幕間 彼と彼女と誰かの記憶
ねえアーク、と僕を呼ぶ声がする。
「前はタンクの強化をしたから……今日はアームの補強しよっか!」
そう言うと、彼は僕の腕をドライバーで取り外し始める。体の中をまさぐられるが、決して不快ではない。彼が純粋な気持ちで改良している事を知っているからだ。
プログラム上、スリープモードの僕は目を開けられない。でも、彼がどんな顔で僕の体を作り変えているのかは、手に取るように分かった。
ネジとギアとスプリング。大小さまざまなそれらを調整して、素材を変えて、配線を変更して……僕の体は、同型の彼らとは比べ物にならないほど成長した。
全てひとえに、彼の愛によるものだ。
「よし……できたよ」
やがて、改良を終えたらしい彼が、再度僕の体に腕を取りつける。
腹部にあるスイッチがオンに。全身に力が漲る。
瞼を開け、彼の顔を見る。僕の体を走るプログラムが、記憶されていた定型文を呼び出す。本当は、もっと自由に君へお礼を言いたいのだけど、こればっかりはしょうがない。
「コンニチワ! キョウモゲンキカイ?」
――――――――――
ギャンギャンと、聞いたこともない声でご主人様が怒鳴っている。
電話口の相手は誰なのだろうか。もしかして、私を作った人?
荒々しく電話を切ったご主人様は、私の髪を掴んで、乱暴に引きずっていく。
ああ、私、何か失敗しちゃったんだ。ごめんなさいご主人様。
お願い。もっと頑張るから。
もう私は貴方のそばには居られないの?
暗い地下室へ連れてこられた私は、すぐにスイッチを切られた。
ご主人様は相当に怒っているみたいで、私を掴んで何度も床に叩きつけた。
力任せに引っ張られたせいで、右足は醜い部分が丸見えになっている。恥ずかしい。
長い時間、私は罰を受けた。私が悪い事をしたのだから、しょうがないことではあるのだけど、それでもやっぱり、ちょっと苦しかった。
罰を与え終わったご主人様は、そのまま地下室を出ていこうとする。
待って、私を置いていかないで!
「お願いですご主人様!」
驚愕の表情で振り向いているご主人様の顔が見えた。
あれ……スイッチは切られてるのに……どうして? どうして私の目は見えているの? 声が出せているの?
ううん、そんなことはどうでもいい。喋れるんだから、ちゃんとご主人様に謝らないと。
申し訳ありません――そう言おうと口を開いた瞬間、獣のように叫び声をあげたご主人様の靴のつま先が、私の喉にめり込んでいた。
――――――――――
「あははははははははははははははははははははっははははっははっはは!」
「……何かおかしいのか?」
「本当に? 本当にそんなものでいいの?」
「ああ、それが私の望む全てだ」
「ま、少し面白みには欠けるケド……うん! わかった! 貴方の望みが最優先だものね!」
「……頼む」
「はいはーい。それじゃ……ま・た・ね?」
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