第14話 再会

 森の中、四足歩行の大きな獣が数匹、黒い物体を乗せながら素早い動きで走ってくる。


「沙夜香! あれだな」


 久仁彦が沙夜香に確認した。


「うん、コボルトウルフよ。噂通り素早いわね。気をつけてよ」


 四足歩行の獣はヘルウルフと呼ばれる大きな狼型の魔獣だった。そのヘルウルフの背中には犬の顔をした人型モンスターのコボルトが乗っている。コボルトは錆びた剣と革鎧を装備している。


 この2匹が一緒に行動している場合、名称はコボルトウルフとなっている。


「任せろ! 剣技『氷柱乱撃ひょうちゅうらんげき』」


 久仁彦がスキルを発動すると複数の氷柱が前方に分布しながら飛んでいく。しかし、その氷柱はコボルトウルフでなはく森の木々に当たった。


「あ、くそ! 当たらねぇ!」


 久仁彦が悔しそうに歯ぎしりする。


「私に任せてください『風刻竜ウインドグレイヴ』」


 渉美が風魔法を放つ。がしかしコボルトウルフはダメージを受けるどころから吹き飛びもしない。コボルトウルフはジッとその場で吹き飛ばれないように耐えている。


「ダメかぁ……」


 渉美が残念そうにしていると沙夜香が一歩前に出た。


「渉美、動きを止めるだけで十分よ。今度は私が!」


 沙夜香が魔法を詠唱すると慌てて久仁彦が止めた。


「お、おい、ダメだ!ここで火魔法を撃ったら木に燃え移って火事になるぞ」


 沙夜香は久仁彦をチラッと見て軽く笑う。


「フフ、なめないでよ。私の魔法は火魔法だけじゃないのよ『蒐土龍ウォールクラッシュ』」


 沙夜香が魔法を発動するとコボルトウルフの両脇の地面が盛り上がり土の壁が出来る。そしてその土壁はコボルトウルフを挟んで重なり合った。

 

 コボルトウルフは沙夜香の土魔法で圧死した。


「さすが。お姉ちゃん」


 渉美が感心した様子で沙夜香を見る。


「ところで、コボルトってゴブリンとどう違うの? 私、見分けがつかないのよねぇ」


 と呑気な事を言っているとコボルトウルフが渉美に襲いかかってきた。


「渉美! 危ない!」


 沙夜香が叫ぶ。


「きゃー」


 悲鳴をあげる渉美。沙夜香と久仁彦が助けようとしたが間に合いそうもない。絶体絶命かと思われたが渉美の頭上から黒い影が突如、飛び込んできた。その影は一瞬でコボルトウルフを一刀両断にする。


「渉美! 大丈夫か?」


 その黒い影は赤井だった。


「はい、赤井先輩。ありがとうございます」


 久仁彦と沙夜香が赤井と渉美の元に駆け寄る。


「久仁彦、沙夜香、怪我はないか? どうやらコボルトウルフは俺たちのところじゃなくてお前達の方から村に入ろうとしたようだな」


 どうやら赤井と久仁彦達は二手に分かれて見張りをしていたようだ。


「ああ、そのようだ。だけど真司…… 周りを見てみろ、囲まれちまったようだぜ」


 赤井が周りを見回すと暗い森の木々の隙間から無数の光る目がこちらを見ている。


「どうやらそのようだな、だが、この森で決着をつけるぞ。コボルトウルフどもを村に入れるなよ」


「オッケー。 だけど、どうする?」


 久仁彦が尋ねると赤井は上を見る。


「あの大木の枝に涼子が待機している。涼子にはコボルトウルフが俺たちに襲いかかってきたら矢で打つよう言ってある」


 沙夜香達が見上げると涼子が大木の枝に乗って弓を引いて構えている。


「なるほど、で、俺たちは襲われるのをジッと待っておけばいいのか?」


「いや、久仁彦、お前は敵が攻撃してくるように誘導するんだ。渉美! 久仁彦のサポートをしてくれ」


 二人は頷いた。


「渉美、俺の回復薬をやる」


 そういうと赤井は回復薬を二本、渉美に向かって投げた。渉美がそれを受け取ると困った顔で赤井を見た。


「もう!赤井先輩、大丈夫なんですか? また、"アース"が切れたらどうするんですかぁ」


「心配するな。俺のスキルはここでは使えない。火が木に燃え移るからな。スキルを使わずあいつらを倒す」


「わかりました」


 渉美は回復薬を渋々受け取った。赤井は沙夜香の方を見る。


「沙夜香は俺と一緒に涼子が仕留めきれなかったコボルトウルフを倒すんだ」


 沙夜香は黙って頷いた。


 そして久仁彦と渉美が前に出ると逆に赤井と沙夜香が後ろに下がった。


「オラオラ! 来やがれ!犬っころども!」


 久仁彦が挑発的な言葉を吐くとスキルを発動する。氷柱は木々の間に飛び込んだ。そしてしばらく静寂が続く。と突如、その木々の隙間から何匹ものコボルトウルフが久仁彦に向かって飛び込んできた。


「うおぉ」


 突然の敵の襲来に久仁彦は焦った。コボルトが錆びついた剣をヘルウルフが牙を久仁彦に突き刺そうとする。だが、その寸前、涼子の矢がヘルウルフたちの頭を貫く。

 そして、死んだヘルウルフたちがその場で倒れるとコボルト達がその背から落ちゴロゴロと転がった。


 転げ落ちた1匹のコボルトが頭を振りながら起き上がろうしていた。だが大きな影に覆われたのに気づきハッとして上を見ると目の前で久仁彦が剣を大きく振り上げていた。


「ぐぎゃ」


 久仁彦に斬られたコボルトは真っ二つになった。


「おりゃ!」


 久仁彦は次々とコボルト達を切り倒していく。それを脅威とみたコボルトウルフ達は久仁彦に襲いかかる。久仁彦はあちこち噛まれたり斬られたりするが構わず暴れまわった。

 

 そして、渉美がコボルトウルフ達に攻撃されている久仁彦の傷を回復魔法で治していくと涼子は彼に襲いかかる敵を矢で打ち殺す。最後は涼子が倒しきれなかった敵を赤井と沙夜香がどんどん仕留める。


 しばらく戦闘は続いたが、赤井達はなんとかコボルトウルフ達は全滅させた。

皆、肩で息をしている。


「はぁはぁ。終わったな」


 久仁彦が剣を鞘に納めながら言うと赤井が周りに生き残りがいないか確認した。生き残りがいないことがわかると赤井も剣を鞘に納める。


「どうやらそのようだな。みんなよくやったな。依頼終了だ。この事を村長に報告してギルドに戻るぞ」


 赤井の言葉に皆が頷くと依頼された村に戻る。


 村に戻ると入り口で村長が心配な顔で立っているのが見えた。


「村を襲撃しようとしたコボルトウルフ達の退治は終わりました」


 涼子が村長に報告すると村長はホッとした表情でお礼を言った。


「いえいえ、仕事ですから」


 涼子がそう言うと皆、村長に挨拶をし村を出た。そしてギルドに戻って報酬を受け取る。


「さあ、宿に帰ろうか」


 久仁彦が自分の肩を揉みながら疲れた様子でいうと渉美が反対した。


「ちょっと待ってください。今日の依頼で結構お金貯まりましたよね。ですから道具屋で回復薬をいつもより多めに買っていきませんか? 明日も朝からギルドの仕事でしょ?」


「いいけど、お前の回復薬もうないのか?」


 久仁彦が渉美に聞くと彼女は首を左右に振った。


「いや、私じゃなくて赤井先輩のがないはずです。それに戦闘で赤井先輩の回復薬をもらってばっかりじゃ申し訳ないのでいつもより多く買っておいたほうがいいかなって思って」


 渉美の意見に涼子が賛成する。


「そうしましょう。私たちもだんだんお金に余裕が出てきたし」


 という事でみんなで道具屋に行くことになった。


「いつものあの道具屋でいいよな」


 久仁彦が言うと皆が頷く。


「早くしないと売り切れちゃいますよ」


 渉美がそう言うと道具屋に急いだ。そしてしばらく歩いていると大きな建物の前についた。どうやらこの大きな建物が道具屋のようだ。皆が道具屋の扉を開け中に入る。道具屋の中は元の世界にいたショッピングセンターのように広くいろんな商品がおいてあり人もたくさんいた。

 

 涼子たちが進んでいくと一人の女性に声をかける。


「ユミさん。こんにちわ」


 ユミと呼ばれた女性が振り向くと涼子の顔をみて笑顔になった。


「あら、涼子ちゃん、いらっしゃい。今日もお買い物?」


「はい、"アース"の回復薬をね」


「そう、でも、他にも色々あるのよ。たまには違うのも買ってみれば?」


「どんなのがあるんですか?」


 涼子が質問するとユミは棚からいろんな薬瓶を持ってきた。


「とりあえずザッと持ってきたけど。まずこれが、いつも涼子ちゃん達が買ってるアース回復薬ポーションね」


「はい」


「そして、これが怪我を治す傷回復薬リカバリポーション。で、これが毒を解毒する毒回復薬デトックスポーション。えっと、これは……状態異常を治す状態回復薬ステートポーションね。他にも色々あるけどとりあえずこんな感じかな?」


「確かに色々あるんですね…… みんなどうする?」


 涼子が皆の意見を聞くと、とりあえず、アース回復薬ポーションを10個と各回復薬ポーションを2個ずつ買う事に決まった。


「はい、ありがとうございました」


 ユミが回復薬ポーションが入った袋を涼子に渡す。


「それにしてもいつもここは繁盛してますね」


「ふふ、ありがとう。私がここの店主になって20年ぐらいたつけど今が一番忙しいね。ここ最近、魔物が増えてきたせいかもしれないね」


「従業員を雇ったりしないんですか?」


「ああ、一昨日に雇ったよ。今、配達に出かけてるけどね。そろそろ帰ってくるかな?」


 ユミが周りを見渡すと扉から一人の男が入ってきた。


「お、戻ってきたね。おーい! 良太郎くん」


 ユミが男の名を呼ぶと男はこちらに向かってきた。涼子達はその名前を聞いて驚いて振り返る。


 そして涼子達はその男を見てさらに驚いた。


 なんとこちらに向かってくる男は死んだはずの朝井良太郎だった。

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