第7話 いざ盗賊退治へ
盗賊退治に出発する前日の夜、涼子が一人、町の広場のベンチに座り空を見上げ星を眺めていた。
「この世界の星空も綺麗ね」
涼子は元いた世界でも時々、こんな風に空を見上げ星を眺めていた事を思い出した。そしてしばらく星を眺めていると自分の名を呼ぶ声が聞こえた。声をした方を見ると、そこに赤井が立っていた。
「涼子、こんなところで何してんだ?」
赤井が尋ねる。
「星を眺めてたんだ。私、元いた世界でもよく星を眺めていたんだよね。それを思い出しちゃった」
「そう言えばそうだったな……」
「真司の方こそ何してるの?」
赤井は少し照れ臭そうに答えた。
「まあ、散歩……だな」
赤井の照れた顔を見て涼子は微笑みながら自分の隣をポンっと叩いた。
「そ、じゃあ、ここに座ったら?」
「ああ」
赤井が涼子の隣に座る。しばらくお互い、何も話さずにいると、赤井がボソッと口を開いた。
「いつも、悪いな……」
「何が?」
「俺がいつも前線に出過ぎて……さ、そのせいで涼子に負担をかけちまってる」
「その事か…… 大丈夫よ。私は平気。でも、何で真司はいつもそんな無茶ばかりするの? 戦闘でいつもあんなに前に出てたら、今はいいけどそのうち命がいくつあっても足りなくなるかもよ?」
「そうだな…… それは自分でもわからねぇ。きっと強いやつと戦いたいってのが理由だろうな」
「うそ、それだけじゃないでしょ。本当は私たちを必死に守ろうとしてるんじゃない?」
「そんなことねーよ」
赤井が否定すると、涼子は首を左右に振った。
「そんなことあるよ。そしてそれをみんなわかってる。最初、この世界に飛ばされた時、救世主をやる気になってる真司とやる気のない私たちでギクシャクしてたけど最近はそんなことないでしょ? みんな真司が自分たちを守ろうとして自分から危険な前線に進んで行ってるってのをわかってるからよ」
「フッ、だが、お前の言う通りなら本末転倒だ。お前たちを守ろうとして結果、お前を危険な目に合わせちまってる」
「ううん、そんな事ない。真司がすごい戦ってくれてるからむしろこの程度で済んでるんだと思う。今までの戦闘で受けた傷は真司のせいじゃなくて自分の責任よ。そんこと気にしないで。それより真司にはもっと仲間を信頼して欲しい。久仁彦も沙夜香も渉美も、みんな真司に守ってもらわなくても自分の身は自分で守れるんだからね」
「……そうか、そうだよな。悪りぃ」
「謝らないで、そう思えるようになったのは真司のおかげなんだから」
「俺のおかげ?」
「うん、私たちがマリウスに来る途中、盗賊に襲われたでしょ。あの時、真司とアレクシスさん以外パニックになってどうしたらいいかわからなかったの、でも、真司が私たちに戦えって発破かけてくれたのをきっかけに冷静になったの。だから今、こうやって私達が魔物と戦えるのは真司のおかげ」
「そっか、まあ、あん時は俺も必死だったんだがな」
赤井が冗談っぽく言うと二人は顔を見合わせて笑い合った。そして、またしばらく沈黙が続くと突然、涼子が立ち上がりお尻をポンポンと叩いた。
「私さ、最近思うんだけど、勇者って強さじゃなくて、人に戦う勇気を与えてくれる。それが勇者なんじゃないかって、最近の真司を見るとそう思えるの」
「それって俺が勇者って言いたいのか?」
「わからない、なんかそう思っただけ。さ、そろそろ明日は早いからもう帰りましょ」
「そうだな」
二人が宿に着くと涼子が赤井の方を見る。
「それじゃあ、おやすみね」
「ああ」
涼子が自分の部屋に向かって歩き出すと赤井が涼子を呼び止めた。
涼子が振り向く。
「今日は色々ありがとうな」
赤井が涼子にお礼を言うと、涼子は微笑みながら答えた。
「これでも一応、あなたの彼女ですからね。これぐらいは当然ってことで」
赤井が少し照れ臭そうに下を向いた。
「ああ。それじゃな」
「うん、おやすみ」
二人はお互いの部屋に戻ろうとした。だが、今度は涼子が赤井を呼び止めた。
赤井が振り向く
「どうした?」
「明日は絶対に勝とうね。朝井くんの為にも」
「ああ、必ずな」
赤井がそう答えると二人は自分の部屋に戻った。
-----次の日の朝
赤井たち一行は険しい山道を進んでいた。かなり長い時間進んでいた為、渉美が歩き疲れたようで文句を言い始めた。
「本当にこの先に盗賊がいるの?」
「ああ、アレクシスに貰った地図を見ると、このまま進めば山間部がある。盗賊たちはそこに集落を作り暮らしているらしい」
久仁彦が地図を見ながら答えた。
「それにしてもまさか、アレクシスが一緒に来ないとは思わなかったな。あいつ、今回、自分はいかないで俺たちだけで盗賊を倒してこいって言っていたけど……
大丈夫なのかよ……」
「大丈夫よ。久仁彦、っていうかアレクシスを頼ってばかりいちゃダメよ。これからは私たち自身の力で強くなっていかないとこの世界では生き残れないわ」
「涼子の言う通りだ。これからは俺たちだけの力で強くなっていくんだ。それに一度戦ったからわかるが、あの盗賊たち、首領以外は大したことない。今の俺たちなら十分倒せる敵だ」
「まあ、真司が言うなら間違いないだろうけど、しかし作戦はあるのか?」
少し不安な表情で久仁彦が赤井に尋ねる。
「ああ、だがとりあえず敵の集落を確認するぞ」
「わかった」
久仁彦が頷いた。そして、しばらく歩いていくといくつかの家屋が見えた。
「あそこか……」
赤井が敵の集落を見つけた。すると沙夜香が集落の一角を指差す。
「見て、あそこに何人か女の人がいるよ」
沙夜香が指差した場所を見ると、縄で両手を縛られた複数の女性いて、その縄の先を人相の悪い男が引っ張って歩いている。
「あれって人さらいやってるって事?ひどい……」
沙夜香が縄で縛られて連れてかれている女性たちを見て憤る。
「みんな、これからあの盗賊たちを全員倒すぞ。まずは久仁彦と渉美が正面から集落に入るんだ。そして敵を引きつけてくれ」
久仁彦と渉美が少し不安そうな顔をした。
「二人とも大丈夫だ。涼子と沙夜香が二人をバックアップする。涼子と沙夜香は、家屋の屋根に登り、久仁彦たちに襲いかかってくる敵を倒すんだ」
二人は黙って頷いた。
「渉美は久仁彦の回復に専念してほしいが、もし、久仁彦に向かって来る敵が多ければ『
「はい、わかりました」
「俺はその混乱に乗じて、敵の首領を打つ」
赤井の作戦を聞いて、皆が頷いた。
「それと渉美には俺の"アース"の回復薬を渡しておく。"アース"が切れたらこれを飲め」
「え? 赤井先輩は回復薬がなくて大丈夫何ですか?」
「ああ、俺が狙うのは盗賊の首領だ。他の盗賊はお前らに任せる。だからスキルを使う相手は盗賊の首領だけだ。そんなに"アース"を消費することはない。だがそれに比べて今回、渉美は回復に攻撃と"アース"を使う事が多いはずだ」
渉美が赤井から回復薬が入っている小さな瓶を受け取った。
「涼子、沙夜香。準備が出来たら久仁彦に合図を送ってくれ」
「わかった」
「それじゃあ、いくぞ!」
--------
涼子が見張りの盗賊を静かに倒すと、沙夜香と集落に入る。そして家の屋根に登り久仁彦に合図を送る。
「渉美、いくぞ。俺の後ろにいろよ」
「澤地先輩。わかりました」
大きな木の後ろに隠れてた久仁彦と渉美が涼子の合図を確認して集落に入る。
そして、集落に入ると久仁彦が大声で叫んだ。
「おいおい!盗賊ども出て来やがれ!! この間はよくもやってくれたな!お礼に来てやったぜ! 出てこい!」
久仁彦が叫ぶとゾロゾロと盗賊たちが集まってきた。久仁彦はその人数の多さに少し気後れし小声で渉美に弱音は吐いた。
「渉美、ちょ、ちょっと人数多くないか? 大丈夫かこれ?」
「ちょっと多いかも……」
渉美も少しビビっているようだ。
盗賊が大声で久仁彦たちを威嚇した。
「ああ!! 何だガキども。てめえらなんか知らねーぞ。おお、ふざけたこと抜かしてると殺すぞてめー」
盗賊の一人が渉美を見て舌舐めずりをし薄ら笑いを浮かべた。
「おい!あの大男の後ろに女、結構な上玉だぞ」
盗賊たちが渉美に注目した。それを見て渉美は心底いやそうな顔をした。
「うわ、きもっ!」
「へへ、すげーいい女じゃねーか。何しに来たか知らねーが、馬鹿な奴らだ。おい!お前ら! あの大男をぶっ殺して女を奪え」
「おお!」
盗賊たちが一斉に久仁彦に襲いかかってくる。久仁彦はグレートソードを抜いてスキルを発動した。
「剣技『
氷柱が盗賊を次々と貫く。
盗賊たちが久仁彦のスキルを見て怯んだ。
「このガキャァ、まさか冒険者か!だがちょっとスキルが使えるからって調子に乗んなよ。おい!怯むことねー! 一斉に皆で攻撃しろ!」
さらに六人ほどの盗賊が一斉に久仁彦に刀を振り上げた。
「死ね!」
だがその瞬間、盗賊たちの足元に弓矢が刺さる。それは涼子の矢だった。そして涼子がスキルを発動した。
「弓技『
すると、矢が刺さった周辺の地面の土が数本の矢に変形して一斉に飛び出した。土の矢が盗賊たちの腹や顔面を貫く。
「くそ!仲間がいやがったか!」
盗賊は矢が飛んできた方向を見る。盗賊が涼子を見つけた。
「おい! あそこだ!」
盗賊が指を刺して仲間に涼子の居場所を教えようとした。だがその瞬間、盗賊が火だるまになる。沙夜香の火魔法だ。
次々と久仁彦の襲いかかる盗賊に渉美が風魔法で援助する。
「『
渉美が風魔法を唱えると、数人の盗賊が後ろに吹っ飛んだ。
「だめ、私の風魔法では敵を倒せない……」
「渉美、敵を吹っ飛ばすだけでも十分だ。これだけの人数に襲い掛かられちゃあ流石に分が悪い」
思ったよりも盗賊の人数が多く、涼子たちのサポートがあっても久仁彦は苦戦していた。
どんどんと盗賊が襲いかかってくる。
「くそ!少しやばいな」
久仁彦が焦りを感じてると、奥の方で盗賊の悲鳴が聞こえた。
「誰だ!」
自分たち以外の人間が盗賊と戦っている。そう思った久仁彦は誰が戦ってるのか悲鳴が上がってる方向を見た。なんと戦っていたのは赤井だった。
「真司!」
「久仁彦!敵が思ったより多かったな。ここは俺が助太刀する!」
赤井がどんどんと盗賊を切り倒していく。
「やろう!」
五人の盗賊が赤井の前後左右から襲ってくる。赤井はスキルを発動した。
「剣技『
赤井が剣を水平に斬りながら一回転すると四方八方に雷が走る。敵が雷に打たれ悲鳴を上げる。そしてその雷が火に変わった。五人の盗賊は火だるまになり絶命する。
しばらく皆で戦っているとだんだんと盗賊の数が少なくなっていった。余裕ができた久仁彦が赤井に声をかける。
「真司! ここはもう大丈夫だ。お前は首領を倒しにいけ!」
「わかった!」
赤井がその場から離れる。その後ろ姿を涼子が心配そうな顔で見ていた。
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