最終話 小森 琴美
今日は席替えだと先生に教えてもらったので、学校に久々やってきた。
友達がいない琴美に席替えなど、今まで無意味でしかなかったが、今年の二年生では特別なものになっていた。
好きな人、本田と隣になれるかもしれなかったからだ。
琴美は二年になってから、本田に一目惚れした。一番好きなのは顔だった。琴美にとっては、どんなジャニーズやアイドルよりもかっこよかった。琴美の好きなアニメの主人公に少し似ているので、好きになったのかもしれない。
そんな本田と隣同士になれる可能性がある席替えだけには、毎回学校に来ていた。その時の席替えで、もし本田と隣同士になったら学校に通うつもりだった。ずっと隣で本田を見ていられるからだ。
最悪仲良くなんてなれなくていい。勿論、本田と色々話したいが、琴美には難易度が高かった。今まで友達も出来たこともなかったのに、好きな男子と上手く話せるとは思えなかった。なので、ずっと隣で眺めるだけで満足だった。あわよくば、本田から話しかけてくれることがあれば、それはラッキーだった。そんなことはないと、琴美は分かっていたが。こんな地味でオタクでキモくて不登校の琴美に話しかけてくれる人なんて変人しかいないだろう。
そして席替え。
琴美は神様は本当にいるんだと思った。琴美は何度も黒板の席表を確かめた。
ほ、本田くんと隣!?
嬉しすぎて硬直した。脳がしばらく停止していた。気づいた時には、隣に本田がいた。
心臓が飛び出るくらいに、ドクドク鳴っている。隣の本田にも聞こえそうなくらいだった。
心做しか、本田の方から視線を感じる。琴美は意を決して本田の方を見た。
すると、目が合った。本田はすぐに目を逸らした。
もしかして……私のこと好きなの?
そんな馬鹿な考えが頭を過ぎった。それが馬鹿な発想と分からないくらいに、琴美の頭は冷静ではなかった。
もう一度、本田の方を向く。前を向いていて、どこか残念そうな表情にも見える。その顔さえ、愛おしく思えた。
そんな琴美が恋心に浸っていると、悲劇は訪れた。
「もう嫌やって! 誰か変わってや!」
名前は知らないが、スクールカーストの上位であろう男子が、馬鹿みたいに喚いている。周りの連中もそれを楽しんで笑っている
「ざまあみろ」
琴美は小さく吐き捨てた。
「お、俺変わったるで」
「え?」
思わず、琴美の喉からそれが漏れた。
「え、うそやろ!? まじで!?」
「俺、目悪いから前の席がいいねん」
「よっしゃぁぁ!! ほな交代しよ!」
「おう!」
待って待って? 嘘? ダメだよ本田くん! 変わっちゃヤダ! ずっとここにいてよ!
本田に訴えるように眼差しを向けるが、当然本田はこちらを見向きもしてくれない。本田はどこか楽しそうで、今にもスキップでもしそうなくらいだった。
琴美の好きな人が離れていく。
幸せな一時は一瞬で幕を閉じてしまった。
大好きな本田の代わりにやってきたのは、さっき喚いていたクラスで人気らしい男。
「小森さん隣やな、よろしく」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
「一応自己紹介すると、俺は真部、真部 慎太郎。小森さんの下の名前は確か琴美やったよな? あってる?」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
琴美は筆箱からカッターナイフを取り出した。
席替え 池田蕉陽 @haruya5370
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