第11話《待てない未来がある・2》
VARIATIONS*さくら*11
《待てない未来がある・2》
「そんなとこで、なにをしてるんだ!!」
無神経な大声が噴き上がってきた。
まくさは、こともあろうに体育科一番の無神経男の久田先生を連れてきた。校舎の外周にいた子達も、いっせいに屋上のあたしたちを見つけて、悲鳴を上げる子までいる。
白石さんは、うろたえてバランスを崩してしまった(;゚Д゚)!
「危ない!」
あたしは、とっさに右手で白石さんを抱え、左手で柵の手すりを掴んだ。でも二人の体は屋上の縁から半分以上はみ出し、わたしの左手だけで、かろうじて二人分の体重を支えているだけだ。
「白石さん、柵を掴んで!」
「う、うん……」
たった今まで死のうとしていた白石さん。こうやって物理的に死の淵に晒されてみると、恐怖で、とっさには体が自由にならない。
「は、はやく~(;'∀')!」
「う、うん……」
手すりに掴まろうとすると、反動をつけなければならず、そのためには、あたしを押さなければならない。少し冷静になると、そんな迷いが出てきたようだ。
「お願い、あたし、もう限界……」
「うん……いくよ」
白石さんは、最小の反動を付けて手すりに掴まった。しかし、あたしの左手は限界を超えていた。
キャーーーーーーーーーーーーーーー!
自分のだか、人のだか分からない悲鳴がして、あたしは真っ逆さまに屋上から落ちてしまった。
ビシっと右脇から、首の左側に痛みを感じた。
屋上のドアノブに結びつけていたロープがいっぱいに伸びきって、あたしをタスキがけに締め上げる。
屋上と、校舎の下で人の気配。
「大丈夫か!?」
久田先生の威勢がいいだけの声。大丈夫じゃないことは見れば分かるじゃん!
そう思いながらも、ロープに胸が締め上げられ声が出せない……どころか息が出来ない(;゚Д゚#)。
ガラっと上と下で窓が開いた気配。
「だめだ、届かない!」
「しっかりしろ、さくら!」
担任の藤田先生の声がした。あたしは、どうやら三階と四階の間で宙ぶらりんになっているようだ。
「がんばれ、さくら……!」
だれかの声がして、足の先に手がかかった。その手はジャージの裾まで伸びてきて足首を掴もうとして、力尽きた……で、いっしょにジャージを引きずり下ろしてしまった。
へっちゃらパンツ穿いてて良かった……そう思った。
プツン
ロ-プが切れた。
気がついたら救急車の中だった。
体中が痛い。それに、なぜか喉に違和感。吐き出すともどしそうなので、無理に飲み込む。そこで、また意識が無くなり、本格的に意識が回復したのは病院のベッドの上だった。
「さくら、気がついた?」
「う、うん。体中痛いけど……白石さんは大丈夫?」
「大丈夫だよ。ちょっと精神的なショックで、同じ病院で寝てるけど」
「よかった……」
そう言いながら、話している相手ががまくさであることが、やっと分かった。
「まくさ、あんた最悪の先生呼んだね。よりにもよって、久田先生はないだろ。騒ぐことしか能がないんだから」
「ごめん、あの先生しかいなくて。でも、他の先生やら生徒もすぐに気づいてみんなで助けようって……恵里奈が機転きかして、枯れ葉が詰まったゴミ袋の山を作ってクッションにしたんだよ(^_^;)」
「あ、救急車の中で飲み込んだの……葉っぱのカケラか」
なんだか、可笑しくなった。
「さくら、大丈夫?」
一瞬、あたしが入ってきたのかと思った。
「どこか打った? あたしよ、さつき。あんたのお姉ちゃんだわよ!」
普段は意識してないんだけど、やっぱり姉妹。似てるもんだとしみじみ思った……。
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