イケてない俺がリア充たちと異世界へ転移して一緒に冒険するハメになったけど意外と悪くなかった
黒咲
第1章
第1話 リア充たちと異世界へ
上体を起こすと、そよそよと吹いてくる初夏のような爽やかな風が頬を撫でる。
目を閉じると優しい風の匂いが鼻腔をくすぐった。
良太郎は気持ち良さそうに背伸びをする。
「う〜ん。よく寝たなぁ」
「………………」
「………………」
「………………」
「……ってなんで俺、寝てんの?」
訳も分からずといった表情でキョトンとする。
(こ、これは夢か…… どこだここ……)
良太郎が寝ていたの場所は、地面は草に覆われ、そして木が一本も立ってない草原だった。
(確か…… 学校から帰る途中の電車……だったよなぁ)
駅のホーム。
プロロロロロロ……
発車のベルが聞こえる。電車は発車しようとしていた。
(おいおい、マジかマジか。間に合え間に合え)
良太郎は必死で駅の階段を駆け下りると、駅員の構内アナウンスが聞こえた。
「ドアが閉まります。ご注意ください。駆け込み乗車はおやめください」
(た、確かに駆け込み乗車は良くない! 良くないんだけど、今回だけは! 今回だけは許して! なぜなら今日はネット注文で頼んだアニメのDVDが届いてるはずなんだ。だから早く帰って見たいんだよぉ〜)
プッシューという音とともに電車の扉が閉まる。
良太郎はドアが閉まるギリギリに滑り込む。
「ふぅ〜 危機一髪」
なんとか無事、乗車出来たことでホッと胸をなで下ろしていると、どこからか笑い声が聞こえた。
(やば、ちょっと必死すぎたかな)
良太郎は恥ずかしそうな顔で笑い声をした方を見ると同じ高校の制服を着た五人の男女が電車のロングシートに座っていてクスクスと笑いながらこちらを見ていた。
(うわ〜、あいつら俺と同じ学校で一番のリア充オブリア充のパリピ達じゃねーか)
良太郎を見て笑っている男女は彼が通う学校で一番輝いてる五人だった。それぞれがモデルやアイドルをやっている者もいれば、部活で全国大会で優勝した者もいる。
彼らは全生徒の憧れの的だった。
五人を見て一瞬怖じ気つき、顔が引きつった良太郎だったが、見なかったふりをしてなるべく彼らから遠くの座席に座った。
そして電車が発車してしばらく経つと良太郎はふと違和感を感じた。そういえば学校帰りの電車の座席に座れることなど滅多にない。今日はどうして座れたんだろう……
(いつもは学校帰りの生徒がいっぱいで座ることなんで出来ないのに、 それに生徒の話し声でうるさい電車内も今日は静かだ…… なんでだろう? こんな日もあるのかなぁ……………… いや、ちょ、ちょっと待て)
電車の車両を見回す良太郎。
(そ、そりゃ静かだよ。この車両、俺とあそこにいるリア充たちしか乗ってないじゃん!)
車両の異変にリア充たちも気づいた。
「あれ?そういえばこの車両、俺たちしか乗ってねーじゃん」
「ほんとだ、誰もいないなんて珍しくない?」
「今日は俺たちの貸切だな」
どうやらリア充たちの視界には良太郎の存在は完全にないものとなっているようだ。
(おいおい、俺もいるっつーの)
心の中で毒づくとチラッとリア充たちの方を見る。すると一人の女リア充と目があった。良太郎は慌てて目を逸らす。
(
学校一のリア充たちとほとんど接点もなく話もしたことがない良太郎だが、
宮内涼子は良太郎と同じ高校三年生で二人は幼馴染だった。涼子とは小学生の低学年までは仲が良く一緒に登校もしていたが高学年からだんだんと疎遠になっていった。
小学生も高学年になると生徒はグループに分かれて行動することが多くなる。
そのグループ分けは、イケてるグループとイケテないグループだったりした。
涼子は顔が小さいのに目が大きくてクリッとしていて幼い時から絶世の美少女だった。なので当然イケてるグループに属した。
それに対して良太郎はいつの間にかイケてないグループに属していた。住む世界が違ければ例え同じ学校に通っていたとしてもだんだんと接点がなくなっていく。
そしてお互い話もほとんどしないまま高校生となる。
良太郎は相変わらずイケテないグループに属していたが、そのグループとも距離を起き一人でいることが多くなっていた。
逆に涼子の方はどんどん友達が増えていた。そして驚くことに彼女はいつの間にかアイドルになっていた。
キッカケは涼子が高一の夏休みに遊びで友達と動画をネットに投稿したことだった。動画投稿は学生の間でとても流行っていて誰でも当たり前にやっている。動画の内容は音楽に合わせて軽く踊った程度のものだったが涼子の可愛さに視聴者が注目し動画は瞬く間に拡散された。
涼子はたちまちネットで人気者になった。そして、その人気に目をつけた芸能事務所がスカウトし彼女は本格的にアイドルデビューしたのだった。
(だけど、子供の頃とはいえ一緒によく遊んだ涼子がアイドルになるとはねぇ)
昔を思い出した良太郎はもう一度、涼子の方を見た。彼女は
赤井真司はファッション雑誌でモデルをやってる超イケメン男子だ。身長は180センチで体格もいい。親が古武道の道場を営んでおり子供の頃から体を鍛えていたそうだ。彫りが深く目がキリッとした顔立ちはハーフのようだが純日本人らしい。
二人が話をしている姿はまるで映画のワンシーンのようだ。
しばらく和気藹々と話していたリア充たちだったが、電車の窓から差し込む陽気が心地よくなったのか涼子の隣にいる女リア充があくびをした。
「なんか電車の座席に座れたの久しぶりだから眠い〜」
そう言いながら隣にいたもう一人の女リア充の肩にもたれかかる。
彼女の名前は
そして、渉美が寄りかかったもう一人の女リア充は彼女の姉、
古葉姉妹は母親がドイツ人で父親が日本人のハーフだという。姉妹はハーフ特有のはっきりした顔立ちで涼子に負けず劣らず美しい。
彼女ら姉妹も動画投稿がキッカケで涼子と同じ事務所に所属するようになったアイドルだ。
「も〜渉美ぃ。うっとしいから寄りかからないでよぉ」
沙夜香が渉美の頭を手で押し返す。
「お姉ちゃんのイジワル〜」
渉美は冗談ぽく口を尖らせブーブー文句を言う。それをもう一人の男リア充
澤地久仁彦は柔道部員だ。非常に才能のある選手で柔道の大会で何度も優勝していて、将来オリンピックで金メダルを取れる逸材と評されている。
身長は赤井と同じ180センチ。赤井も相当鍛えていて筋肉質だが、澤地は彼よりもさらにガッチリした肉体をしている。
顔はさほどイケメンという訳ではない。目は細く一重で鼻は高くも低くもない。のっぺりとした平たい顔面で典型的な日本人顔だ。だが、久仁彦の自信に満ち溢れた仕草が独特なオーラを醸し出し、赤井や涼子たちと一緒にいても全く見劣りしない。
「お前ら姉妹はいつも仲がいいよなぁ。俺にも兄貴がいるけどそんなに仲良くねーぞ」
久仁彦が言うと今度は沙夜香が口をとんがらせ文句を言った。
「仲良くないよ〜。渉美ナマイキだし〜」
「お姉ちゃん、ひっど〜い」
さっきまで話をしていた赤井と涼子が古葉姉妹のじゃれ合いを笑って見ている。
(まったく、あいつらリア充すぎてとんでもねーな)
良太郎は別にリア充たちの会話を聞くつもりはなかったが、乗客が自分と彼等しかいないのでどうしても会話が聞こえてくる。
地味で非リア充の良太郎からしたらキラキラしたリア充たちの会話を聞いてるのは拷問以外の何もでもない。
ただ、良太郎は地味だがよく見ると可愛らしい顔をしている。子供の頃は近所のおばさんから涼子と兄妹だと間違われた事もある。身長は165センチと高くはないが、もう少し見た目を変える努力をすれば女性にモテるはずだった。
だが、良太郎はそういう事にあまり興味がなく基本的に人と関わるのが苦手だった。いわゆるコミュ障というやつだろう。
友達と楽しい会話をするのも苦手だし、それを聞いてるのも苦手だった。友達も彼女も作る気など全くなかった。
(参ったなぁ。早く電車から降りてー)
寝たふりをしていた良太郎だったが、そろそろ自分が降りる駅だろうかと確認するため少しだけ目を開けた。
どうやらまだのようだ。
(それにしてもほんと誰も乗車してこないなぁ)
先ほどからいくつかの駅に電車は止まったが誰も乗車してこない。良太郎はその不自然さに気味が悪くなってきてもう一度、車両を見回した。すると自分とリア充以外にもひとり乗客が乗っている事に気づいた。
(あれ? いつの間に誰か乗ってる………………って、あれ。白井先生じゃん)
白井賢一。彼は良太郎の学校の担任教師だ。
(なんかおかしいぞ、先生だったら途中の駅から乗る訳ないし、ってことは俺たちと同じ駅で乗ったってことだよなぁ。そんなバカな……)
良太郎が不思議に思っていると、涼子が大きな声で騒いでいた。
何事かと涼子の方を見ると、なんと彼女以外の四人が椅子から転げ落ちて倒れていた。涼子は四人を起こそうとしていた必死で声をかけていた。だが何故か涼子も突如倒れてしまった。
良太郎は慌てて涼子たちの方へ駆け寄ろうとした。だが、急な眠気が襲ってきた。
(な、なんだ…… 急に眠く……)
バタッという音とともに良太郎は倒れて眠ってしまった。
………………そして起きたらこの草原にいたのだった。
(なんでこんな所にいるんだ……)
良太郎は起き上がり周りを見回すと涼子たちがすぐ近くで倒れていた。
「おい! 涼子!大丈夫か? 起きろ」
「う、う〜ん」
良太郎が涼子を揺さぶると涼子は目を覚ました。
「ど、どうして私、ここで寝てるの?」
「わ、わからない。確か電車に乗ってたはずなんだけど」
「あ、あれ? 良太郎くん。なんか久しぶりだね」
事態を飲み込めないのか、涼子は呑気なことを言っている。
「あぁ、よく寝たわぁ」
赤井たちも目を覚ます。
「お姉ちゃん……ここ、どこ?」
「わかんない……」
「な、なんだ。どうした?」
全員がこの状況を飲み込めずにただ呆然としていると、遠くの方から馬に乗った人物がこちらに向かってきた。馬がだんだんと近づくにつれてその人物が女性だとわかった。そして不思議な事にその女性は西洋の甲冑を身につけていた。
良太郎たちの前で馬が止まる。
皆、呆然とした顔で馬に乗った女性を見ていた。だが良太郎はすぐに彼女は日本人ではない事に気づいた。瞳は青みがかっていて兜の隙間から見える髪がブロンドだったからだ。
しばらく沈黙が続くと女性が日本語で言葉を発した。
「ようこそ異世界へ、救世主たちよ」
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