第2話 橋本 茉莉奈


 隣の席が真部だと知った時、茉莉奈は嬉しすぎて発狂しそうだった。真部と隣になれますようにと祈願し続けた結果、神様が叶えてくれたのだ。


 なのになんで?


 真部が半ば冗談で席を変わってくれという言葉に、本田が目が悪いという理由で承諾したのだ。


 私は思わず、心の中で本田死ねと暴言を吐いてしまった。


 目が悪いなら、席替えする前に自己申告しろや!!!! と吐き散らしたかった。


 神様は茉莉奈を裏切った。天国から地獄に落とされた気分だった。


 茉莉奈は本田が嫌いだった。顔は普通、笑い方がキモイ、話の膨らませ方が下手くそ。その程度のレベルのくせして茉莉奈によく話しかけてくるので、かなりウザイ。


 最近になって、ますます茉莉奈に突っかかってくるようになった。たまたま目が合ってしまった時には、背筋がゾクッとしてしまうほどだ。一番萎えたのは、前話している時に本田の鼻の穴から一本の鼻毛が出ていて、ゆらゆらと揺れている時だった。


「よ、隣やな」


「う、うん」


 今は鼻毛は出ていないが、少し出ているのではと探している自分がいた。


 せっかく真部とお近付きになれるチャンスだったのに、最悪だ。


 真部は茉莉奈のドストライクゾーンだった。ジャニーズ顔で、筋肉もあり、頭もよく、コミュ力もある。将来は絶対成功しそうだった。茉莉奈と釣り合う男をようやくこのクラスになって見つけたのだ。茉莉奈は真部を手放すつもりは無かった。結婚のことまで妄想してしまう時もある。


 この席替えを機に、一気に仲良くなるチャンスだったのに……。


 茉莉奈は本田に対する殺意が増幅していった。だからって殺す訳にもいかない。


「どうしたん? なんか顔色悪いで」


「あ、いや別に」


 お前のせいだよ。あと、面倒くさいからいちいち話しかけてくんなよ、と茉莉奈は毒づいた。


 茉莉奈は次の席替えまで本田と隣ということを改めて認識すると、吐き気がしたので、本田には今すぐにでも茉莉奈を諦めてもらおうと、告白される前に振ることにした。逆になんで今まで早く振らなかったのか、茉莉奈は疑問に感じた。


「本田って、私のこと好きでしょ?」


「へ?」


 意表をつかれたようで、本田は目を丸くしている。目も泳ぎ始めた。その顔を何かに例えるとしたら、死んだ金魚だった。


「だったらごめん、私そんなつもりなかったから」


「は、は? いや、別に好きちゃうし」


「そう? ならよかった」


 男の嘘は丸分かりだ。本田の声は震えていた。本田は前を向き直ったが、心做しか目も潤んでいる。茉莉奈は引いた。


 不愉快な心を癒すため、茉莉奈は後ろを振り向き、真部の顔を見た。かっこいい。カッコよすぎる。今、茉莉奈の心を癒せるのは真部の顔だけだった。


 癒されていたが、茉莉奈の心の中を黒く染める現場を目撃してしまった。


 ま、真部くんが隣の女子と話している!? それも楽しそうに!!!


 あんなに真部が楽しそうにしているのは初めて見たかもしれない。体育祭の時もあんな輝いた顔はしていなかった。


 相手は誰?


 顔をずらし、真部の話し相手を確かめる。メガネで地味で不登校の冴えない女子。名前は覚えていない。茉莉奈は怒りに満ちた。


 なんであんなキモオタブスと話してんのよ!


 その時だった。


 茉莉奈は目を疑った。

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