第8話《レイア姫の事情》
ここは世田谷豪徳寺・8
《レイア姫の事情》
レイア姫おパンツ事件は落着した。
でも、姉であるあたしが後悔していると言ったら、驚かれるだろうか?
じつは、アミダラ女王と、レイア姫のおパンツを勧めたのは、何を隠そう姉のあたしなのだ。
ティーンの子なら、当たり前なんだけど。さくらは自分の長所がよく分かっていない。
ありがちなんだけど、自分の欠点ばかりが気になる年頃である。
自分は可愛くない。人並みに勉強もできない。空気が読めない。人生に夢がない……の、ないないづくし。
姉妹のひいき目をさっぴいても、さくらは十人並み以上にかわいい。ティーンとしてスタイルも悪くない。この年頃にありがちなプニプニ感がなく、シュっとしている。で、本人は、エンピツみたいな体だと自信を失う。
自信がないもんだから、表情が暗く、姿勢も悪い。勉強も優等生というわけではないが、並以上の成績はとっている。そうでなきゃ偏差値六十五の帝都女学院に通るわけがない。
さくらは勘のいい子で、相手の気持ちや空気が読める子である。しかし、読めるが故に、集団の空気の中にとけ込めない。本人は筋道をたてて話したい子なんだけど、世間の女の子は筋道なんか関係なく、雰囲気で話してしまう。さくらには、それが飛躍に感じたりして「意味分かんない」になり、つい返事が、気のない「そうなんだ」になってしまい、とけ込めない。で、当然友だちも少ない。
中二の時に、太宰にハマってしまった。中三の春には太宰の主な作品は読んでしまい、それ以来口癖が「ダスゲマイネ」。犬飼のオイチャンのお通夜でもクチバシッテいたけど、聞こえないふりをしておいた。
それから、名前も原因。佐倉さくらってのはね……ま、言ってもセンない話なので、またの機会に。
「この本、おもしろいよ」
帝都に受かったとき、古本屋で見つけたメグ・キャボットの『プリンセスダイアリー』をプレゼントした。映画化された時のタイトルは『プリティープリンセス』 アン・ハサウェーの出世作として有名。で、もちろん中古だけど映画のDVDもくっつけておいてやった。
で、そうそう。おパンツの話。
主人公のミアは冴えない女子高生なんだけど、ある日自分がジェノヴィアという国の王位継承者だということが分かり、ドタバタの末に目出度くジェノヴィアの王女になる。大事なのは、その中で主人公のミアが自分を失うことなく、周囲に調和させながら成長していく姿。
狙い通り、さくらは主人公のミアに、自分との共通点を見いだす。ここまでは良かった。
さくらは、ミアの愛用品であるアミダラ女王とレイア姫のおパンツを渋谷で発見。以来験担ぎで、さくらの愛用品になり、今回の騒動に至ったわけである。
一端の責任は、あたしにも有るわけ。
バイトが遅番だったので、朝一で映画を観て、さくらのために買い物をした。
くるっちょブラとへっちゃらパンツ。
「だめだよ、学校には柄物のブラは禁止だもん」
「これはリバーシブルなの。ね、白と柄になってんでしょ。学校いくときは白、プライベートは柄でいこう!」
「この、へっちゃらは?」
「レイア姫とアミダラ女王は、さくらの必須アイテムなんだからさ、その上に穿くの。AKBとかキンタローもこれだよ」
「……そうなんだ」
さくらは思索的な顔になった。
「考えるなって、たかがブラとパンツで。ものは試し。犬飼のオイチャンじゃないけど、世界が変わるかもよ」
「そ、そうだよね。世界は自分で変えていかなくっちゃね!」
と、気合いは入るがマジな顔。まあ、前向きな分評価はできる。
話は前後するけど、さくらの買い物をしたあと、秋元クンに出会う。さくらのお礼もあるし、聡子ちゃんのこともあるので、身銭を切って昼ご飯を奢る。ペーペーの女子大生にとっては出費オーバーな一日だった。
☆さつきの映画評論『ダン・ブラウン:インフェルノ』
インフェルノ……地獄って意味ですね。ダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ第4弾…と言って分からなければ、トム・ハンクスの映画“ダ・ヴィンチ・コード”“天使と悪魔”の原作者です。
本作との間には“ロスト・シンボル”という小説がありますが、どうやら本“インフェルノ”の方が先に映画化されそうです。
ダン・ブラウンの小説は非常に多層化された構造を持ち、ミステリー小説の中でも特異な位置をしめています。初期二作はそうでもありませんが“天使と悪魔”以降の4作には「キリスト教」が大きな意味を持っています。
ブラウンファンには当たり前ですが、彼の小説は冒頭から謎の連続、半分読んでもなかなかその謎は解けません。所が今回、ラングドンは頭を撃たれ記憶喪失になってしまいます。物語の中で謎に立ち向かう主人公が全く自分の立場すら解らないという設定、さらに命を狙われじっくり考えるもへったくれも、兎に角逃げ回る。その間に少しずつ得たデータから謎の核心に迫って行く。見えてきた謎はシリーズ中最悪のシナリオ。
さて、ダン・ブラウンファンにはこれで充分、読まずにはいられない。ダン・ブラウンの特徴のもう一つはその舞台に行って見たくなるという事です。
今回はフィレンツェに始まってヴゥネツィアに移り更に東へ……ほんの二日間か三日間のお話ですが、例によって、その間に提示される都市・歴史・美術の情報は膨大。今作のもう一つの柱はダンテ・アルギェリの“神曲”、このあまりにも有名でありながら、題名は知っていても読んだ事のない一巻の書物が謎の中心をなします。
誰が敵か味方か解らないのはミステリーの常道ですが、本作では物語の中で敵味方のベクトルがはっきり180度ひっくり返ります。それで正体を表す者もいますが、このことによって更に立場が解らなくなる者もいます。全く見事なミステリー構造で最後まで何を信じるべきか解りません。 もう、これは読むしかありません。扱っている問題は これまでで最恐怖の問題……絵空事ではないだけに読んでいて怖かったです。
※映画評は『タキさんの押しつけ映画評』を参考にしました。
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