第3話 冒険者の町 マリウスへ

 良太郎たちがこの世界に転移してから一ヶ月が過ぎた。


「ふぁ〜〜あ。……あーよく寝た。」


 良太郎は欠伸をしながらおもいっきり背伸びをする。そしてベットから降り服に着替えるとドアをノックする音が聞こえた


 (アレクシスさんかな?もうそろそろ出発の時間か)


 まだ眠いのか欠伸をして目をこすりながら良太郎は扉を開けた。


「○▼□△☆▲※◎★●」


 扉を開けると目の前にアレクシスがいて意味不明な言葉で良太郎に話しかけてきた。


 「ア、アレクシスさん、ぺ、ペンダント忘れてますよ」


 アレクシスがハッとした顔で胸に手を当てる。


「大丈夫です。自分のペンダントがありますから。今、取ってきます」


 そういうと良太郎はベットの隣にあるサイドテーブルからペンダントを取り自分の首にかけた。


「アレクシスさん、これで大丈夫です」

 

「朝井殿。申し訳ありません。【魔声のペンダント】を部屋に忘れてきてしまいました」


「いえいえ、自分のがありますから大丈夫です。それにしても便利なペンダントですね。このペンダントをかけて人と話せばどの世界の言葉だろうと理解できるし相手に自分の世界の言葉として理解してもらえるんですよね」


「はい、以前話しましたが異世界からの転移者というのは結構多く、年に百人以上は転移してきます。その人たちは異世界難民と言われています。異世界難民は日本人だけではありません。他のアジア人やヨーロッパ人、アメリカ人もいます。朝井殿の世界は国によって言葉が違うため全ての言語を覚えることは我々には難しく、よってこのペンダントが開発されました」


「最初、アレクシスさんやヨハンさんが日本語を話せていたんでビックリしてました。いやでも、こんな便利な物が開発できるなんてこの世界はほんとすごいですね」


「全ては精霊の力"アース"のおかげです」


「"アース"?」


「はい、この世界を作ったと言われている大精霊ディア様が我々に与えてくださった恵の力が"アース"です。人が自身の内なる力"アース"を開放する事によって、魔法を使ったり特殊なスキルを発動させたり、または【魔声のペンダント】のようなマジックアイテムを作ったりと様々なことができるのです」


「開放ってどうすればできるんですか?」


「精霊の間で精霊から"アース"を開放してもらうのです。ただ、それだけでは何も出来ません。"アース"を開放してから次の手順があります」


「次の手順?」


「はい、まず精霊は"アース"を開放した者にロール(役割)を付与します、そして次にそのロール (役割)にあった職業を与えます。さらにそれが終わるとその職業ごとの師匠がいますので、その師匠から訓練を受けます。訓練はとても厳しいものです。その厳しい訓練を経てやっと初めて魔法やスキルを使うことができるのです」


「そ、それはすごい。とてもじゃないが俺には出来なさそうだ」

 

 アレクシスは横目で良太郎を見てクスっと笑った。


「すでに五人の救世主様は"アース"を開放して厳しい訓練を乗り切って魔法やスキルを使うことができるようになっていますよ」


「そうなんですか! 何やら厳しい訓練をしているのは知っていましたが。皆、それぞれ違うロール (役割)や職業ですか?」


「はい、赤井様のロール (役割)は【アタッカー】で職業は【侍】です」


 アタッカーは高い攻撃力(高火力)で前線に出て敵と戦う役。

 侍は日本人なら誰でも知っている職業で今更説明の必要はないだろう。侍は基本的には日本刀を使い戦うが他にも小太刀や槍を使う事もできる。


 赤井は親が古武道の道場を営んでいるので子供の頃からずっと剣の稽古をやってきた。侍は赤井にはぴったりの職業だ。


「そして、澤地様のロール (役割)は【タンク】で職業は【重戦士】です」


 タンクは敵の攻撃を一手に引き付ける盾の役。

 重戦士は大剣や斧、ハンマーなど重量のある武器や防具を使用して敵と戦う職業だ。


 壁役のタンクは体もでかく筋骨隆々の澤地にしか出来ないだろう。


「次に宮内様のロール (役割)は【デバッファー】で職業は【アーチャー】です」


 デバッファーは、魔法、スキルを使い敵の能力を低下させる役。

 アーチャーは遠距離から弓矢で敵を倒す職業だ。


 良太郎はそういえば涼子は高校では弓道部だったと思い出した。彼女は子供の頃から運動神経が抜群だった。


「古葉姉妹の姉、沙夜香様のロール (役割)は【バッファー】で職業は【魔術師】です」


 バッファーは味方の能力を魔法、スキルを使用することで上昇させる役。

 魔術師は地・水・火・風の四大元素を、敵を倒すためのエネルギーに変える攻撃魔法と味方の能力を上昇させたり敵の能力を低下させたりできる補助魔法が使える。沙夜香はバッファーなので彼女の補助魔法は主に味方の能力を上昇させるものに特化するとのこと。


 妖艶な雰囲気の古葉姉が魔術師とは、これ以上ないくらいベストマッチだ。


「最後に妹の渉美様のロール (役割)は【ヒーラー】で職業は【聖騎士】です」


 ヒーラーは魔法やスキルで回復をする役。

 聖騎士は回復魔法を使う事も出来て尚且つ武器を用いて敵と戦うこともできる職業だ。


 良太郎はアレクシスからそれぞれのロール (役割)と職業の説明を受けた。


 (古葉妹がヒーラーなのは納得だが、職業が聖騎士とは意外だな。女性でも剣が振れるのだろうか? そういえばアレクシスさんも女性だがこの王国の副団長だ。相当な実力者のはずだ)


 良太郎はアレクシスに質問をした


「アレクシスさんも騎士ですよね? 女性でも剣を使ってモンスターと戦ったり出来るんですか?」


「はい、出来ますよ。"アース"は能力を高めるだけではなく、肉体も強化されますので。まあ、個人差はありますが。ただ騎士の職業になればまず間違いなく肉体は強化されるはずです」


「なるほど」


 アレクシスは話を続けた。


「あと、ロール (役割)には残りサポーターというのがあります。これはバッファーとデバッファー両方の役割を兼ね備えていますが、基本的に錬金術師などマジックアイテムを作るのを専門とした非戦闘的職業の人間に付与される事が多いです」


「いやー、色々あるんですね」


「はい、ロール (役割)は以上の6点ですが、そこから派生する職業は何十とあります。もしよかったら朝井殿も"アース"の開放を行ってみてはどうでしょう?」


「え! 俺にも出来るんですか?」


「ええ、"アース"の開放は誰でも出来ます。問題はその後に厳しい訓練に耐えられるかどうかです。耐えきれず断念する者も多いですが能力を発動出来た人間も多いですよ。発動した者は冒険者になったりマジックアイテムを作ってそれを売る道具屋になったり、私のように王族に使える戦士となったりします」


「厳しい訓練……ですか」


「はい、かなり厳しい訓練です。それを普通は一年続けてやっと卒業して能力を使えます」


「一年! でも、五人はまだ一ヶ月しか経ってないですよ?」


「ええ、素晴らしい才能を持った5名です。やはり彼らは救世主ですね。でもその中でも突出しているが赤井様です。彼は一週間でスキルを発動できるようになりました」


「一週間!すごっ!」


「今ではうちの騎士団と一緒に近くの草原でゴブリン退治をするほど成長しています。もしかした彼が勇者なのかもしれませんね」


「あと、他の方も三週間ほどで魔法やスキルを発動できるようになっています」


「うわ〜。マジですか…… でもまあ、僕は今度にします……」


「フフ、まあ"アース"の開放は今から行くマリウスでも出来ますのでもし気が向いたらやってみてください」


「え、ええ気が向いたらぜひやってみたいです。はは」


 良太郎は苦笑いしながらごまかした。


「そろそろ行きましょう。救世主様たちはもう馬車に乗っていますよ」


「ええ」


 これから良太郎が向かうマリウスという町には異世界から転移したものが住む難民キャンプがある。良太郎は事故でこの世界に転移してしまったので王国の客人として扱われていた、その為この一ヶ月、働く事もなく食べては寝てを繰り返していた。だが、いつまでもそんな生活をこの城でするわけには行かないという事で、良太郎は今後、その難民キャンプで働きながら生活することとなった。

 

 そして、マリウスは冒険者の町と言われていて町には冒険者ギルドがある。丁度、赤井たちがギルドで冒険者登録をして冒険者になることが決定したので一緒にマリウスまで行くことになったのだ。


 彼ら五人はこれから冒険者として旅をすることになる。


 良太郎はそれを聞いた当初、羨ましいと思った。まさにファンタジーの世界だ。自分も一緒に冒険したい! そう考えて自分が冒険している妄想をしたりしていた。だが、イケてない自分がリア充と一緒に旅をしても足手まといになるだけだし、それにコミュ障の自分が仲間と一緒に冒険なんてきっと緊張の毎日で耐えられない。

 

 先ほどもアレクシスと話をしているのも実は緊張していた。それでも彼女はこの一ヶ月間いろいろ世話をしてくれて接する時間が多かったので少しだけ話すのは慣れていた。だが、それでも話が終わるとホッとした自分がいたことに気づいた。


 自分が冒険者になるなんて夢のまた夢だな。良太郎はそう思いながら皆が待つ馬車に向かった。アレクシスが良太郎に声をかけた。

 

「朝井殿、私の馬車にお乗りください、みなさんもうすでに乗っています」


「は、はい」


 良太郎は緊張しながら馬車に乗ると赤井たちが乗っていた。この世界に転移した時はみな学生服だった。だが今は甲冑を着たりそれぞれの職業にあった装備を身につけている。


「遅れてごめん」


 緊張のためか少し上ずった声で遅れてきた事を謝った。だが、五人とも何も言わなかった。その沈黙で良太郎の緊張はさらに増した。だが、一人だけ良太郎に話かけてきた者がいた。


「朝井くん。おはよう」


 話しかけてきたのは涼子だった。


「うん、おはよう」


 良太郎は少しぎこちなく挨拶を返した。良太郎が乗るとアレクシスが馬車を動かした。


(彼ら五人に比べたら大した事ないが、これからはそれなりに大変な生活になるだろう、俺の本当の意味での異世界生活が今日から始まるんだ)


 良太郎は遠く離れていく城を見ながら覚悟を決めたように両方の拳をギュッと握りしめた。

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