川上安祐美

「はっ!」


ガタンゴトン、ガタンゴトン。

目を開けると、僕は電車に乗っていた。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

電車は動き続けている。


何だ夢かと思い、目が覚めた。

しかし、体が異様にだるく眠かった為、そのまま目を閉じた。


あんな悪夢二度と見たくないな。

帰ったらいつも以上に家で家族とゆっくりしよう。

そんなことを考えていると、そのまま眠ってしまった。


・・・。


「お客様!

 お客様!

 終点ですよ!」


聞き覚えのある声がしたので目を開けてみると、知らない男性駅員が僕の前に立っていた。


「もー、いっつもいっつも困りますよー。

 ほら、早く起きて下さい。」


全身のありとあらゆる所がだるかったが、駅員さんに迷惑だと思い直ぐ様立って出ようとした。


「お客様お荷物お忘れですよ。」


駅員はそう言うと、見覚えのないバックと高級そうな袋を渡してきた。

僕は自分のじゃないと思ったが、何故か自然と手が伸びてつかんでいた。


「ありがとうございます・・・。」


「どういたしまして、またのご利用お待ちしております。」


駅員さんは一礼してから、どこかへ走っていった。

僕もとりあえず早く帰ろうと思った。

ふと、上を見上げると『島田駅しまだえき』という看板が見えた。

僕は少し息を吹き安心した。


「帰ってきた。」


僕は一緒にいたはずの友達のこといないことに少し不審に思ったが、それよりも気になることがあった。

明らかに何もかもが違う恰好かっこう、声。

僕は変だと思い、近くのトイレへと駆け込んだ。


声が出なかった。

鏡を見ると、僕は同じクラスの川上安祐美かわかみあゆみそのものになっていた。


私が鏡を見ながら唖然あぜんしていると、トイレに入ってきた男性が「わあっ!」という声を出して驚いていた。


「すみません!」


私は直ぐ様トイレから出て、駅のベンチに座った。

意味が分からなかった。

きっとこれは夢だ。

そう自分に言い聞かせたが、明らかに現実であることは雰囲気ふんいきでわかった。

数分間塞ふさんでいると、誰かに肩を軽く叩かれた。

見るとさっきの駅員さんだった。


「どうして泣いているんだい!?」


駅員さんは私が泣いていることを知ってびっくりしていた。

私はまたふさんだ。


「まさかまたここで変なやつに何かされたのか!?

 もしそうだとしたら、俺が今から捕まえてきてやる。

 特徴を教えてくれ。」


駅員さんは必死に泣いている私の正面に立って両肩を掴んだ。

私は顔を上げて首を横に何回も振った。


「それなら良かった。

 何で泣いているかは分からないが、もし話したいことがあるなら聞くぞ。」


駅員さんは優しい声で私に声を掛けた。

私は「ありがとう」と一言言って、「大丈夫です。」と答えた。


駅員さんは一言「分かった」と言って、それ以上はこのことについて聞いてこなかった。


「そうだ!」


駅員さんが何かを思い出したように駅員バックの中の何かを探していた。


「あった!

 これ確か君のだろ?」


駅員さんがそう言うと、メロンのキーフォルダーが付いているスマホを渡してきた。

一瞬自分のじゃないと言いかけたが、口が「はい。」と答えた。


「良かった。

 君が座っていた座席の下に落ちてたんだよ。

 いつもの癖で、しっかり全車両点検しといてよかったよ。」


駅員さんは一人達成感の満々の顔をしていた。


「それではそういうことで、もう時間も晩いことだし、

 今日は真っすぐ家に帰んなよ。

 それでわ!」


駅員さんはそう言うと、全力で事務所へと走って行った。

遠くから見ると、上司らしき人に頭を何回か下げていた。


私は事務所の方に一礼して、「ありがとう」と呟いた。

頭を上げると、駅員さんが頭を下げながら私の方に親指を立てていた。


私はそれを確認して駅を後にした。

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