第21話《早朝のピンポン》
ここは世田谷豪徳寺・21(さくら編)
《早朝のピンポン》
連ドラの総集編を観ていたら玄関のピンポンが鳴った。
「さくら、お願い」
おせち料理の準備で手が離せないお母さんのかわりに、あたしが出る。
で、ピンポンの画面には、なんと忠八の真剣なドアップが映っていた。
「篤子が@&%$#?@##@&%%!!?」
なにか興奮しているようで、頭の篤子以外意味が分からない。仕方がないので玄関を開けた。
「どうしたのよ、こんな朝から?」
「篤子が腹痛で苦しんで、救急車呼んだんだけど、オレいっしょに乗っていくわけにはいかないんだ。悪い、篤子といっしょに救急車に乗ってくれないか!?」
「え、大変じゃないの!?」
言いながら、なんで、忠八が救急車に乗れないのか不思議に思った。
「話は聞いたわ、昨日はどうも。さくら、コートとマフラー。お財布、コートのポケットに入れておいたから、急いで、救急車がきちゃうわ!」
お母さんの言葉が合図であったかのように救急車のサイレンが近づいてきた。
年末で、どこの病院も混んでいて、四件目の病院が、ようやく受け入れてくれた。
篤子さんは、急性盲腸炎だった。
すぐにオペにかかるが、あたしは困った。
「君は、病人さんの身内?」
「あ……」
ドクターの質問にあたしは絶句した。篤子さんは忠八の彼女だとは思うんだけど、素性が全く分からない。
「困ったな、同意書がなきゃオペできないよ」
救急車に乗るとき忠八から聞いたメアドに電話した。
――大丈夫、二三分で、篤子の母親が、そっちいくから。それまで頼む――
後を聞こうとしたら、切れてしまった。
あんまり失礼で薄情なので、かけ直そうとしたら、高そうなコートを着たオバサンがやってきた。
「篤子の母親です。必要な書類、それから様態などお伺いします。あなたが佐倉さんね、どうもありがとう。佐倉さんに言うのもなんだけど、忠八に言っておいてくださるかしら。こういうことまで人任せにするんじゃないって」
「ほんとですね、男として最低です!」
「その一言も付け加えてやって!」
オバサンは高そうなコートを翻し、高そうな香水の匂いをまき散らして、ドクターといっしょに行ってしまった。
――男としても最低だって!――
実の母親が来たので、あたしは忠八にメール一本打って家に戻ろうとした。
で、病院を出ると、忠八が湯気をたてながら、道路の左側に立っている。
「なにさ、ここまで来てるんだったら、病院寄りなさいよ。篤子さんは大切な人なんでしょ!」
「家まで送る。後ろ乗りなよ」
「いい、電車で帰る」
忠八は、無言で自転車を押しながら付いてきた。
「……オレ、お袋には会えないんだ」
「チュウクンね……」
そう言いかけて、違和感を感じた。
「彼女の母親をお袋って……意味深」
「だって、オレの母親でもあるんだからな」
「え……チュウクンと篤子さんて?」
「妹だよ……あれ、言ってなかったっけ?」
あたしは、地球の自転が止まって宇宙空間に自分だけ放り出されたようなショックを受けた……!
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