを待ってから飛び立つ。

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