第3話
*
放送部室は1年生の棟から離れた、文系部室棟の3階にある。
カギは本当は部室棟から離れた用務員室に毎回借りる必要があるのだが、華先輩が「めんどう」といったその一言で、優愛先輩が合鍵をひそかに作り、部室の前においてあるボロボロのポストの中に入っていた。当時、僕はその話を実里さんと聞いてしまい、用務員さんにカギを借りずに、ポストからカギを拝借することが多かった。
それが、僕と実里さんの秘密である。
*
「先輩やせました?」
斎藤さんが興味なさげそういった。PC室である。
「斎藤さんが面接は鬼の巣窟だとかいうからさ。僕こわくてねむれないよ。」
「鬼の巣窟とは言ってない。魔物の棲み処っていったんです。」
ボケを丁寧に直されることほど、恥ずかしいものはない。
「あと、僕の話を聞いてくれてる?」
「聞いてます。人探しを頼まれたんですよね。ドンマイです。」
ちゃんと聞いてくれていた。すげぇ、適当に流し聞きしてたかとおもっていたのに。
「で」
「で?」
「秘密って何なんですか?」
本当にちゃんと聞いてたんだな。僕は感心する。
「だから、合鍵を華先輩たちに何にも言わずに借りたことだよ。」
「違いますよね、合鍵の存在は部員みんな知ってたんじゃないですか?当時下っ端の先輩が知ってたんですから、部員共有の秘密ですよね、それ」
「じゃあ、それを知って、優愛先輩や華先輩に許可とらずに使ったことだよ」
「じゃあ、っていいました?あとそれ、さっきの主張とそんなに変わってないですよ。」
斎藤さんは結構、粘着質な性格だった。
「それに、別に怒りませんよね?華さんもそんなことで。たかが内緒で作ってた合鍵使ってたくらいで」
「そうかな。」
どうだろうか。
彼女の正義は、身内には向かない。そういう風にできている。相対する相手が敵か味方か。華先輩はその二択だ。だから、敵には厳しい。だけど、身内には甘い。だから、身内で味方のぼくらに、その正義の刃は向くことはないだろう。だけど、もし、その正義の鉄槌が向けられたとしたら。
たぶんその時は。
僕が先輩の正義に背いた時だ。
僕はそう思う。
*
放送部室は1年生の棟から離れた、文系部室棟の3階にある。
カギは本当は部室棟から離れた用務員室に毎回借りる必要があるのだが、華先輩が「めんどう」といったその一言で、優愛先輩が合鍵をひそかに作り、部室の前においてあるボロボロのポストの中に入っていた。当時、僕はその話を実里さんと聞いてしまい、用務員さんにカギを借りずに、ポストからカギを拝借することが多かった。それが、僕と実里さんの秘密である。
その日はテスト期間だった。どこの高校でもそうであろうが、テスト期間中、部活動は禁止である。文武両道。それが、
でもその日、ポストにかぎはなかった。そして部室の扉も閉まっていた。だから、ぼくは帰った。
*
「なんだ、合鍵のことか。」
華先輩は詰まらなさそうに言った。
「すいません」
「別に良いよ。あんたにもいうべきだった。
でもあの合鍵は誰が使っているのかわからないところがよくなかったな。
優愛とか間違って持って帰るし」
「結局僕、用務員室に走らされてましたもんね」
昔の記憶である。よく、お前が一番若いといわれて、用務員室に走らされていた。そして往復させられた。つらい思い出だ。
「お前には悪いことをしたね」
絶対思っていない。あの一年間僕は先輩たちのためにいったい何メートル捧げたのだ。
「ほんとですよ」心からでた言葉だった。
そしてこれからも手足となれというのだ。本当に僕をいつまでいじめるきだ。
「そして、実里にも悪いことをした。」
たぶんそれは、合鍵の話についてここにいない実里さんに謝罪をしたのだった。「言わなくてごめん」、と。でも多分実里さんは。
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