第5話:璃玖にかまわないで!
“恋愛に興味ない”は、芸能人だからしょうがないと思える。だけど“何回も会わないと恋愛感情は生まれない”という言葉が、決定的に私を打ちのめした。私は一回も璃玖に会ったことがないのだ。第一璃玖はほとんど私の事を知らない。なのに「付き合ってほしい」なんて、「付き合ってる」と思ってるなんて、おかしい。その夜、璃玖は12時過ぎに何事もなかったように電話してきたけど、私はうまく言葉を返せなかった。璃玖なのに、璃玖じゃないような感じ。璃玖はそんな私の変化に、気付く素振りもなかった。
「うわ~、やっぱりそうなったか……」
翌朝、バスの中で会った真希が私の顔を見るなり言った。
「まぶた、虫に刺された子どもみたい……」
「朝起きたら目ぇ開かなかったからね」
私は無理やり、怖い笑顔を作った。
「昨日、璃玖から電話きた?」
「きた。いつもと変わんなかった」
「ガツンと言ってやった? あれはどういうことなの?って」
「言わないよ。言えないよ。だって向こうがいつものまんまなんだもん」
「いい子すぎるんだよ、宇宙は。そうやって甘やかすと男はつけあがるの。たまには引いてみないと。今日電話かかってきても出ちゃダメだよ、絶対」
「えー、なんで?」
「心配させるんだよ、どうしたんだろうって」
璃玖は心配するかな?私のこと。その夜、璃玖からの電話に出なかった。電話に出るとき以上にドキドキした。出たい気持ちと闘って、何とか勝利した。着信音が鳴り終わって1分もしないうちに伝言サービスに電話してしまったけど。留守電は入っていなかった。
次の日の夜。12時を回っても、璃玖からの電話がない。たった一回電話に出なかっただけで、嫌われてしまったかも。どうしよう。真希みたいに余裕でいることはできないよ。1時。思い切って電話してみる。けれどケータイから流れてきたのは、信じられない言葉だった。
「この電話番号は現在使われておりません」
何かの間違いかと思ってかけ直した。でも流れてくるのはやっぱり無機質なガイダンスだけだ。どうして?電話に出ないだけなら分かる。最悪、着信拒否されたとしても。でも、たった1日で電話が解約されてるなんて。私が何をしたの?璃玖が消えた?私の中の璃玖は、消え去ってしまったの?身体中が震える。その時不意に着信音が鳴った。
「璃玖!?」
条件反射で口から飛び出した。
「宇宙?」
その声は私の名前を呼んだ。だけど、知らない女性のものだった。
「そうですけど……、あなたは?」
「いつ日本に帰ってきたの?」
声は私の質問に答えずに続けた。
「あの……、何を言ってるんですか?」
「いい加減、璃玖を縛り付けるのはやめてくれない? あんたのせいでどれだけ璃玖が傷ついたか分かってんの?」
誰?なんなの?声は一方的に続ける。
「あんたが急にいなくなってから、璃玖は変わっちゃったのよ! あんたを幸せにできなかった後悔にとらわれて、身動きができなくなってるの。逃げたのはあんたなのに。璃玖の事をちょっとでも想う気持ちがあるなら、もう璃玖を自由にしてあげて。璃玖にかまわないで!」
震えが止まらない。言葉が出ない。
「何で黙ってるのよ? あんたなんて……」
声は怒りに燃えていた。
「あんたなんて、死ねばいい」
電話は切れた。何が起こったの?遠くなる意識の中ではっきりと感じた。私の奇跡みたいな現実は、あっけなく苦い現実へと落下したことを。
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