三 困惑とともに笑う男
困惑と憐みを笑顔で隠す男――
それには、今の自分がおかれている状況が事細かに書かれていた。宮本修二が既に先の長期間に及ぶ仕事の最中に死亡していること。自分が彼に何か起きた時の為の予備の体であること。これからは亡き宮本修二として生きる義務があること。そして彼が今現在している仕事についてである。
彼は、今宮本修二と名乗る男はつまり、所謂人クローンであった。
自分の人生が強要されていることにさして疑問を持つこともなく、彼は誰にも聞こえていないのを承知で小さく「了承した」と呟いた。
彼は宮本修二としての行動を開始した。とはいっても、彼には元である宮本修二の記憶がないし、厳密には別人であるために、かつての「彼」と同じ行動が出来るかと言えばいいえである。しかしどれだけ考えても仕方がないことだ。故に、彼は好きに動くことにした。どうせ上は仕事を宮本修二らしく行えば文句は言うまい。実際に、机に置いてあった紙――指令書には、私生活までらしくしろとまでは書かれていなかった。書いていないことまではやらない―まあまずもってできようもない―のが、今の彼の在り方である。それからは細々とした上からの仕事をこなしていった。
目が覚めてから――宮本修二として生きるようになってから一ヶ月ぐらい経った頃に、彼は
敬一と初めて会った翌日から、やはりと言うべきか、彼は修二につきまとうようになった。やはり「修二」は記憶喪失であると考えたようで、「彼」の脳を刺激するようなことをして、記憶を取り戻そうと行動を起こしたようだった。最初は彼に対する罪悪感と、図らずも自らが真似るべき「宮本修二」のことが聞けるとあって付き合っていたものの、中々記憶を思い出さない「修二」に対して、彼の行動は段々とエスカレートしていくようになった。最後に提示された銃で頭にゴム弾を撃つというものに命の危険を覚え、修二は敬一から逃げ回る事を選択したのである。
それから少しの間だけではあるが、彼は平穏を得た。逃げ回る中で気付いていなかったが、途中から敬一は、彼を追ってきてはいなかったのだ。
――ようやく諦めた、良かった。心底ホッとして、久し振りにゆっくり寝たいと、自室の寝室へと足を運ぶ。
快眠を約束するはずの場所で、修二は悪夢の始まりをみた。
自分にはもう安らぎはないのかと、思わずにはいられなかった。
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