第2話

新見優愛。華先輩と同い年。僕の放送部の先輩。聡明で冷静。一匹狼。華先輩とは小学校時代からの付き合い。誰よりも華先輩に忠実で、華先輩のコントロールができる人。ゆえに、暴走する華先輩の歯止め役でもあり、教師陣からの信頼も厚い。ということは決してなく、華先輩の暴走を優しく冷めた目で見守り、止めることもなく、さらに言えば教師さえも蔑ろにするその性格は華先輩よりも実に破天荒なものであった。

「なんで優愛先輩を?」

優愛先輩のことなら、僕より華先輩自身が知ってるんじゃなかろうか。そう思ったのである。

「無理よ。私、あの子が千葉にいることしか知らないもの」

「は?」

ここは和歌山である。優愛先輩はてっきり、華先輩と同じ大学かせめて同じ県下の大学に行くものだと予想していた。中学受験する形で中高一貫校をうけた華先輩を追いかけて、優愛先輩も中学受験をしたと聞いていた。だからてっきり僕は、そういうことだと思っていたのである。まぁ確かに中学受験と大学受験じゃ質が違いすぎる。でもだけど、そういうところのある人だと思っていたから。華先輩と一緒なら、あともう他はどうでもよいというような、そんなところのある先輩だと思っていたから。

「大学もわかんない。すんでるところもわかんない。メールもラインも全部消された」

華先輩が怒っているように見えた。まぁ、親友と思っている奴にそんなことされたら、僕もそうなるだろう。特に華先輩なら、理由も知らないで放りなげられるなんてことを許すわけがない。この人はそういう先輩なのだ。自分の正しさを肯定してくれる優愛先輩がいなくなったのだ、理由ぐらい聞いておきたいし何なら殴る、くらいのこと思っているんじゃないだろうか。「ジャーマンスープレックス」華先輩がつぶやく。あ、殴るとかそういう問題じゃなかった。

「でも、ラインもメールも消されたって、また、なんで」

「喧嘩なんてしてないわよ、私に全のっかりだったあの子が私と喧嘩するとおもう?」

確かに。新見優愛は高城華を溺愛していた。それはもう見てすぐわかるくらいに。だからこそ、それなりの何かがあったとしか思えないのだ。再び僕は開口する。

「だとしても、なんで僕なんですか?」

「あんた就活で東京とかにも行くでしょ。だから、見つけてきてほしいの」

それはひどくシンプルな理由だった。あんたはどこにでもいけるから、あたしの手足となりなさい。そんな理由だった。確かに今、僕は就活生であり、あらゆるところに行く機会があるだろうが、そんな大雑把に見つけてほしいといわれても困る。というか今のところ優愛先輩が千葉にいたという情報しかない。

「本当は実里にも手伝ってもらいたかったんだけど、院生って大変なのね」

「あぁ、実里さんやっぱり大学に残ったんですね」

実里さん。椎名実里。も僕の先輩である。僕の所属していた放送部部長であり、こちらは、華先輩や優愛先輩と違って教師陣の信頼も厚く。「お願いだから、高城と新見を暴走させないで」といった要望に応えるべく高校から放送部に入ったふんわりとした先輩である。華先輩が「あの校長ぶっ飛ばす」といった正義を爆発させかけた場面にも「駄目よ、華ちゃん。医療費って結構高いのよ。」と、ちょっとおかしな方向に華先輩を落ち着かせてくれる放送部のコントローラーでもあった。

「やっぱりって何よ?あんた実里と連絡とってんの?」

僕の言葉にひっかっかたのか、先輩は僕に突っかかる。

「はぁ、まぁ」

僕は、言葉を濁すだけだ。正義の刃の矛先が僕に向いている。先輩がにやりと笑った。

「前々から思ってたんだけど、あんたと実里って同じ秘密とか抱えてる?おねいさんにかくれて付き合っちゃってた系?」

にやにやと下種な笑みを浮かべる先輩だった。

「違います、付き合ってたことなんてありません。」

僕は実里さんと付き合っていたことなんて一度もない。

ただ、僕は実里さんと同じ秘密は抱えている。

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