第5話 いきなりの大ピンチ
「うぉぉぉぉ!! 俺だって!やってやる!」
良太郎と盗賊は揉みあいになっている。
「このガキャ!調子に乗るな」
盗賊が良太郎の腹に蹴りを入れる。
「ぐはぁ」
良太郎は苦しそうに腹を抑えた。盗賊は揉みあいになった時に手放した刀を拾い上げた。
「朝井くん、危ない!」
涼子は良太郎に襲いかかる盗賊に矢を放とうと弓を引いた。だがそうはさせまいと涼子の近くにいた別の盗賊が刀で襲いかかる。
「死にさらせ〜〜」
涼子は盗賊の攻撃を交わすと弓を引き矢を放つ。しかし矢はギリギリで避けられてしまう。
「あぶね〜なぁ。このアマぁ!」
盗賊が怒りの表情でこちらに向かってくる。だが、涼子は次の矢を放つことなくそれを冷静な表情で見ている。盗賊は刀を目一杯振り上げた。
その瞬間、涼子がスキルを発動させた。
「弓技『
すると先ほど放った矢が光り盗賊めがけて急旋回した。矢は盗賊の背中に突き刺さった。
「ぎゃー」
突然の痛みに思わず崩れ落ちる盗賊。痛みのあまり涙や鼻水を垂れ流していた。
しかし、それでも致命傷ではないようで盗賊は痛みに耐えながら起き上がった。
「ぐぬぬ、こ、この……殺してやるぅ」
弓技『
涼子が再度、弓矢で攻撃する。盗賊は先ほどと同じように避けようとした。しかし体が重く思ったように動かない。涼子のデバフ効果だ。
矢はあっけなく盗賊の脳天に突き刺ささる。盗賊は悲鳴をあげることもなくその場に崩れ落ちた。
そして涼子は弓を引き、良太郎を襲っている盗賊に矢を放とうとする。
だが、渉美の叫び声でそれは中断された。
「涼子さん! 赤井先輩が危ない!!」
涼子が赤井の方を見ると、盗賊の首領と戦っていて苦戦していた。赤井は肩から血を流し片膝をついている。それに対して盗賊の首領は余裕の表情だ。
「く、くそ」
赤井は肩で息をし苦しそうな顔をしている。盗賊の首領はニヤケながら刀を振り上げた。
涼子がすぐさま弓を盗賊の首領に向ける。しかし、良太郎の方もピンチだった。良太郎を襲っている盗賊が刀で良太郎を突き刺そうと勢いよく突進して行く。
(ど、どうすればいいの)
どちらを助ければいい、もしくはどうすればどちらも助けられるのか、涼子は考えそして迷った。だが、すぐに決断し弓矢を放った。そうしなければどちらも死んでしまう。
矢は敵めがけて勢いよく飛んでいく。
「ぐはぁ!」
敵の肩に矢が突き刺さる。
「く、くそ。あのアマァ」
刺さった矢を力任せで引き抜くと肩から血が吹き出した。
「もう少しでこのサムライ野郎を殺せたのによぉ。とんだ邪魔が入ったぜ」
涼子が矢を放った相手は盗賊の首領だった。
それを見た赤井は起き上がり首領に向かって剣を水平に払う。首領は苦しそうに顔を歪ませながらも後ろに下がり赤井の攻撃を交わした。
そして涼子はすぐに弓を、良太郎を襲っている盗賊に向ける。だが残念なことに遅かった。
盗賊の刀は良太郎の腹部に刺さっていた。
「ガハハハハ! 終わりだ。くそガキ」
盗賊は良太郎の腹に刺さっている刀を抜きそのまま蹴りを入れた。
「がはぁ」
良太郎は後ろに吹っ飛ぶ。しかしなんとか倒れないよう踏ん張った。
「しぶてぇガキだ。死ね!」
盗賊は良太郎にトドメを刺そうと走り出した。涼子が叫びながら弓を引く
「良太郎くん!」
涼子が矢を放つと矢は盗賊の首に突き刺さる。
「がはぁ!」
盗賊は口から血を吐き出した。そして勢いよくごろごろ転がりそのまま絶命した。
「良太郎くん! 崖! 危ない!」
涼子が良太郎の方へ駆け寄る。良太郎は腹部から大量の血を流し苦しそうにフラフラとしている。そしてその近くにある崖に落ちそうになっていた。
全力で涼子が走る。そして手を伸ばし良太郎の体を掴もうとした。それに気づいた良太郎も涼子の方へ手を伸ばす。
しかしあともう数センチといった所で間に合わず良太郎は崖に落ちてしまった。
「良太郎くん!」
涼子は叫んで崖の下を覗き込む。が、良太郎は崖のはるか下へと落ちて見えない。
「涼子!」
名を呼ばれて後ろを振り返ると赤井がこちらに向かってきた。
「真司、敵は?」
「俺たちが意外としぶといんで逃げていった。さっきは助かった。あれがなかったら俺は死んでたな」
「で、でも、朝井くんが……」
「そうか…… 朝井はダメだったか……」
「うん」
涼子はその場に泣き崩れているとアレクシスや久仁彦たちが向かってきた。アレクシスが涼子に声をかける。
「宮内様! 怪我の方はございませんか?」
涼子は涙を拭いて答えた。
「え、ええ、大丈夫よ。だけど朝井くんを助けられなかったわ」
「……涼子、彼とは仲良かったの?」
沙夜香が涼子を起き上がるのに手を貸しながら聞いた。
「一応、幼馴染で小学生の低学年ぐらいまでは仲が良かったんだけど……」
涼子が辛そうに答える。
「宮内様、気に病むことはありません。もしあの時、赤井様を助けなければ赤井様は死んでいたかもしれません。救世主様がいなければこの世界は魔王の支配されてしまいます。ですから宮内様の判断は間違っておりません。朝井殿は気の毒ですが、これも運命です」
アレクシスの無神経な言い方に涼子は腹を立てたが何も言わず黙って俯いた。
「それにしてもここら辺はマリウスが近いので強い冒険者も多く通る場所です。盗賊が出るなんて滅多にないのですが…… みなさん、マリウスに急ぎましょう。この件をギルドに報告します。早急に対策してもらわねば。渉美様、馬車の中で赤井様の傷の回復をお願いします。それではみなさん行きましょう」
アレクシスが皆を馬車に乗るよう促す。渉美が二人に声をかける。
「赤井先輩、行きましょう。傷の手当をします」
「ああ」
赤井たち全員が馬車へと向かった。
「涼子、悪い…… 俺がもっと強ければこんな事にならなかった」
馬車に向かう途中、赤井がボソッと小さな声で涼子に謝った。
「ううん、真司は悪くない。でも、私たちもっと強くならなきゃこの先、生きていけないかもしれないわ」
「ああ、そうだな。俺らは必ず強くなる」
そういうと赤井は拳をギュッと握り覚悟を決めたような真剣な顔つきになった。
そして涼子は後ろを振り返り、先ほど良太郎が落ちた崖の方を見た。
「ええ、必ず強くなりましょう」
馬車の中、渉美が赤井の傷を魔法で回復している。
「『
赤井の傷はかなり深手だったようで渉美は治療が終わるとグッタリとして寝てしまった。どうやら"アース"が尽きてしまったようだ。
「みなさま、マリウスに到着しました」
赤井たちが馬車から出ると大きな町がそこにはあった。
「ここが冒険者の町マリウスね、わー! すごい壁」
沙夜香がマリウスの町を囲んでいる40メートルほどの大きな壁を見て驚いていた。
「マリウスには冒険者がたくさんいます。昔、冒険者に恨みを持った魔物や盗賊が町を襲ったことがありました。その経験からマリウスにはあのような高い壁が建てられたのです。向こうに門があります。行きましょう」
アレクシスたちがデカイ門の前までくると門兵が立っていた。門兵がアレクシスを見ると恐縮したように声をかけた。
「これは、アレクシス様。お久しぶりでございます。今日はいかがなされました?」
「ああ、今日はギルドに用事があってきた。すまないが門を開けてもらいたい」
「そうですか、かしこまりました」
「このでっかい門が開くのか?」
久仁彦がアレクシスに聞くと、アレクシスはクスっと笑った。
「いえ、隣にある小門から出入りします。こちらの大門は警備も兼ねて決まった時間しか開かないようになっております」
久仁彦がそうかと頷くと小門が開く音がした。その小門に馬車を引き連れて入る。小門とはいうが、馬車が軽々通れた。
町の中に入ると、赤井たちは馬車から降りる。そして辺りを見回すとあまりの人の多さに驚いた。
「すごい人だな」
久仁彦が驚いた様子で町を眺めているとz沙夜香が大声をあげた。
「ちょ、ちょっと見て! あの人、コスプレしてるよ」
沙夜香が指差した方にはワニのような顔した人間が普通に歩いていた。
「沙夜香様、あれは亜人でございます」
「亜人ってあの半人半獣の?」
「はい」
「すごい…… 初めて見た」
沙夜香だけではなく皆も驚いているようだ。
「さ、早くギルドに行きましょう」
アレクシスが皆を促す。だが、アレクシスが馬車で寝ている渉美に気づいた。
「どうやら渉美様の"アース"が尽きてしまったようですね。他の方々も先きほどの戦闘で"アース"が尽きているのではないでしょうか? "アース"は一晩眠れば回復します。とりあえず宿屋で休んで明日、ギルドで冒険者登録をしますか?」
「いや心配無用だ。行こう」
赤井が答えた。アレクシスは頷くとギルドへと向かった。
「みなさま、ここが冒険者ギルドです」
アレクシスが指を指した方向には一際デカイ建物があった。
「沙夜香、悪い、渉美を起こしてくれ」
「わかったわ」
沙夜香が馬車で寝ている渉美を起こした。
「それではみなさん、私はギルドの馬車置き場に馬車を置いてきます。少々お待ちください」
アレクシスがギルドの馬車置き場に向かって歩き出した。
赤井たちはギルドの門の前でアレクシスを待つことにした。
「みんな、これから俺たちの冒険者としての旅が始まる。覚悟はいいか」
赤井が皆に尋ねると涼子が答えた。
「ええ、大丈夫」
久仁彦、沙夜香、渉美が大丈夫といった感じで頷いた。
しばらくしてアレクシスが戻ってきた。
「お待たせしました。それでは中に入りましょう」
アレクシスがギルドの門を開いた。最初にアレクシスが中に入った。そして赤井、澤地と入っていく。最後に涼子がギルドの中に入ろうとした。だが突如、涼子は後ろを振り返った。どこかで良太郎の声が聞こえたような気がしたからだ。
しかし、辺りを見回してもどこにも良太郎はいなかった。どうやら空耳のようだった。
涼子は何気なく空を見上げ良太郎の事を思い出した。
(良太郎くん、私たち君の分まで頑張るからね)
そう誓うと涼子は皆と一緒にギルドの中に入っていった。
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