1-6 【犯人はお前だ】

10月19日 2:57


ハルカの家で休んでいたきょうは電話の着信で目を覚ました。電話はナナからだった。

ナナは恭に、先ほど聞いた話を伝えた。そして最後に、こう告げた。杉山千歳すぎやまちとせが事件の犯人かもしれない、と。


13番街の事件は、恭もハルカから聞いていた。しかし、杉山千歳が嘘をついていたにしても、事件の犯人である証拠はない。ただの偶然かもしれない。

今から来てほしいというナナに、恭は一瞬迷ったが、素直に従うことにした。ナナと恭が顔を覚えられている以上、ナナを一人にするのは危険だと判断したし、そして何より、杉山千歳が恭に構う理由が知りたかった。


ハルカに帰る、と告げると、バイバ〜イまた来てね、とゆるい返事が返って来た。恭は制服を着る。軽いキスをして、恭は部屋を出た。



***



10月19日 03:17


ハルカの家からナナの家まで、さほど遠くはなかった。


ナナの部屋のインターホンを押すと、いらっしゃい。とナナが出てきた。てっきり恐怖で震えていると思ったが、どことなく落ち着いているようだ。ナナはホットコーヒーを入れてくれた。


「アイツ、今部屋にいるの?」

ホットコーヒーを飲みながら、恭はナナに尋ねる。ナナは小さく、分からないと呟いた。

「インターホン押そうと思ったけど、1人じゃ怖くて…。ねぇ、恭クン、たずねてみない…?」

「え?」

ナナの突然の提案に、恭は驚く。殺人犯かも知れないのに、部屋に入ろうというのか。


「都市伝説や事件は13番街で起こっているし、何も知らない感じで部屋を見たいと言ってみようよ。駄目だったら、駄目だったでおとなしく帰ったらいいからさ…どうかな?」


知らないふりをして、杉山千歳の部屋を見せてもらう。そこにきっと何かしらのヒントがあるに違いない。ナナはそう言った。


「早速行こう!」

ナナは恭の腕を引いた。

「え、今?もうこんな時間だし…」

うろたえる恭に、ナナは強気に言う。

「大丈夫!この前あの人4時くらいに出歩いてたし!ピンポンして出なかったらおとなしく帰ろう」


こうして、恭は半ば強引に杉山千歳の住む503号室のドアの前に引っ張られた。




ーーーピンポーン


503号室のインターホンを押す。

しかし、返事はない。もしかすると寝ているのか、恭が諦めて帰ろうと言おうとする前に、ナナが、恭クンと話しかけた。


「ドア、開いてる…」

ナナはドアに手をかけた。恭が制止する前に、勢いよくナナがドアを開ける。


「なんだこれ…」

ナナと恭の目の前に広がったのは、白とピンクのレースカーテンがあしらわれた、可愛らしい玄関だった。靴も、全てハイヒールだ。

「趣味かな…」

「違うと思う…」

弱々しくナナが言い、そのあと弱々しく恭が言う。見るからに女の子の部屋で、杉山千歳の部屋だとは到底思えなかった。名前を呼んだが、家主がいるような雰囲気はない。


「やっぱりこの部屋はあの人の部屋じゃないわ……ねぇ、行ってみない?13番街に。」


ここまで来たら、気になってしまうのだろう。怖いもの見たさとでも言うのか。ナナのこの発言にどこか納得しながら、恭も頷いた。


恭もまだまだ好奇心旺盛な子供だったのだ。




***




10月19日 03:46



ナナと恭はタクシーに乗り、13番街へ向かった。


運転手には怖いところへ行かない方がいい、と忠告されたが、別に杉山千歳がそこにいなければそれでいい、と恭は思っていた。その方がありがたい。


タクシーを降りると、冷たい秋風が頬を撫でた。夕方に降った雨が、気温を下げたのだろう。しかし、この13番街はどこか、寒気がする空気だった。


「確かこの辺よ…」

ナナは同期に聞いた話を思い出しながら、現場へ向かう。現場は13番街の奥にある、行き止まりの路地だった。恭は警察が張り込んでいるかと思っていたが、時間が時間なので誰もおらず、黄色いテープだけが風になびいていた。


誰もいない。やはり気のせいだったのか。





「よく来たね」



「「!」」


上の方から声が聞こえる。恭の身長よりも少し高いブロック塀の上に、暗くてよく見えないが、杉山千歳がしゃがんでいた。



驚く恭に対し、やっぱりね…と呟きながら睨むナナ。

杉山千歳は、よっ、と言いながら、ブロック塀から飛び降り、2人の前に姿を現した。

街灯が杉山千歳の顔を照らす。その顔は、笑っていた…。



「ようこそ〜。13番街へ」


ヘラヘラしながら2人に近づく杉山千歳。2人は後ずさっていた。やはり、アンタが犯人だったのか。恭はそう言いたいが、声がうまく出ない。自分が怯えていることに気づいた。


2人の様子に気づいていないのか、気づいていないフリをしているのか…。杉山千歳は顔を変えずに明るい声で話す。


「絶対に来ると思ったんだ。挨拶も君たちにしかしてないし、今日わざわざ部屋のドアも開けておいた。」


恭は驚愕した。全てこの人の計算だったのか。オレらはこの人に踊らされていただけなのだ。

逃げないと。逃げないと殺される!恭は慌てて、ナナの手を引こうとナナの方を向くが、ナナの顔は怒りを帯びていた。



「ナナさん…?」

思わず恭がナナに声をかける。ナナは恭の声が聞こえていないようだ。ずっと杉山千歳をにらんでいる。騙した杉山千歳に怒っているのだろうか。



構わず杉山千歳は話す。

「それに…昨日の事件、あれも俺がやったんだ。ちょっと模倣[コピー]の力を借りてね。」


そう言って、こちらに何かを放り投げた。


「ヒッ」

右腕だ。恭は悲鳴をあげる。恭は先日起きた右腕だけがここに残っていた事件を思い出した。どういうことだ。模倣[コピー]ってなんだ。力ってなんだ。どういうことなんだ、腕は警察に押収されたはずじゃ。どうしてここに腕があるんだ。もしかして、別の人の腕なのではー…


「これはレプリカだから安心して」

恭の表情を悟ったのか、杉山千歳が優しくいう。


「ちなみに、あの時使ったのもレプリカ。24時間経ったら消えるやつ」

消える?腕が?わけわからない。杉山千歳は気にせず続ける。



「同じ場所で同じような事を起こせば、それだけで人は同一犯だと思う。オマケに腕が残っている事で都市伝説が、一気に事件になる。


そうなって一番焦るのは誰だと思う?柏木恭くん」


杉山千歳からの不意の質問にびっくりする恭。たどたどしく答える。


「え…犯人?」


「その通り!さすが恭く〜ん。犯人は予期せぬ出来事にびっくりして、必ず現場に戻って来るよね!」


明るい声色で話す杉山千歳だが、そのあと真顔になり低い声でこう言った。







「だから戻って来たんだろう?



ナナ」



ナナは、小さくわらった…。

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