第41話《現実版 はがない・2》
ここは世田谷豪徳寺・41(さくら編)
《現実版 はがない・2》
はがないとは『僕は友達が少ない』の平仮名を拾ったもの。
人気ラノベで、今月の初めから実写版がロードショーにかかっている。
で、この芸能界で、はがないことを気にしている坂東はるかさんと、あんまし気にしていない佐倉さくらこと、このあたしが乃木坂近くのKETAYONAって店で二人女子会をやっている。
「あたしは子どもの頃から『はがない』でしたから、あんまし気になりません」
「そっか、そのへんの違いかな。あたしはデビュー前から、友達は多くってね、そのへんで寂しいと思ったことは無い人なの」
「それは、ラッキーっていうか、あたしは真似できませんね。はがない慣れしてるもんで、かえって気を遣いますね」
「でも、少しは居るんでしょ?」
「ええ、ま、ゼロじゃ、寂しすぎますから」
「あたしは、ほとんどゼロに近い『はがない』だな」
「たくさん居たお友達は?」
「みんな別の世界に行っちゃった。かく言うわたしも人から見たらそうなんだろうけどね。芸能界って特殊でしょ。みんな表面はヨロシクやってそうにしてなきゃいけないし、微妙に先輩後輩の区別、売れなくなると、親友みたいに仲良かったのも離れていっちゃうし。さくらちゃんは、この世界、まだ片足だけだから、頼りにしてます」
はるかさんが頭を下げた。大急ぎで、あたしも頭を下げる。
「こ、こちらこそ」
「ほらほら、そういうのが、この世界の因習なの。さくらちゃんより四つばかり年上なだけなんだから、もっとフランクに」
そのとき、ドアがノックされた。
「ごめん、雪でなかなか着かなくって……」
「よかった、来てくれないんじゃないかと思った!」
「はるかちゃんに呼ばれて来ないわけないでしょ」
あたしは、ビックリした。若手で売り出し中の仲まどかさん本人だ。
「あ、あたし、ご一緒させていただいてる、佐倉さくらです」
「ああ、渋谷のスマホゲンカで有名な!?」
「あ、ご存じだったんですか?」
「『限界のゼロ』も観たわよ。あなたの驚きの表情って、とてもいいわね」
「『春を鷲掴み』でいっしょになったの。で、あたしのはがない晩ご飯に付き合ってもらってるわけ」
「いえ、あたしこそ、ご馳走になって。まどかさんて、はるかさんと幼なじみなんですよね」
「うん、若干のブランクはあったけど、あたしが四つ、はるかちゃんが五つからのお付き合い。このごろ、南千住には行ってないって?」
「うん、やっぱ遠慮しちゃう。お父さんも秀美さんも忙しいし……赤ちゃんもいるしね」
「ああ、元気のモトキ。弟なのにね」
「半分だけね……」
「複雑なんだね。じゃ、うちおいでよ。大歓迎するわよ」
「気持ちは嬉しいけど、まどかの家行って、お父さんとこ顔出さないわけにいかないじゃない」
「そっか……」
「まどかさん、今度アメリカに勉強に行くって、週刊誌に出てましたけど」
「え……ま、まあね」
「やっぱ行くんだ」
はるかさんが、寂しそうにため息をついた。
「ほんの半年。あたし、はるかちゃんみたく天分の才ってのが無いから、ちょっと勉強しないと長続きしないから。ね、さくらちゃんみたく魅力のある子は続々出てくるしさ」
「あ、すみません」
「あ、そういうつもりじゃないのよ。この世界はそれで持ってるんだから」
「まどか、あんたアルコールはいけるんでしょ。わたしたちに遠慮しないでやってちょうだいね」
「お気持ちは嬉しいんだけど、これからマリ先生とこ」
「そうなんだ……わたしたちも一緒じゃダメ?」
「あ、ダメダメ。週刊誌が先生の歳バラしちゃったじゃん。あれのヤケクソ会だから、事情知ってるものだけだから。はるかちゃんは知らないことになってんの、あ、ヤバイ、時間だ。じゃ、また時間合ったら遊んでね。さくらちゃんも。じゃ」
「失礼します」を半分も聞かないで、まどかさんは行ってしまった。
「時間が合ったらか……アメリカいっちゃうのにね」
「マリ先生って、上野百合さんですか、女子高生からオバアサンまでこなす名優?」
「そっか、さくらちゃんは、二冊とも本読んでるんだ」
「マリ先生はサバ読んでるんですよね、確か十歳ほど」
「あ、ナイショだからね」
「はいはい」
「ちょっとは、この世界の片鱗が分かったかな?」
「はい、勉強になりました……こんなこと言って僭越なんですけど。よかったら、あたしんちに来られません? 狭い家だけど間数はありますから。近所に元華族の四ノ宮さんてブットンだ人も居て、まあ、退屈はしませんから」
「ほんと? 行っちゃうよ、坂東はるかは!」
「どーぞどーぞ。家族は……見てのお楽しみってことで」
「おもしろいの? さくらちゃんのご家族って?」
「ええ、なんちゅうか、家族それぞれで小説が一本書けそうなくらいの人たちです」
「行く行く、絶対行く!」
かくして、月とすっぽんほどに違いはあるけど、芸能界のお友達が近々我が家に来ることになった。
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