いつだって理解したふりをして僕たちは大人になる

@waruko

第1話 

僕は、タイムマシンがあったら、高校時代に戻りたいと思うことがある。あの3年間こそが、僕たちの大事なすべてだったのではないかと。放送部で過ごした3年間、特にあの先輩たちと過ごした、たったの1年。あれが、僕の一番キラキラしていたときじゃないのかと。大学生になった今、就活生として生きている今、そう思うのだ。

就活生というのは、矛盾をはらんだ生き物だと、僕は思う。

例えば同じような黒いリクルートスーツを着て、同じような髪型をする。なのに、個性を出せと強要させられる。だったら、リクルートスーツの意味は、髪型をセットする必要は、いったいどこにあるのだろうか。

「つまるところ、外側は評価基準に関係ないというところなのだろうか」

みたいのは外見じゃない、君の内面なんだ。みたいな。

「違うでしょうねぇ。一般的に、外見は一般常識として点数化されているみたいですから。外見で平均に達してなかったら、はい、さよなら、ですよ。」

就活生の生態、自己分析を僕の真横でぶった切ったのは1回生の斎藤さんだった。切れ長の瞳にベリーショートの真っ黒なかみ、真っ黒な無地のTシャツに黒いスキニーのジーンズ。黒一色の恰好は大学でも有名である。

「斎藤さんはなんで僕にそんなきびしいの?あれかい?スキの裏返」

「ありません」

瞬殺だった。裏返しさえ言わせてくれなかった。彼女は僕に厳しい。ツンデレというやつかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。知り合いにデレデレしているのを、過去、見たことがあるからである。そんな僕らが出会ったのは、現在僕らが会話している場所であり、大学図書館のPC室である。僕がコピー機で紙詰まりをおこしているところに颯爽と現れ、直してくれたのが斎藤さんだったのだ。そのときはどうもありがとう、で終わったのだが、後の授業で僕に気づき、「コーヒーおごってよ」と、およそ後輩とは思えないような傲岸不足さで僕に飲み物の要求をした。それから、PC室であえば軽口の応酬、もしくは僕が一方的に丸め込まれることになるのである。

「貴志さんは、あれですか。もうあきらめたらどうですか?就活」

「はじめたばかりなのに?まだ、3年生の1月なのに?」

「たぶん心を折れますよ。私の友達がいってました。面接は」

「面接は魔物の棲み処よ」

そういったのは華先輩だった。高城華。150センチの小さい身長。かわいらしい外見とは裏腹に、その性格は『正義の味方』を危うい方向へとむけたもの。不正を許さず、不審を認めず、正しくないものは排除する。高校時代、僕が1年生の時に3年生だった人。僕の先輩。豪胆、豪快。負けず嫌い。勝利のための努力を惜しまない人。後、僕を下僕のように使う人。そしていきなり僕を呼び出したりする人。

「あの、先パイ?」

「何よ、後輩。焼きそばパン買って来いよ。」

つらい。華先輩のあたりが強くてつらい。

「急に呼んで。悪かったわよ。」

華先輩は若干不服そうに僕に言った。これでも、申し訳ないと思っているのよ、と遠くのほうで心の声が聞こえる。普段素直に感情を出す癖にこういう時にはっきりいえないのがなんともかわいらしいところだ。こういうところが先輩が嫌に男性からモテた理由だと僕は知っている。普段は豪快だが中身は乙女。ギャップ萌えというやつであろうか。うつむき加減で自分が言ったことを恥ずかしがっているのもまた乙女の一部分なのだろうか

「単刀直入にいうわ。探してほしい人がいるの」

僕の思考をさえぎるように、華先輩は言った。

「探してほしい人?」僕は尋ねる。

「そうよ」華先輩が答える。

「僕にですか?」もう一度僕が訪ねる。

「そうよ」めんどくさそうに華先輩が答える。

「僕、知っての通り就活生なんですけど」再び、僕。

「知ってるわ」吐き捨てるように、先輩。

「だから、あんたに頼んでんのよ」、苦々しい表情で華先輩は言った。


「探してほしいのは、優愛よ。新見優愛。あんたも知ってる、私の親友よ。」


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