第24話 勇者の預言


「ご、 ご、500年前に魔王を倒した勇者! 先生がですか?」


 白井はニッコリと満面の笑みで頷く。


「ああ」


「え?え?って事は今、先生はお、お、おいくつなんですか?」


 混乱状態に陥った良太郎の質問に、白井は人差し指を顎に当て記憶をたどるように上目づかいになる。そして少し考えていたが、すぐに諦めたような顔になり首を傾げ答えた。


「いや〜、もう覚えてないなぁ。500年前に魔王を倒してって言ってもさぁ、500年前だからさぁ。まあ、500歳いってるか、いってないかの微妙なところだな」

 

 あまりにも緊張感のない白井の無邪気な言いように思わず良太郎はツッコミを入れる。


「いやいや、そんな軽いノリで言わないでください。で、でも全然、そんな歳に見えませんよ!」


「そりゃあ、勇者になれば"アース"の強さが人智を超えるからな。俺、すでに不老不死だよ」


「ふ、不老不死! 本当ですか?」


「ああ」


 (確か、白井先生は30歳ぐらいだったよな。20代前半にしか見えない童顔な先生と言われてたけど…… まさか不老不死なんて)


 想像を超える真実に唖然としている良太郎を白井は面白そうに見ている。


「ふふ、どうやら朝井、色々パニックになってるようだな」


 良太郎は呆けた顔でコクコクと頷いた。


「そうだろうな。まあ、色々聞きたいことがあるだろう。俺が一から説明してやるか。だがらよ〜く聞けよ。……色々複雑だからな…… とは言ってもさて…… まずどこから話すか」


「……ど、どこからでも」


 緊張からか良太郎はゴクリと生唾を飲む。


「そうか。う〜ん ……………… そうだな。やっぱあれから話すか」


「……あれですか。よろしくお願いします」


「おう。よく聞けよ」


「…はい…… お願いします」


白井は下顎をぽりぽり掻きながら難しい顔で唸っている。だか、先程同様、すぐ諦めた顔になり苦笑いを浮かべおどけた口調で言った。


「……………… う〜ん、どこから話せばいいかわからん!」


 肩すかしを食らった良太郎はガクッとズッコケる。


「え…… ええ!! ちょ、ちょ、勘弁してくださいよ〜」


「ええい、うるさい。朝井、何が聞きたいか質問しろ」


 白井は面倒くさそうに頭をばりばりと掻いた。


「僕が質問するんですか?」


 急な無茶振りに困り顔で思案する良太郎。それに対して白井はニコニコと笑顔だ。


「おう、何でもいいぞ」


「そ、そうですね。先生は僕が生きてると言いましたが、僕は盗賊に腹を刺されて崖から落ちました。その後、どうなったのかわかりません。僕は助けたのは先生ですか?」


 良太郎から質問を受けて白井は得意げな顔で答えた。


「お! いい質問だな。そうだ。お前が崖から落ちてきてのを俺が受け止めて、そしてこの洞窟まで連れてきた。お前は腹に怪我をしていたが、俺が回復魔法で治したんだぞ」


 良太郎は刺された自分の腹を見る。すると服が切れその周りに乾いている血が付いている事に気づいた。


「そ、そうだったんですか…… ありがとうございます。先生が魔法で治してくれなかったら確実に死んでましたね」


 そう言いながら自分の腹を摩りしみじみしている。だが、良太郎は突如、何かを思い出したようにハッとする。


「……は! そうだ!先生! そういえば先生が僕たちをこの世界に連れてきたと言ってましたが、僕のことを間違えてこの世界に連れてきてますよ! 僕はこの世界を救う救世主でも何でもないんです。早く元の世界に帰してください!」


 白井は少し困った顔で首を軽く左右に振る。


「…… 朝井、残念だがそれは無理だ」


「ええ、何故ですか? 先生は間違えて僕をこの世界に連れてきたんですよね? もしかして、この世界に来ることは出来るけど帰ることは出来ないのですか?」


 取り乱す良太郎を落ちつかせようと白井は穏やかな口調で諭す。


「いいか、朝井、よく聞け。お前は今、自分は救世主ではないと言ったが、そうじゃないんだ」


「え? どういう事ですか?」


 目をパチクリさせている良太郎の肩に白井は軽く手を置くと彼が全く予想していなかった真実を口にした。


「つまりはお前も救世主の一人だって事だ」


 良太郎はその言葉の衝撃にしばらくポカンとした顔つきをしていたが、やがて白井の言ったことを理解するとハッと我に返って口を開いた。 


「………………うっそーー!!。ありえないありえない。なんで僕が!いや、だって救世主は五人のはずですよね? 先生が書いた預言書では確か五人の救世主って……」


 自分が救世主だと言うことを信じられずに狼狽えている良太郎。それを見て白井は破顔一笑すると、さらに追討ちをかけるような衝撃の告白をする。


「ああ、あの預言書か、すまん、あれは嘘の預言書だ」


 白井の告白に良太郎は言葉もなくただ呆然としていた。

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