エウレカの翼

僕は空を飛んでいる。


パラグライダー。ゆっくり降下しながら空を滑空する。


僕の名前はオルドリン。

グレートプレーンズにいる。

草原は何処までも続く。

大草原を這うもの。

M4シャーマン戦車の隊列。横一列に並び進軍する。その後ろを歩兵が続く。

アメリカ陸軍第34機械化旅団だ。

目的は我らの研究物。

宇宙船【エウレカ】であることは間違いない。


我々は完成させた。宇宙へ飛び立つロケットを。


奴等軍隊が、合衆国が、我々の研究を否定しようというのだ。


僕は仲間達が待つポイントへ向かう。絶対的な暴力が辿り着く前に。


銀色の塔が見える。

あれが【エウレカ】だ。美しい巨塔。まるでガウディのサグラダファミリアの様にそびえる。


着地する。直ぐ様パラグライダーと自分とを繋ぐアタッチメントを外した。

僕は【エウレカ】に向かい走り出す。


「早くしろ。オルドリン。」

「急げ。カウントダウンは始まっているぞ。」


僕が帰ることを待っていた二人の科学者ニールとコリンズが【エウレカ】のハッチで叫んでいる。


僕はタラップを駆け上がり【エウレカ】に搭乗した。


「よし、ハッチを閉じる。オルドリン。陸軍は直ぐそこまで来ているのだろう?」


ニールは真剣な顔で僕を覗き込んだ。その青い目は自信に満ちている。


「ああ。10マイルといった所だ。だが僕達の勝ちだ。」

「そうだな。奴等は永久に追ってはこれない。」


【エウレカ】の機械音声が船内に響く。


「ファイナルデパーチャーチェック完了。点火マデアト60セカンド。」


・・・・・・


「3、2、1、イグニッション。」


【エウレカ】がカウントを数え終えるとグレートプレーンズの大草原は目映い閃光に包まれていく。

ゆっくりと浮き上がる【エウレカ】我ら3人の科学者が開発した次元探索型飛行船は物凄い力で天空を突き破っていく。我ら3人は重力に支配される。第一宇宙速度を突破した銀色の物体は青い球体を見下ろす。2度と帰ることの出来ない片道切符。我ら3人の身体は重力の支配を逃れ浮遊する。

やがて第二宇宙速度すらも超えて


「コレヨリ次元転移ニイコウシマス。」


我らが開発した【エウレカ】の真の力は次元転移装置を利用したワープ航法だ。

我らの目的は宇宙へ出ることでも月に直陸することでもない。宇宙人にコンタクトをとることだ。

次第に船内の空間が歪んでいく。【エウレカ】はまだ見ぬ新世界へと飛翔した・・・。


気づくと僕は茶室にいた。オージャパニーズテイストホワイ?

訳がわからない。意識の混濁が伺える。

ニールは?

コリンズは?

二人は何処へ行ったんだ?


茶室の奥には見覚えのある顔があった。我が合衆国のプレジデントだ。ホワイ?


プレジデントはゴマフアザラシの赤ちゃんを抱き抱えている。つぶらな瞳が此方を覗き込んでいる。風鈴が鳴っている。夏だと気付いた。雷鳴が聞こえる。ポツリポツリと雨が日本家屋の屋根を、庭を叩く。やがて激しい夕立に包まれる。

何処から現れたのか大量のゴマフアザラシが茶室を埋め尽くしていく。僕は汗まみれになっていた。


僕は、混濁していく意識の中これは夢なんだな。と認識したのだった。














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