ホワイトルーム

月島ノブヲは白い部屋で椅子に座っている。生活に必要な最低限のモノ以外は何もない。政府が推奨する健全でクリーンなスタイルだ。ノブヲは眼をつむり記憶を研ぎ澄ましていた。脳が再生するビジョンはスタンリー・キューブリックの映画【時計仕掛けのオレンジ】である。


健全な国家を掲げる時の政府は絶対的健全国家法【絶健法】を制定。文部科学省内に警察権を上回る武装組織【文化監視隊】を組織した。


殺人・暴力・性的描写のある映画やテレビ、インターネットの映像を禁止した。また絵画や漫画についても同様の扱いとした。音楽についても1999年以前のクラシックのみが許可され、それ以外の曲は全て禁止された。


当然国民からは反対意見や不満が噴出した。だが権力は犯罪の根絶を理由にこれを黙殺した。


【絶健法】に違反した者は逮捕されない。違反を認定され次第【文化監視隊】により即座に射殺されるのだ。


月島ノブヲの想像は【時計仕掛けのオレンジ】の主人公アレックスがSinging in The Rainを歌いながらアルトラヴァイオレンス【超暴力】を解放するシーンに至る。ノブヲはメロディーを口ずさみそうになって止めた。もし隣部屋の住人が聞いていて通報されれば当局が直ぐに嗅ぎ付けて来るからだ。


初夏を迎える夜の都市。遠くで銃声が聞こえる。【文化監視隊】の正式採用小銃 H&K G3アサルトライフルだ。まるで音楽の様にリズムを刻む。

恐らく非合法ライブハウスあたりが摘発されたのだろう。


「タタタン。タタタン。」


ノブヲは眼を開き小さく呟くとまた眼を閉じて【時計仕掛けのオレンジ】の続きを想像するのだった。





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