第2話 やっぱり俺は違うようだ
「異世界? 救世主? なんだそりゃ?あんた誰?」
赤井が馬に乗った女性に尋ねた。女性はハッとした顔ですぐさま馬から降り自己紹介をした。
「し、失礼しました。私はメルクワトル王国騎士団の副団長アレクシス・ギャラガーと申します。あなた達は500年前に魔王を倒した勇者サナダ・ユキマサが残した預言書。それに記された世界を救う選ばれし救世主なのです」
「はぁ? 魔王……勇者だと!」
赤井は驚いた表情でアレクシスと名乗った女性に聞き返した。
「はい!勇者サナダが残した預言書には魔王が復活し再びこの世界に闇が襲いかかると記されております。しかしその魔王の復活とともに日本から来た五人の救世主が魔王を倒すとも記されているのです。そして五人の救世主はこの日この場所に日本から転移してくると! 預言書は本物でした。私はあなた達に会えて大変感激しております!!」
アレクシスは伝説の救世主に出会えて興奮している様子だった。だが、赤井達はキョトンした顔で互いを見ていた。アレクシスはその表情に戸惑った。
「あの……五人の救世主とか言ってるけど、ここにいるの六人だけど……」
赤井が突っ込むとアレクシスと名乗った女性は飛び出そうなくらい目を見開き驚いていた。
「え?え? 1、2、3、4、5、……6……ほ、ほんとだ」
アレクシスがパニックになりながら何度も何度も人数を数えていると遠くで声が聞こえた。
「アレクシス!」
先ほどアレクシスがきた道から今度は大柄な男が馬に乗ったこちらに向かってきた。どうやら彼女を呼んだ声の主はあの男のようだ。その大柄な男は数名の馬に乗った男たちを引き連れこちらに向かってきた。
「ヨハン隊長!」
ヨハンと呼ばれた大柄な男はアレクシスのところまでくるといきなり彼女を叱責した。
「アレクシス、お前、いくら救世主様に会いたいからといって隊列から離れて先に行くとは……この馬鹿者が!」
「すみません、隊長」
「まあいい、それよりこちらが救世主様だな」
ヨハンは馬からおりアレクシスと同じように赤井達に挨拶をした。
「救世主様、お目にかかれて光栄です。私はメルクワトル王国騎士団の団長 ヨハン・ベルガーと申します 」
大柄で鎧の上からでもわかる筋肉質な体格。そして顔には頬から顎にかけて髭がびっしり生えていかにも屈強な戦士といったヨハンだが、その態度は非常に紳士的だった。
ヨハンが挨拶を終えるとアレクシスが慌てて口を挟む。
「た、隊長。そんな呑気に挨拶している場合ではありません。勇者が残した預言書では救世主は五人のはずですが、こちらにいらっしゃるのは六名です。どういう事でしょう」
「なに!」
ヨハンは改めて赤井たちを見ると焦り出した。
「た、確かに六人いる。しかし、これはなんという事だ……」
「隊長、どうしたらいいでしょうか?」
「と、とりあえ救世主様を城に案内しよう。救世主様には我が国の女王陛下にお会いしていただかなくては。それに女王陛下ならこの状況について何か知っているかもしれん」
「わ、わかりました。それでは救世主のみなさま、我が城に案内いたします。この先に馬車を用意しておりますのでそれにお乗りください」
アレクシスは赤井達を馬車まで案内した。皆、疑心暗鬼だったがあてもないので仕方なく言われた通りにした。
城に着くまでの馬車の中、皆一様に不安な顔をしていた。だが、いきなり知らない世界に飛ばされ魔王だ勇者だ救世主だと言われればそれは当然だった。
中でも一番年下の渉美はずっと泣いていて沙夜香の肩にずっと顔を埋めていた。普段、渉美が甘えてくると鬱陶しさそうにはねのけていた沙夜香だが、この時ばかりは渉美の肩を強くギュッと抱きしめていた。
そして草原から馬車で移動して30分ほどたった頃だろうか、どうやら城に到着したらしい。馬車が止まりアレクシスが皆に声をかけた。
「救世主様、お待たせいたしました。メルクワトル城に到着いたしました。ただいま門を開けます。よろしければ馬車から降りて我が城をご覧ください」
アレクシスに言われて赤井達が馬車から降りると、城壁に囲まれた大きな城が見えた。涼子、沙夜香、渉美が城の大きさと豪華さに感嘆の声をもらした。
「すごい!ディズニーランドにあるお城よりおっきい!」
さっきまで泣いていたのが嘘だったように渉美は目の前にそびえ立つ童話のような美しい城を見て感激していた。
アレクシスが馬から降り渉美に声をかけた。
「渉美様、お気に召していただけたようで幸いです。この城は外見だけではなく城内も美しく豪華な作りになっております。どうぞごゆっくり堪能してください」
渉美はキラキラした目で何度も頷いた。先ほどまで馬車の中でずっと泣いているのを見ていたアレクシスはホッとしたように微笑む。そして城の方を向き右手をあげると跳ね橋が大きな音をたてながら降りてきた。
「それではこれより入城いたします。どうぞみなさま馬車にお乗りください」
アレクシスは再び馬に乗りヨハンを見て頷くとヨハンを先頭に皆が橋を渡り始めた。橋を渡り城壁の中に入ると皆、馬から降りる。それを見た赤井達も馬車から降りた。
するとまるで絵画に迷い込んだような美しい庭園が広がっていた。涼子が近くに咲いている花に近づいた。
「すっごい!綺麗な花がいっぱい!」
庭園には色とりどりのバラが咲いていた。そして庭園の中央まで進むと十メートルを超す噴水が勢いよく噴き出していた。涼子達はその噴水の水しぶきを浴びながらキャッキャッとはしゃいでいた。
しばらく庭園を満喫したのち城内に入ると中はまさにファンタジーの世界だった。城の渡り廊下はびっくりするぐらい広く、等間隔に大きな金のシャンデリアが吊るされキラキラと輝いていた。そして廊下の壁には有名な画家が描いたと思われる芸術的な絵がいくつも飾られている。
涼子達がキョロキョロと城の中を見ながら歩いてるとヨハンが皆に声をかけた。
「それではこれより王座の間に案内します。そこに女王陛下がいらっしゃいます」
ヨハンと赤井達がしばらく歩いているといっとう豪華で大きな扉が見えた。扉の両脇には兵士が立っている。ヨハンがその兵士に頷くと兵士たちもヨハンを見て頷いた。そして兵士が大きな扉を力一杯引くと扉は重々しく開いた。
「どうぞ、中にお入りください」
赤井達は言われるまま中に入った。王座の間は城内と違って少し薄暗く厳粛な趣だった。まっすぐ進んでいくと大きな椅子に座っている高齢の女性がいた。
恐らく彼女がその女王だろう。
ヨハンとアレクシスがその女性の前で跪く。
「女王陛下、ただいま戻りました。そしてご命令通り救世主様をお連れしました」
女王はヨハンの報告を受けて頷くと労をねぎらった
「ご苦労様ですヨハン、しかし、確か救世主は五人のはず。ここにいるのは六人のようですが、これはどういうことでしょう」
「ハッ 我々は預言書の通りのトラソル草原に向かい救世主様を発見いたしました。ところが女王陛下のおっしゃる通りそこには五人ではなく六人の異世界人の方がいらっしゃいました。理由は正直に言って私にもわかりません。勇者の預言書は代々メルクワトル王国の王族が管理して王族の方しか見ることができません。ですので女王陛下、預言書に我々の知らない何かが書かれていないでしょうか?」
女王は目をつぶりしばらく何か思い出そうとしていたが首を横に振った。
「いえ、ヨハンよ。確かに勇者の預言書には私だけが知っていることが記されています。それは五人の救世主のうち一人が大精霊ディアに認められることによって勇者となり大精霊から魔王を倒せる唯一の剣【ディアの剣】を授けられ4人の英雄と共に魔王を倒すという内容です。しかし王族が過去それを誰にも話さなかったのは五人の中でディアに認められた勇者だけが特別と見られるのを避けたかったからです。実は勇者サナダも大精霊ディアに認められ【ディアの剣】を授かり魔王を倒しました。しかし、勇者サナダも仲間の英雄たちがいなければ魔王を倒せませんでした」
「そうでしたか…… しかし、救世主様が六人いる理由は……わからないままですね。陛下、なぜ草原には六人の転移者がいたのでしょう……」
ヨハンが首を傾げていると女王が少し言いずらそうに口を開いた。
「恐らくですがこれは事故です。本来、救世主だけが転移されるはずでしたが何かの事故で救世主ではない人間が一緒に転移されてしまったのです」
「なんと、この中に救世主ではない人物がいると…… それはどなたか……
う〜ん、私にはわかりません女王陛下」
「ヨハンよ、救世主は人々に希望を与える存在です。それはどの世界にいても変りません。救世主が元にいた世界でも人々から常に特別な存在として尊敬されていたはずです」
「な、なるほど…… ではこの中に元にいた世界でも普通というかなんというか。あの……まあ、悪く言えばどこにでもいるっていうか、イケてないというか…… の人が間違って転移された方というわけですね……」
ヨハンがチラッと六人を見た。
しばらく気まずい沈黙が流れた。
すると一人の男が恐る恐る手をあげた。
「あの〜、間違ってこの世界に転移したのってたぶん俺です」
王座の間にいた全員がその手をあげた人物に注目した。
手を挙げた人物……それは朝井 良太郎だった。
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