第6話 勇者の力
赤井たちがマリウスに来てから二週間がたった。
彼らは今、マリウスの近くにある草むらで戦闘をしていた。
「久仁彦! ゴブリンたちが来るよ!」
沙夜香が横にいる久仁彦に声をかける、それと同時に草むらの中から5匹のコブリンが飛び出してきた。
久仁彦は前に出てグレートソードを正眼に構え意識を集中すると剣の周りに6本の
「剣技『
久仁彦がグレートソードを振り下ろすとその
その
久仁彦のスキル『
2匹のゴブリンが久仁彦たちに向かってくる。
「あの2匹は任せて」
沙夜香が魔法の詠唱を始める。
「『
杖をゴブリンに沙夜香が魔法を発動するとボーリングの玉ほどの大きさの火の玉が二つ勢いよく飛び出した。
「ぎゃー」
火の玉が2匹のゴブリンに直撃すると一瞬で蒸発し絶命した。
「残る敵は真司と涼子が戦ってるスライムとゴブリンの集団だけだね」
沙夜香と久仁彦が赤井と涼子の方へ向かって歩いていく。すると渉美が突然叫んだ。
「お姉ちゃん、油断しないで!」
渉美が叫ぶと1匹のゴブリンが草むらから飛び出し、沙夜香に向かって刀で斬りつけようとする。
「『
渉美が風魔法を発動すると彼女の片手剣から突風が飛び出した。
突風はカマイタチのようにゴブリンを斬りつける。
「ぎゃー!」
ゴブリンは悲鳴をあげながら全身血だらけで吹っ飛んでいく。
「グググギギギ」
だが、残念な事に渉美の風魔法では倒しきれず、ゴブリンは血だらけになりながらも立ち上がった。
「ダメだわ。私の風魔法では一撃で倒せない……」
渉美が悔しそうにしていると、横で再度、沙夜香が魔法の詠唱を始めていた。
「渉美、任せて。『
ゴブリンが沙夜香の火魔法を受け一瞬で焼け死んだ。
「さっ! 久仁彦、渉美、涼子達の所に行きましょう」
沙夜香たちが赤井と涼子の方へ向かう。しかしすでに戦闘は終わっていたようだ。
「みんな!」
涼子が沙夜香達に気づいた。
「うわー! 真司と涼子、さすがね。あなた達が相手をしてたゴブリン、私たちより多かったのにもう倒しちゃったの?」
沙夜香は感心して二人を見ていると涼子の肩から血が出ているに気づいた。
「ちょっと涼子、怪我してるよ。大丈夫? 渉美!涼子に回復魔法をかけて」
「うん!わかった」
渉美が涼子に回復魔法をかけていると戦闘を近くで見ていたアレクシスが声をかけてきた。
「みなさん、ご苦労様です。大分、魔物相手の戦闘に慣れてきましたね」
「ありがとう。でも、ゴブリンやスライムって最弱な魔物でしょ? これくらい出来なきゃこの先やっていけないんじゃない?」
「いえいえ、沙夜香様。そんなことはありませんよ。いくら最弱な魔物でも油断は出来ませんし、皆さんはマリウスに来て二週間です。二週間でここまで戦える冒険者はそんなにはいません。ただ……」
「ただ?」
沙夜香が聞き返す。
「当然ですが、各々課題はありますね」
「課題?」
「ええ、例えば今日の沙夜香様は調子が良いようでゴブリンを火魔法の一撃で倒しましたが、日によっては一撃で倒せない時もありましたよね?」
「うん、確かに…… 何でかな?」
「魔力やスキルの強さは"アース"の強さで決まりますが、"アース"は体力や精神力にかなり影響されてしまうのです。例えば疲れていたり戦いに集中出来ない事があると "アース"は弱まります。"アース"が弱まれば魔力やスキルの威力も落ちてしますのです」
アレクシスの話を聞いて久仁彦が思い当たるのか頷きながら話す。
「そういえば俺のスキル『
「はい、澤地様と沙夜香様は"アース"にムラがありますね。精神的なものなのか体力的なものなのかはわかりませんが、調子が良い時と悪い時の差がありそれが魔法やスキルの威力に影響が出ています。思い当たる節があるならそこを改善されると良いでしょう」
沙夜香と久仁彦が黙って頷いた。
「アレクシスさん、私の風魔法はいつもあまり威力がないんだけど…… それっていつも調子が悪いって事?」
渉美が残念そうな顔でアレクシスに聞くと彼女は笑って答えた。
「いえいえ、そんなことありません。回復魔法を得意とする聖騎士が唯一つかえる攻撃魔法は風魔法だけですが、基本的に風魔法はあまり威力を出せません。風はいくら強くても本来は人を飛ばす事が出来るぐらいなのです。それを相手の体を切るほどのダメージを与えるには相当な"アース"の力が必要です。ですからむしろ渉美様の"アース"はいつも安定していますし力も強いと思います。
ただ、渉美様の課題は魔法ではなく剣の方にあります。渉美様が装備している片手剣は軽くあまり攻撃力はありません、しかし、軽い故に素早い剣速を発揮すれば敵に大ダメージを与える事が出来るのです。渉美様の今後は剣の技術ですね」
「は〜い」
渉美は少し納得してなさそうな顔で返事をした。
「次に赤井様ですが、 "アース"の力と安定、スキルの威力、剣の威力、全てにおいて百点満点です。言う事はありません。
ただ、はっきり言って赤井様は前線に出過ぎです。そのためフォローしている宮内様の負担が大きいです。
赤井様がもう少し皆と一緒に戦っていただければ宮内様も渉美様や澤地様のオートスキルの恩恵を受けられるのですが…… オートスキルは発動する者から遠く離れると効果が適用されないのです」
「ああ、わかった」
赤井が静かに頷くとアレクシスは少し困ったような顔をしたが、すぐに気を取り直して今度は涼子を見た。
「最後に宮内様ですが、宮内様も"アース"の力などは言う事はありません、しかし赤井様のサポートにスキルを使いすぎるところがあります。もう少しスキルを自分の身を守るために使わないとオートスキルの効果が適用されない上に回復役の渉美様がサポート出来ない状態ですので、先ほどのように怪我が多くなりますよ」
「……そうね。気をつけるわ」
涼子がアレクシスの助言に頷く。
「まあ、色々うるさく言いましたが、皆さんのわずか二週間でこの強さは相当なものです。冒険者としてのレベルは十分、合格点ですね」
「やった!」
渉美が無邪気に喜んでいる。
「それでは皆さん、ギルドに帰って報酬を貰いに行きましょう」
しばらくしてギルドに到着すると赤井たちがギルドの中に入る。そして彼らは受付に向かった。受付には二人の女性が椅子に座っている。渉美がそのうちの一人に声をかけた。
「エミーさん。ギルドの仕事完了だよ」
エミーと呼ばれた二十代前半の女性が渉美を見て微笑んだ。
「渉美さん、お疲れ様です。それではいつものようにギルドが配付
した指輪を皆さんここに置いてください」
赤井たちはエミーに言われたとおり指輪を受付のカウンターに置いた。それを確認したエミーが魔法の詠唱を始めると手から光が放出する。そして放出したその光が指輪に触れると指輪は青く光った。
「最初にお話ししましたが、この指輪はギルドが冒険者に無料で配付
しているものです。この指輪は魔法のアイテムでギルドの依頼が本当に達成されたかどうか確認できます。青く光れば依頼達成、赤く光れば依頼未達成となっております。どうやら、みなさんの指輪は青く光っているので依頼達成でございますね。お疲れ様です」
「やった!」
渉美が嬉しそうに小さくジャンプした。エミーがそれを笑顔で見ていると赤井の指輪が緑に光ったのに気づいた。
「おや? これは!」
皆が赤井の指輪に注目した。エミーが驚いた顔で赤井を見た。
「赤井さん、おめでとうございます。あなたはEランクの冒険者からDランクにレベルアップしました。すごいですね。マリウスにギルドが建立して以来、二週間でDランクにレベルアップした冒険者は赤井さんが初めてですよ」
「真司、すごいじゃん。ってかこの指輪ってそんなこともわかるの?」
沙夜香が感心した表情で指輪を見る。
「沙夜香さん、そうなんですよ。この指輪は倒した敵の数、レベル、魔物の種類が全て記憶できる便利な指輪なのです。そしてランクアップに必要な経験値が達成されるとこのように光って教えてくれるのです。それとランクごとに光る色は違います」
「ふ〜ん」
「今後、赤井さんはDランクの依頼を受けられます。ちなみに赤井さんと一緒でしたら皆さんもDランクの依頼を受けられますよ」
「そうなのか、みんな、何かDランクの依頼を受けてみないか?」
久仁彦が依頼の掲示板を見ながら言うと、沙夜香も関心を持ったようで久仁彦と一緒に掲示板を眺めた。
「それでは皆さん、これはどうでしょう? 皆さんにピッタリの依頼だと思いますよ」
突然のアレクシスの声に皆、ビックリして振り返るとアレクシスが一枚の紙をかざしていた。渉美が近寄って紙に書いてある文字を読み上げる。
「ふむふむ、えー。依頼ランクD…… 盗賊退治っと。ん? 盗賊?」
「と……盗賊ってまさか……」
涼子が驚いた顔でアレクシスを見た。
「そうです、城からマリウスに来る途中、皆さんを襲ってきたあの盗賊です。どうでしょう、この依頼受けてみますか?」
「ああ、受けよう」
赤井が即答した。
「他の皆さんはどうでしょう?」
「……やるわ」
次に涼子が答えると続いて皆が頷く。
「決まり…… ですね。それでは明日、出発しますので皆さんは宿屋に帰りゆっくり休んでください」
「え?明日って急すぎだぞ。それに盗賊の居場所わかるのか? 依頼書には住処不明って書いてあるぞ」
「澤地様、ご安心ください。このような日が来るのではないかと思い。ずっと前からギルドの冒険者たちから盗賊の情報を集めていました。居場所はすでに把握しております」
「そ、そうなのか……」
「俺は明日でも構わない。あの盗賊の首領と決着をつけてやる」
先ほどまで何事にも無関心といった感じの赤井だったが今は闘志にみなぎった目をしていた。
「私も明日で大丈夫、みんなも大丈夫だよね?」
涼子が全員の顔を見ると。皆が頷いた。
「決まりですね。それでは、今日は宿でゆっくりお休みください。さっ!宿に帰りましょう」
アレクシスに促され、全員ギルドを出て宿屋に向かった。
そして宿屋に帰る途中、最後尾を歩いているアレクシスが赤井をずっと見ていた。
(赤井真司……か、なんとも恐ろしいほどのスピードで強くなっていく、まず彼が勇者で間違いないだろう。それにしても勇者がこれほどのものとは……)
アレクシスは先ほどの余裕のある態度とは裏腹に恐ろしく冷たい目をしていた。
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