4話―①『暴走竜』

 雨が降り始めた。ざあざあと、大粒の雨。そのおかげで、一部燃えていた・・・・・芝生は鎮火された。俺はその横を走りすぎる。

 ヒュドラが空に放った魔法弾―――正体は何だか分からないが、雷を誘発するものだったんだろう。もしくは、雷を生み出したか。どちらにせよ厄介だ。



「キャアアアアッ!」



 校舎内から悲鳴が多数聞こえてくる。今の落雷でどれくらいやられたのだろう。窓際にいた奴らは全滅だろうな。



「ギュオオオオオオオオオオッ!」



 長い尾を振るい、ヒュドラが校舎を破壊した。崩壊した穴に向かって、紫色の魔法弾を放つヒュドラ。着弾すると、そこ一帯に紫色の薄い煙が充満した。直後、苦しそうにむせ始める生徒達。

 まさか毒か……? 本格的にヤバイぞこれ。



「教師連中は何やってんだよ……」



 ヒュドラの思うままに校舎が破壊されていく。このままじゃ学園潰されるぞ。いいのかよ。



「神空君! どういうことなの⁈」



 校舎に入ろうとしたら、紫乃が中から駆けてきた。お前は無事だったのか。窓際にいたくせに。



「ヒュドラを召喚した。だけど想像以上にデカかった」

「僕もあんなに大きいの見たの初めてだよ!」

「おい。お前、蘭李と朱兎見付けてこい」

「え? どうして?」



 こいつに頼み事をするのは癪だが、緊急時の今は仕方が無い。



「二人を守ってくれ」



 唖然とする紫乃。しかし、すぐににっこりと笑った。



「任せてよ! 必ず二人を守ってみせるね!」



 正直こいつがどのくらい強いのかなんて知らない。が、二人を野放しにしておくよりはマシだ。たぶん桜井と一緒にはいるだろうが、万一のことを考えると……。



「ギュオオオオオオオオオオッ!」



 ヒュドラの鳴き声が轟いた。うかうかしてられねぇな……。



「じゃあ頼んだぞ!」

「神空君も気を付けて!」



 再び校舎から中庭へと向かった。ヒュドラは新たな魔法弾を撃とうとしている。それは真っ黒だった。俺は魔導石を左手で握り締め、呪文を唱えた。



「ソーマ・プロードス」



 跳躍すると、余裕でヒュドラのもとまで届いた。空中で右手に魔力を込める。青い光を放ちながら、巨大な槍を作り出した。

 ちなみに今のは魔導石の魔法ではない。そっちよりも自分の魔力の方がよっぽど速いし精度もいいからな。

 槍の柄を掴み、勢いよくヒュドラへと投げた。槍はヒュドラの腹に突き刺さった。その反動で、奴が溜めていた魔法弾が無造作に放たれる。うち一つが俺の方へ飛んできたが、結界を張って難を逃れた。



 ――――――ドォオオオオオンッ



 ヒュドラが中庭に落ちる。再び右手に魔力を込め、今度は巨大な剣を作り出した。それを持って、勢いよくヒュドラへと投げる。剣はヒュドラの首一つに突き刺さった。



「ギュオオオオオオオオオオッ!」



 八つの首が魔力を溜め始める。その内一つが、先に魔法弾を放ってきた。グレーの魔法弾―――俺は結界でそれを防ぐ。

 が、着弾した瞬間、結界が一瞬で消えた・・・



「なっ―――」



 直後、眼前に魔法弾が迫っていた。瞬時に結界を張り直すが、遅かった。もろに食らい、落ちていく。地面に体を叩きつけた。痛みが全身に広がる。

 なんだ今のは。結界が消された? そんなことが出来るのは、無属性の魔法だけだ。



「ギュオオオオオオオッ!」



 察知し、すぐにその場から跳んだ。直前までいたところに、魔法弾の雨が降り注ぐ。ついでに降り続いている雨も、強さを増していた。

 マズイな……もしやあいつ、多属性の魔法が使えるんじゃないのか? 雷に無属性、それと恐らく毒………。



「神空!」



 声のした方を見ると、藍崎がいた。目立った外傷は無さそうだ。



「大丈夫か⁈」

「ああ。悪いがこいつは還すぞ。このままじゃ危険すぎる」

「待ってくれ! 少しだけチャンスをくれ!」

「はあ⁈」



 馬鹿かこいつは。こんな大物、お前の手に負えるわけないだろ―――そう言っても、藍崎は聞きやしなかった。



「頼む! 少しだけ! 本当にヤバくなったら還していいから!」

「簡単に言うけどなあ……」

「ギュオオオオオオオオオオッ!」



 俺と藍崎に尾が振るわれる。間一髪で避けた。校舎の方を一瞥し、着地と同時に俺は藍崎に叫んだ。



「ほんの少しだけだぞ!」

「ありがとう! 神空!」



 俺達はヒュドラに向き直った。

 さあ……この暴走竜、藍崎は手懐けることが出来るのか。

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