第3話 真部 慎太郎
まさかの出来事が起きた。慎太郎は神様を信じた。
慎太郎は半ば諦めつつも、誰か席を変わってくれと頼んだが、本田が目が悪いからという理由で変わってくれたのだ。慎太郎の心にお花畑が広がった。
本田の席が一番後ろだったから、心に花が咲いたわけでなかった。理由は二つあった。
一つは、橋本 茉莉奈と離れられたからだ。慎太郎は席が1番前なので嘆いたが、本当は違った。隣が橋本だったから嘆いたのだ。慎太郎は橋本が大嫌いだった。よく陰口を言ったり、何度も小森 琴美の容姿を馬鹿にしたり、友達の悪口を吐いているのが、耳に嫌々入ってくるのだ。
しかし、橋本から離れられるだけでは慎太郎はこんなに心を踊ろらせていない。肝心なのは二つ目の理由、それは隣に小森がいたからだ。
慎太郎は二年になってから、小森のことが好きになった。小森は何故か学校に来てないことが多いのだが、来ている時があれば、その日の慎太郎は幸せな気持ちになれた。
小森のどこが好きかときかれれば、ミステリアスな部分と答える。あと、普通に顔もタイプだ。あれはメガネを外すと、絶対に化けると慎太郎は確信していた。
そんな小森と仲良くなりたかったのだが、小森は友達がいないようなので、情報もきけないし、そもそも学校もあまり来ないので、喋る機会も中々ない。
だからこれはチャンスだった。学校にはあまり来ないが、たまに来た時は席が隣なので喋れる。それを繰り返していけば、徐々に慎太郎に心を開いてくれるはずだと思っていた。
慎太郎は本田に感謝してから、早速小森に話しかけた。
「小森さん隣やな、よろしく」
慎太郎は満面な笑みを浮かべ、小森に敵意がないことを示した。
小森が何かを言おうとして口を開けたが、声が聞こえない。ただ、唇が小刻みに動いているだけだった。緊張しているかも知らない。慎太郎はリードしてあげないと、と義務感を覚えた。
「一応自己紹介すると、俺は真部、真部 慎太郎。小森さんの下の名前は確か琴美やったよな? あってる?」
名簿を見て覚えたので、間違いはなかった。安心させるために、穏やかな口調で話す。
しかし、それでも小森さんはずっと口を細かく動かしているだけだった。若しかすると、物凄い小声で話しているのではと思い、周りの音を遮断して、小森の声を聞くことだけに集中した。
やはり、何かごにょごにょ言っていた。
慎太郎はさらに耳に神経を研ぎ澄ませ、小森さんの声を聞こうとした。
小森がなにをごにょごにょと言っていたのか、ようやく分かった。
分かった時には、もう遅かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます