第37話《かわいそうなタクミ》

VARIATIONS*さくら*37(さつき編)

《かわいそうなタクミ》



 陸自 女子大生を跳ねて記者会見! 


 A新聞が三面記事のトップにした。


「うそ!?」


 そう思ってパソコンの動画サイトを検索した。新聞と同じ写真が、動画になって出ていた。


 隊長の河内一尉と、当事者のタクミ一等陸士が大勢の記者の前で謝罪会見をおこなっていた。


「幸い被害者の女子大生の方は、軽い打撲で今朝退院されましたが、事故であったことには間違いありません。法律遵守の自衛隊には、あってはならない事故でありました。被害者の女性の方はもちろんのこと、警察を始め関係の方々にご迷惑をおかけしたことを心からお詫び致します」


 河内一尉とタクミ一等陸士が同時に起立し、深く頭を下げた。カメラのフラッシュが一斉に光った。


 あとA新聞とM新聞が執拗に質問というよりは、非難をくり返した。Y新聞とS新聞はメモを取るだけだった。あまりのしつこさにS新聞の記者が声を上げた。


「要は、歩行者の女性が不注意。赤信号で道路を横断し、車と接触転倒され軽傷。事故後の救護や警察への連絡や対応も法規通り処理された。昨日百余件有った東京の交通事故の一つだったというわけ。自動車が不利なのは分かってるけど、終わった問題なんでしょ」

「それじゃ、自衛隊には問題無いって言うようなもんじゃないか!」

「無いとは言ってない。前方不注意はあるだろうけど、ただの交通事故。で、軽傷、事故後の対応にも問題なし。他になんかあるのか!」

「ただの? 自衛隊が起こした事故なんだぞ!」

「おたくの新聞社が、同じ事故おこしたら、こんな記者会見やんのかよ!」

「あ、Sご自慢の問題のすり替え」

「なんだと、そっちこそすり替えのねつ造の常習じゃねえか!」


 この記者たちの口げんかの間も、河内一尉とタクミ一士は頭の下げっぱなしだった。あたしは見ていられなくなって×印をクリックした。すると、下からお母さんの声が上ってきた。


「さつき、自衛隊の方が、こられてるよ!」


 玄関に出ると、今まで動画サイトで見ていた河内一尉とタクミ一士が玄関に立っていた。


「すみません。あたしが悪いのに、大変な目に遭わせてしまって」

「いいえ、こちらこそ、記者会見などに追われてしまい、最初にお伺いしなければならないところ、遅くなって申し訳ありませんでした」

「本当に申し訳ありませんでした」


 出したお茶にも手を付けずに二人は、記者会見同様、ただ頭を下げるばかりだった。


「どうぞ、頭をお上げになってください」


「お父さん」

「あなた」

 仕事中のお父さんが、リビングに入ってきた。

「職場に、A新聞が来ましてね、お二人が来られることを匂わせましたんで。時間休をとってきました」

「それは、わざわざ申し訳ありません。お父様には、この後お伺いするつもりでした」

「河内さん、職場なんかに来られたらAやM新聞の餌食ですよ。うちは静謐第一の図書館ですから、その前で騒いで、区民の非難やら迷惑顔がとりたいんでしょう」

「ご配慮、痛み入ります」

「うちも、長男が海自におります、自衛隊のお立場は分かっているつもりです。レオタードさん、あなたが娘の不注意のあと、きちんとして下さったのは、これからもよく聞いております」

「お父さん、レオタールさんよ!」

「あ、これは失礼。A新聞の記者がそう言っていたものですから」

「いや、いいんです。基地内でも、レオタードで通っていますから」


 上げたタクミ君の笑顔は意外なほど子どもっぽかった。


「そうだ、いいアイデアがある!」

 お父さんが膝を叩いた。

「今度セガレの船が、横須賀に戻ってくるんです。一般公開がありますから、娘といっしょに行かれませんか。互いにゴタゴタがないことのいい宣伝になります。そうだ、さくらにも声を掛けよう。あいつがいっしょなら宣伝効果が倍になる」

「え……佐倉さくらさんて『限界のゼロ』に出てらっしゃる、さくらさんですか!?」

 タクミ君の目が、さらに子どもっぽく輝いた。


 プンプン!


 最後のところで、おもしろくなくなった。


 

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